IREとはFinancial Independence Retire Earlyの略で、日本語では「経済的自立と早期の退職」を意味する言葉です。近年、働き方にとらわれない人生の選択肢のひとつとして注目されるようになりました。本記事では、「働くことから解放されて、自分らしい人生を過ごしたい」という人に向けて、独身のAさんと、2人世帯のBさん夫婦の事例とともに、FIREを目指す方法についてFPの伊藤貴徳氏が解説します。
都内在住の45歳・サラリーマン「決めた、あと10年で仕事辞める」…55歳で“FIRE”→100歳まで働かずに暮らせる貯蓄額【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

FIREを実現するためのコツ、3つ

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

FIREするためのコツは以下の3つです。

 

「収入-支出」がプラスの状態にする

生活費や固定費、生活娯楽費などの支出よりも、収入がプラスとなる状態が理想です。この状態が築けていれば、貯蓄が枯渇する状態を避けることができます。

 

投資を始める

「収入-支出」がプラスの状態となるよう,投資を始めましょう。投資と一口にいってもさまざまなものがあり、特徴やリスクによって選ぶ種類は人それぞれです。自分に見合ったリスクを適正に判断して投資商品を選ぶことが大切です。

 

「4%ルール」を実行する

出所:筆者作成
[図表1]4%ルールとは 出所:筆者作成

 

4%ルールとは、毎年の生活費を資産の4%以内に抑えることをいいます。「株式相場の成長と物価の上昇の差が4%」というアメリカの資産運用の研究が根拠となっています。つまり、年間の生活費を資産の4%以内に収めることができれば、取り崩し額よりも資産の成長のほうが大きく、資産の枯渇を防ぐことができるというわけです。

 

上記の4%を実現させるには、ある程度の資産を集める必要があります。具体的には、年間生活費の25倍の資産を集めることが必要とされます。たとえば、年間生活費に300万円かかるという場合、25倍の7,500万円の貯蓄が必要ということになります。

 

次は、FIREの道を目指す独身のAさんとBさん夫婦の例をもとに具体的なシミュレーションをみていきましょう。

年収600万円の45歳・独身Aさんのケース

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

Aさんは都内で一人暮らしをする45歳のサラリーマンです。Aさんは、一人暮らし歴も20年を超え、一人時間を有意義に過ごすことができるし、いまさら他人との共同生活はできないという考えを持ち、このまま生涯独身でいようと考えています。

 

真面目なAさんは大学卒業後から現在まで同じ会社に勤め、浪費をせず、堅実な暮らしをしてきました。将来のためにと、20代のうちからコツコツと貯めた貯金額はおよそ3,000万円。社会人生活もそろそろ折り返しのそんなあるとき、FIREという考え方を知ります。

 

「自分がこれまでコツコツ貯金を頑張ってきたのは、このためかもしれない……。決めた、あと10年で仕事辞める!」そう決意し、FIREへの道を目指すのでした。

 

【Aさんの収支状況】
<収入>
年収:約600万円(月収:約40万円、賞与120万円/年)

<支出>
生活費:月10万円
家賃 :月8万円
固定費:月2万円
娯楽費:月3万円
⇒合計:月23万円

<貯蓄>
3,000万円

 

Aさんの生活費は1ヵ月およそ23万円で、年間およそ280万円です。「贅沢をしようとは思っていません。ただ、仕事に縛られずに無理なくいまの暮らしを続けられるようになりたいと思っています」とAさん。

 

280万円の生活費が今後も一定と仮定し、前述の4%ルールに則ると、

 

280万円×25=7,000万円

 

7,000万円の資産を55歳までに築くことができれば、4%ルールによる毎年280万円の生活費を捻出することができ、FIRE実現に近づくことができるということがわかりました。

 

FIRE達成のための必要資金をお伝えしたところ、Aさんからはこんな言葉が。「FIREまでの必要資金はわかりました。ですが、いままでの貯金ペースから考えると、55歳までに目標額に届きません。どうにかしてもう少し楽にFIREできないものでしょうか?」

 

4%ルールを使うタイミングを考える

ここで、FIREしたときの「収入」について少し考えてみましょう。FIREを果たした場合、当然会社から給料をもらうことはできません。しかし、65歳になると国からは「年金」という収入を得ることができます。

 

つまりAさんの場合、55歳から65歳までの10年間は無収入となりますが、65歳からは年金という収入を得ることができます。年金は、死ぬまで一生涯受け取り続けることができるため、55歳から65歳までの10年間と、65歳から100歳までの45年間では,FIREするための準備すべき金額にも違いが出てくるはずです。

 

4%ルールをAさんの収支に当てはめると

【Aさんの年齢別収支】

・55歳〜65歳の収支
収入:0円(退職時にハローワークから受け取れる基本手当は割愛します)
支出 :280万円(年間生活費)
差額 :▲280万円
準備すべき資金:280万円×10年=2,800万円
・65歳〜100歳の収支
収入:年間約190万円(見込年金額)
支出:280万円
差額:▲90万円
準備すべき資金:90万円×25=2,250万円
⇒準備すべき資金の合計額:5,050万円

 

55歳から65歳までは貯蓄を取り崩し、65歳から4%ルールを取り入れる工夫をすると、準備額に2,000万円の差が出ることがわかります。 Aさんの現在の貯蓄額は3,000万円で、毎年200万円の貯蓄を続けています。このペースなら、5,050万円に届くかもしれません。

 

Aさん「FIREまで7,000万円と考えるとあと4,000万円。これから毎年400万円の貯金は果てしなく感じますが、年間200万円であればこれまでと同じペースですので、なんとか届くかもしれません!」

 

年金のような将来的な見込み収入を反映させたり、取り崩しのタイミングを調整したりすることで、必要準備額を大きく下げることも期待できます。

 

AさんがFIREするためのポイント

~before~
280万円の生活費を4%ルールで準備するためには7,000万円の準備が必要!

~after~
5歳までは貯蓄を取り崩しつつ2,800万円準備。65歳以降は(生活費―年金)の差額90万円に4%ルールを取り入れるために2,250万円準備。

2,800万円+2,250万円=合計5,050万円が必要!
→約2,000万円の減額に成功

 

ちなみに、4%ルールを使わず(資産運用せず)2,250万円を65歳から取り崩した場合、25年で資金が枯渇します。つまり、90歳で赤字となるのです。一方、4%ルールを使った場合は元本2,250万円を取り崩すことなく生活可能という計算になります。