墓じまいをする理由は?
「先祖のお墓の管理ができなくなることを考え、永代墓がその点安心だと思い決めました」(福岡県/女性)
「自分たちに子供がなく、母が無宗教と判明、自分たちも異教のため。母も高齢なので墓じまいを決断しました」(神奈川県/男性)
「居住地が遠く、墓守の両親も高齢で定期的なお墓参りをすることができない状態。使用中のお墓は納骨数が規定数に達しており、今後追加で納骨をすることも出来ないため、墓じまいして、近くのお寺へ改葬することが必要となった」(東京都/男性)
このように、墓じまいする人の多くはその理由に管理・継承の難しさを挙げています。維持管理ができないことが見込まれる場合、管理不要のお墓に改葬することが望ましいのですが、そのためにかかる費用や手間を考え、なかなか行動に移せないという人も少なくありません。
「墓じまいを無視」お墓はどうなる?
墓じまいとは、お墓の墓石を解体・撤去し、墓地を更地にして使用権を管理者に返還する一連の作業のことです。墓じまいを無視してお墓を放置すると、最終的にお墓が強制撤去される可能性があります。また、撤去工事にかかった費用の請求をされることがあります。
しかし、いきなり撤去されるわけではありません。お墓の管理費を支払っていない状態が一定期間続くと、お墓が撤去されることがあります。
お墓の撤去は、次の流れで行われます。
2.官報に氏名が掲載され、使用者確認の告知を受ける
3.告知を無視すると、無縁仏としてお墓が撤去される
4.ご遺骨が取り出され、合祀される
5.墓石の撤去と更地作業が行われ、次の使用者の募集が始まる
官報に氏名が公示される
お墓の所有者は、寺院や霊園といったお墓の管理者に対して管理費を支払います。管理費とは、お墓を置いてもらうための費用や、施設の維持管理費のことです。
管理費の未納・滞納が続くと、お墓の所有者に対し、支払いに関する督促が届きます。督促に対して何も連絡せずにいると、お墓の見えやすいところに立て札が立てられたり、官報に掲載されたりします。官報とは、国が発行する機関紙のことで、法令等の制定・改正や裁判内容などが掲載されています。
このように、「いきなり撤去」されるのではなく、まずはお墓の所有者に対する注意喚起が行われます。
無縁仏として撤去される
管理費を未納・滞納しても、すぐにお墓が撤去されるわけではありません。しかし、管理費の督促や官報の氏名公示を一年間無視すると、無縁仏としてお墓の撤去手続きが進められてしまう可能性があります。
無縁仏とは、親族や承継者がおらず、管理する人がいなくなったお墓のことです。いわゆる、無縁墓(むえんぼ)です。墓石の撤去と更地作業が行われ、お墓の強制撤去が済んだあとは、次の使用者の募集が始まります。
一部の自治体では、無縁仏の増加を防ぐために墓じまいの補助金を支給しています。墓じまいの費用負担を軽減したいとお考えの方は、お墓のある自治体の窓口に確認してみましょう。
ご遺骨は合祀される
無縁仏としてお墓が強制撤去されると、お墓に納められていたご遺骨は取り出され、ほかの無縁仏と一緒に合祀されることが一般的です。
合祀されたご遺骨は、二度と取り出せません。合祀されることを知らずにお墓の管理者からの通知や連絡を無視すると、取り返しのつかない事態になってしまうため、注意が必要です。
公営墓地・民間霊園では撤去されないこともある
公営墓地は、墓石撤去や整地作業などの費用が税金でまかなわれています。無縁仏が出るたびに撤去していると費用負担が大きくなるため、管理費の未納・滞納があっても公営墓地ではすぐに撤去されない傾向にあります。
また、民間霊園では、墓地区画に余裕があれば、いきなり撤去される心配はありません。
「墓じまいを無視」が許されないお墓の後継者とは?
「自分がお墓を承継することはないだろう」と思っている方は要注意です。なぜなら、誰もがお墓の後継者となる可能性があるからです。
お墓は祭祀財産に分類されます。祭祀財産とは、先祖を祀るために必要な財産のことです。建物や現金などの相続財産とは異なり、分割ができず、承継する人を1人決める必要があるものと定められています。
民法第897条の規定は、次のとおりです。
第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
(引用:民法第897条|e-Gov法令検索)
この条文では「慣習によって後継者を決めるが、被相続人(故人)の指定があればその者が承継し、それでも決まらなければ家庭裁判所が後継者を決める」ということが定められています。つまり、被相続人(故人)の指名がなければ、誰もが後継者になる可能性があるということです。
墓じまいを無視した場合のお墓の後継者に対する負担とは?
墓じまいを無視すると、将来的にお墓の後継者にはどのような負担が生じるのでしょうか。次のようなことが考えられます。
・お墓の管理者との付き合い
・管理費やお布施代などの支払い
このような負担を避けたい場合は、早い段階で墓じまいを検討すべきです。
墓じまいの費用相場
墓じまいでは、一般的に次の費用が発生することがあります。
墓石の撤去費用
墓石の撤去費用の相場は、1m2あたり約10万円です。
基本的に撤去費用には、お墓にある墓石を解体・撤去して処分する費用、墓地区画の整地・更地にする費用が含まれています。
閉眼供養のお布施代
お墓からご遺骨を取り出す際、僧侶を招いて、お墓に対して故人の魂を抜き取るための儀式を行う必要があります。その儀式が閉眼供養です。
一般的に閉眼供養では、読経をしてくれた僧侶にお布施を渡します。寺院によりさまざまですが、お布施代の相場は3万円〜5万円と言われています。
離檀料
寺院が管理するお墓においては、離檀料が発生するケースもあります。離檀とは、檀家を辞めることを意味します。
離檀料は、これまでお世話になった謝礼として寺院に納めるお金です。離檀料の相場は、3万円〜20万円と言われています。
行政手続き費用
墓じまいでは、ご遺骨の取り出しやお墓の移動などがともなうため、行政上の手続きが求められます。手続きには、自治体や寺院などが発行した書類が必要です。必要な書類は次の3点です。
・受入証明書:新しい納骨先から取得
・改葬許可証:「埋蔵証明書」「受入証明書」を提出し、市区町村役所から取得
上記の証明書類の発行にかかる費用を合計すると、行政手続きの費用相場は数百円〜1,500円程度になります。
新たな納骨先を用意する費用
お墓から取り出したご遺骨は、何かしらの方法で供養しなければなりません。供養するためには、新たな納骨先が必要です。
新たな納骨先を用意する費用の相場は、5万円〜250万円です。なぜ費用に大きな幅があるのかというと、どの方法で供養するかによって金額が異なるからです。一般的に選ばれている主な供養方法と費用相場は、以下のとおりです。
・一般墓:80万円~250万円
・納骨堂:10万円〜150万円
・樹木葬:20万円〜80万円
・散骨:5万円〜70万円
開眼供養のお布施代
以前のお墓から取り出したご遺骨を新しいお墓に納める場合、僧侶を招き、お墓に対して開眼供養を行う必要があります。開眼供養とは、お墓に故人の魂を入れるための儀式です。
開眼供養では、読経をしてくれた僧侶に対してお布施を渡します。閉眼供養同様、寺院ごとに異なりますが、お布施代の相場は3万円〜10万円です。
このように、墓じまいにかかる費用はいくつかありますが、実際の費用は地域・作業環境・石材量・どんな施工方法かによって大きく変動いたします。
以下は一例ですが、
・関西は石材が少なく、処分料が軽減できる
・四国は処分料が高い
・九州は立派なお墓が多く、石材量が多いので高額になりやすい
など環境やお墓によりさまざまです。
墓じまい費用の一例
・都立八王子霊園(4.0m2)
石材撤去費0.5t/ユニック車1台/運搬車1台/作業員2名/雑費
◎総額 14万250円(税込)
・兵庫県共同墓地(1.0m2)
石材処分費1.5t/コンクリート処分費0.5t/残土処分費0.5㎥/クレーン付きトラック1台/カートクレーン1台/運搬車1台/ブレーカー/道具損料/作業員2名
◎総額 24万5,750 円(税込)
・埼玉県寺院墓地(10m2)
石材処分費3.0t/コンクリート処分費8.0t/残土処分費 4㎥/クレーン付きトラック6台/カートクレーン なし/運搬車 なし/ブレーカー3台/道具損料/作業員12名
◎総額 106万1,500円(税込)
※あくまで一例ですので、同じ墓地・霊園でも条件により変動がございます。
荒れ果てたお墓を放置するより、墓じまいの検討を
今回は、墓じまいの方法や費用相場に関する情報、墓じまいを無視した結果お墓がどうなるのかについて解説しました。
お墓の撤去に抵抗を覚える方もいますが、荒れ果てたままお墓を放置される方が、ご先祖様や故人にとっては悲しいことかもしれません。お墓の維持管理が難しければ、墓じまいを検討してみてはいかがでしょうか。