「推し活」に勤しむ42歳の独身女性。給料のほとんどは「推し活」に使ってしまうため、42歳になった現在の貯蓄はゼロです。そんな彼女が老後に向けた資産形成を決意しますが、果たしていまからでも間に合うのでしょうか? 本稿ではファイナンシャルプランナー(FP)の山中伸枝氏が、42歳のおひとりさま女性の事例とともに40代貯金ゼロからの資産形成について解説します。
“推し”が命の42歳おひとりさま女性「貯金ほぼゼロです」「今から資産形成始めます!」は手遅れか?【FPの回答】 (※画像はイメージです/PIXTA)

「支出の把握」が資産形成の第一歩

家計から「積立額」を捻出

次に、家計から将来に向けての積立額を捻出していきましょう。支出の把握ができていないのでまずはご自身の価値観とお金の使い方を考えてもらいました。推し活まで一気に切り込んでしまうとリバンドしてしまう恐れが強いので、先に家賃に着目します。現在の都心のワンルームは16万円です。これはかおりさんにとって価値ある16万円なのかどうか、伺ってみます。

 

「うーん、駅直結で寝坊しても安心ですし、建物も綺麗なので後輩たちもよくライブのあととか遊びに来てたまり場と化してはいます。でも16万円を寝るだけの場所にかける必要があるかと言われると、違うような気はします」とおっしゃるかおりさん。

 

仮に5万円、家賃が下げられたとしましょう。それをiDeCoとNISAに半分ずつ振りわけます。比較的リスクを抑えて運用したとしても3%の運用益が見込めるとすると65歳までに約2,000万円になります。

 

(出所)金融庁つみたてシミュレーション
[図表2]月5万円積み立てて運用した場合(運用益3%として計算) (出所)金融庁つみたてシミュレーション

 

65歳まで就労収入、公的年金は70歳まで受給を繰下げて月20万円強を確保すれば、無年金期間が5年です。もし月20万円を必要生活費と見込めば1,200万円が必要資金ですから、2,000万円の積立ができれば、予定外の支出にも備えられるでしょう。

 

かおりさんの給与明細を見せていただくと、財形貯蓄5,000円とありました。ご本人も忘れていたようですが、入社時に人事の方が「やっておいたほうがいい」と勧めてくれて、おつきあいで始めたことを思い出されました。

 

かおりさんは勤続15年ですから、恐らく残高は90万円にはなっているでしょう。一般財形はいつでも引き出せますから、ここから引っ越し資金を出しても残りを緊急予備費として手元に置けば安心して積立投資にお金を回せます。

 

かおりさんは「知らないうちにこんな貯金をしていたなんて、驚きです。積み立て最高ですね」と笑顔を見せてくれました。

お金がたまる仕組みを作ることが重要

貯蓄ができない人こそ、お金がたまる仕組みを作ってしまうことがとても重要です。口座から毎月決まって金額が引き落としされ、それが運用に回る仕組みです。老後資金としてはiDeCoを利用し、それ以外の目的の資金はNISAを利用します。

 

かおりさんには、まず引っ越しという大きな課題をお願いしましたが、浮いた家賃を投資に回すことでいままでどおりに推し活を楽しみながらお金が貯まる仕組みを実感していただきたいと思います。そのうえでさらに将来に向けての計画を精査し、本格的な資産形成のステージに向かうことをお勧めしました。

まとめ

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

同窓会をきっかけに、自分自身の将来について考えるようになったかおりさん、まずは資産形成をスタートするきっかけができて本当によかったと思います。また自分だけで抱えずに、ファイナンシャルプランナーに相談するという第一歩を踏み出した勇気も、時間を効率的に使うためにも賢明でした。

 

かおりさん、資産形成に取り組むとともに、おばあちゃんになっても推し活を続けるという新たな目標もできたとのことですので、ぜひ頑張って欲しいと思います。

 

 

山中 伸枝(株式会社アセット・アドバンテージ・代表取締役)

1993年、米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務し、人事、経理、海外業務を担当。留学経験や海外業務・人事業務などを通じ、これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナーを目指す。2002年にファイナンシャルプランナーの初級資格AFPを、2004年に同国際資格であるCFP資格を取得した後、どこの金融機関にも属さない、中立公正な独立系FPとしての活動を開始。金融機関や企業からの講演依頼の他、マネーコラムの執筆や書籍の執筆も多数。