医師がロボットを操作し、遠隔で施術する「ロボット手術」は、医療の最先端として注目されていた一方、その高すぎるコストからなかなか普及しませんでした。しかし現在、いくつかの理由によって国内でも普及が進んでいると、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。ロボット手術の「お金事情」と国内で普及が進む背景について、秋谷医師が解説します。
1台2億5,000万円…高すぎて日本で普及しなかった「ロボット手術」近年急速に普及が進むワケ【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

高額な「購入費」と「維持費」がハードル

では反対に、ロボット手術はどれくらいの「コスト」がかかるのでしょうか。

 

まずは装置のコスト。購入価格ですが、ダヴィンチのフラッグシップモデルXiの場合は約2億5,000万円、廉価版のXでも約2億円かかります。

 

購入価格だけ考えても「何件手術すれば元がとれるの?」と考えてしまいますね。

 

さらに、購入後の維持費はXi、Xともに年間約1,000万〜2,000万円もかかります。

 

また驚くことに、アメリカでの価格と日本の価格は大きく異なっていました。アメリカでの販売価格はXiが1億5,000万円、Xが1億円ほど。国内価格には輸入関税や人件費などのプレミアムが加算されており、日本での購入価格はアメリカの2倍にまで膨れ上がっていたのです。

 

そしてなにより、ダヴィンチは米国の医療現場を想定して開発されたため、ロボットアームが大きく、日本の手術室では場所を取りすぎてしまいます。それでも導入したい場合、増築など追加の費用がかかってしまうかもしれません。

 

以上のように、日本でロボット手術が普及しない背景には「採算が合わない」という大きな問題があったのです。

ロボット手術は「ニュースタンダード」となりうるか?

では、それでも日本がロボット手術を導入するのはなぜなのでしょうか? それは「未来への投資」です。

 

今後、ロボット手術が外科のトレンドになっていく。「ロボット手術ができる」というのは一種の広告塔になっているのです。

 

しかし、実際にロボット手術が「ニュースタンダード」となるためには、技術、経済、制度、患者への利益など、多岐にわたる側面からの検討と改善が必要になるのはいうまでもありません。特に経済面はすぐに解決すべき問題でしょう。

 

そのようななか、この手術ロボの「ダヴィンチ」特許切れで価格破壊が起きています。これにより安価で手に入れやすくなったことから、国内でも急速に普及が進みはじめました。

 

そしてついに、株式会社メディカロイドが国産初の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」を完成させました。2020年に泌尿器科手術、2022年12月1日からは消化器外科と婦人科の手術にも保険適応が拡大されてきています。

 

ダヴィンチ1台の価格は約2億5,000万円で年間維持費が約2,000万円ほどであるといわれていますが、「hinotori」では60%程度に抑えられると報告されています。

 

国産のロボットによってコスト削減が可能となり、「採算が合わない」という大きな壁がなくなったことから、ロボット手術の普及は今後ますます加速するかもしれません。

 

 

秋谷進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医