私立の医学部が高い「本当の」理由とは?
では、なぜ私立大医学部の学費が「異常に高い」のか、結論から言いましょう。
医師という職業にそれだけの投資価値があるから――
シンプルですが、ここが1番重要な点なのです。
国税庁の「令和3年分民間給与実態統計調査」によると、日本人の平均年収は約443万円だそうです。では、医師の平均年収はどれくらいでしょうか。
厚生労働省の発表によると、医師の平均年収は1,378万3,000円ということになっています。男女別にみてみても、男性1,469万9,000円、女性1,053万7,000円となっています。
つまり、大学に数千万円投資をしても、4〜5年くらいで回収できるわけですね。
しかも、医師国家試験は1度合格すれば「医師」のライセンスは現時点で永久ですし、医師国家試験の問題は、国公立医学部の大学入試よりも難しくありません。
そして、私大の医学部の場合、国公立に比べて
- 学力がそれほど高くなくても入りやすい場合が多い
- 東京医大の事件のように足りない学力を「お金」で解決するケースがある
- 東京で勉強できる(偏差値の低い国公立医学部は地方であることが多い)
など、「お金さえあれば魅力的な要素」が目白押しなのです。しかも、前述の通り、医師が過剰になりすぎるのも問題なので、人数を制限しています。
そのため、需要と供給の関係から、お金がある人は一種の“投資”として「子どもを医学部に入れる」というケースがあるわけです。
さらに、もう1つの重要なポイントは「後継者問題」です。
日本では少子高齢者問題が加速しています。「後継者不足」のために廃業せざるを得ない会社も少なくありません。
この問題は会社だけに留まらず、クリニックや一般診療所でも大きな問題になっており、わざわざ高い仲介手数料を支払って、後継者を探してもらったりするわけです。
それならば、自分の子どもが後継者になってくれたら……自分のノウハウも教えられますし、自分の財産をそのまま引き継いでもらえるので一石二鳥です。
そのため、「多少学力が足らなくてもなんとかして自分の子どもを医師にさせたい」という思いが強くなり、需要が増える結果、私大の学費が高くなっても誰も文句が言えないわけですね。
医師になるに“ふさわしい人”が医師になれる社会へ
医学部の学費が高い理由を赤裸々な事情も含めて話していきました。しかし、こうした現状はある意味「歪んだもの」ですよね。本来の子どもの医師の資質は、親の財力とは無縁であるべきです。
この状況は、アメリカをはじめ諸外国のほうがもっと顕著に見受けられます。世界中で見られる「歪み」なのです。
個人個人によって思うところは異なると思いますが、私は「医師に本来なるべき人が正しく医師になる」社会を目指してほしいと願っています。
秋谷 進
東京西徳洲会病院小児医療センター
小児科医