毎年「約3,000人」が亡くなる…最近、日本で死亡者が増えている「女性特有のがん」【医師が解説】

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鈴木 陽介
毎年「約3,000人」が亡くなる…最近、日本で死亡者が増えている「女性特有のがん」【医師が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

「がん検診」は受けていますか? 市区町村から送られてくる「がん検診」のお知らせ、忙しさの中で見落として捨てていませんか? 実は最近、日本では「子宮頸(けい)がん」で亡くなる方が増えています。本稿では産婦人科専門医・鈴木陽介氏が、子宮頸がん検診があなたや大切な人のいのちを守る可能性があるということをお話します。

毎年の「子宮頸がんによる死者」は交通事故死より多い

(※写真=PIXTA)
(※写真=PIXTA)

 

2023年6月2日、厚生労働省が2022年の人口動態統計の概数を公表しました。その統計によれば、2022年に日本で子宮のがんで亡くなった方は7,156人でした。2018年から2021年までは6,800人程度で横ばいだったため、2022年に急増したことが明らかになりました。

 

国立がん研究センターの統計によれば、この2018年から2021年の各年約6,800人の死者のうち、約2,900人が子宮頸がんでした。まだ2022年の内訳は発表されていませんが、もし同様の割合であると仮定すると、子宮頸がんによる死者数は3,000人を超え、これまでの最多記録である2,921人(2019年)を更新することになります。

 

2022年の交通事故による死者数は全国で約2,600人であり、子宮頸がんが交通事故よりも多くの命を奪っていることがわかります。

 

日本では年間約1.1万人の女性が子宮頸がんにかかっています。以前は年配の方が多くかかる傾向にありましたが、最近では30代から50代でかかっている人の割合が増え、20代でも珍しくありません。

 

少し古い話ですが、TBSドラマ「コウノドリ」をご覧になりましたか? 綾野剛さんが演じた主人公サクラ、彼のお母さんはサクラを産んだ後に命を落とすのですが、その原因はサクラを妊娠中に判明した子宮頸がんでした。実際、2021年に子宮頸がんで亡くなった女性のうち約500人が40代以下です。もちろん70代や80代で診断されている方もいるので、子宮頸がんは、どの年齢の女性にとっても無視できないがんだといえます。

自覚症状はないが…子宮頸がんには「発症の前段階」がある

(※写真=PIXTA)
(※写真=PIXTA)

 

それでは、子宮頸がんとはどのようながんで、どんな特徴があるのでしょうか? 子宮にできるがんのうち、子宮の入り口近くの「頸(けい)部」と呼ばれる部分にできるがんが子宮頸がんです【図表】。

 

(※画像=PIXTA)
【図表】 (※画像=PIXTA)

 

この部分は体の内外をつなぐ場所であり、がんができやすいことが知られています。子宮のがんには他に子宮の内側を覆う細胞からできる子宮体がんなどがあります。

 

がんの発生の原因はさまざまですが、子宮頸がんはほぼヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus:HPV)というウイルスの感染により発生します。HPVは男性にも女性にも感染するありふれたウイルスです。しかし、子宮の入り口近くの細胞へのウイルスの感染が持続すると、少しずつ細胞の性質が変化し、がんになる可能性があります。

 

がんの中には、突然がんができるタイプのものもあるのですが、ほとんどの子宮頸がんでは、がんになる前に正常とは少し異なった細胞が増えている「異形成」という状態が見られます。この異形成を捉え、がんになる前に発見しよう、という目的で行われるのが子宮頸がん検診です。

 

子宮頸がんは、検診で異形成のうちに見つけて対処するのがベストです。しかし、もしがんになってしまっても初期のうちに発見して治療を始めることができれば多くの方が助かります。それでも、助けられない人がいるのは、残念ながらがんが進行してから見つかることが多いからです。

 

また、治療ができる状態であったとしても、進行して見つかる子宮頸がんは体への治療の影響が大きくなり、再発のリスクも上がるため、肉体的にも精神的にも負担が増えてしまいます。

 

大事なことですが、子宮頸がんは異形成の間はもちろん、初期にも自覚症状がないことがほとんどです。「何も症状がないから大丈夫」は通用しません。進行がんで見つかった子宮頸がんの方とお話をするたび、「検診を受けてくれていればもっと早く見つけられたかもしれない」という気持ちになります。

子宮頸がん検診ではどんなことをするのか?

(※画像=PIXTA)
(※画像=PIXTA)

 

ところで、子宮頸がん検診ではどんなことをしているのでしょうか? これまで一度も子宮頸がん検診を受けたことがないという方は少数派かもしれませんが、ここで検診の内容について改めて説明をさせてください。

 

子宮頸がんの検診は「子宮頸部細胞診」と呼ばれ、子宮の入り口付近の表面の細胞を専用のブラシでこすって採取します。皮膚の表面のアカを集めているようなものと考えていただくとイメージしやすいかもしれません。

 

検診は医療機関に出向いて行うものやバスの車内で行うものなどがあり、場所により雰囲気が異なります。カーテン越しに細胞を採取され、医師と直接顔を合わせないところもありますし、医師と相談できる時間が設けられているところもあります。選択肢がある場合は、好みや自身のスタイルで選ぶとよいでしょう。医師もスタッフも女性のみ、ということを売りにした施設もあります。採取された細胞は検査技師や医師によって顕微鏡で観察され、基準に従って判定されます。

 

結果が正常であれば次回の検診まで特に受診は必要ありません。もし結果が異常だった場合、追加の検査や経過観察が必要になります。

 

子宮頸がん検診の費用は自治体により異なり、500円から1,000円程度の自己負担が必要になるところが多いようです。自治体によっては、特定の年齢で無料としているところもあります。一部の職場では、子宮頸がん検診が健診の項目に含まれていることや、オプションで選択できることがあります。

 

また、人間ドックで子宮頸部細胞診を行っている施設もあります。子宮頸部細胞診を用いた子宮頸がん検診は、過去のデータを用いた研究から、子宮頸がんにかかる女性を減らす効果が証明されています。国立がん研究センター発行の「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」では、20歳以上70歳未満の女性は、2年に一度の間隔での検診が勧められています。

 

施設によっては、子宮頸部細胞診の他に「HPV検査」が選択肢にあることがあります。これは、子宮頸部細胞診と同じようなやり方で子宮の入り口付近から細胞を採取し、その細胞が子宮頸がんを引き起こす可能性が高いタイプのHPVに感染しているかどうかを調べる検査です。

 

HPVには150種類以上の型が知られており、そのうちハイリスクのものがいるかどうかを見ています。有用な検査ではあるのですが、日本ではまだ位置づけがはっきりしていないこともあり、この検査を選択する場合は、どんな結果のときにどうしたらいいのかについて、あらかじめしっかりと説明を聞いておくことが重要です。

 

ところで、定期的な検診の他に、子宮頸がん検診が産婦人科で行われているタイミングがあるのですが、いつだかわかりますか? 答えは妊娠中です。

 

多くの産婦人科では、妊娠がわかり、出産予定日が決まると、母子手帳を取得するように促されます。施設により多少の違いがありますが、このあたりの時期に子宮頸がん検診が全国的に行われています。なかにはこのときが初めての子宮頸がん検診という方もいて、そこでがんの診断がついてしまうことがあります。

 

妊娠前にわかっていた方が選択肢も多いので、この点でも、これから妊娠の可能性がある方には普段から子宮頸がん検診を受けていただきたいと思います。

子宮頸がんを見逃さないために、定期検診を

(※写真=PIXTA)
(※写真=PIXTA)

 

子宮頸がんは検診でがんになる前や初期のうちに見つけることができるがんです。検診の結果が異常だった場合、追加の検査や治療が必要になることがありますが、早期の対応により重大な状態に進展する可能性を減らすことができます。

 

「がん検診」のお知らせは見逃さず、定期的に検診を受けることをお勧めします。疑問や不安があれば、遠慮せずに医師に相談をお願いします。

 

最後に、今回の記事では子宮頸がんワクチンは取り上げませんでしたが、適切な年齢でのワクチン接種で、子宮頸がんはかかる可能性も死亡する可能性も減らすことができることが証明されています。

 

定期接種の年齢を過ぎていても1997年度以降の生まれの女性でワクチン未接種の方は2025年3月までは公費でのキャッチアップ接種の対象になります。あてはまるのであれば、ぜひ接種を検討してください。

 

 

鈴木 陽介

利根中央病院 産婦人科診療科長

 

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。