(※写真はイメージです/PIXTA)
70代の「投資」に対するFPからのアドバイス
関根さんの話をひととおり聞き終えたFPは下記のように助言しました。
「ご友人の方はいろいろと勉強されているようですね。関根さんにお話をされたことはなにも間違っていません。資産形成の教科書どおりの見事な説明です」
「やはりそうでしたか」と落胆した表情を浮かべた関根さんに、FPは話を続けました。
「でも関根さんにとって、貯められた2,000万円の一部で毎月分配型の投資信託を購入することは決して悪い選択肢ではないと思いますよ」
関根さんは驚きましたが、相談したFPの話のポイントは次のようなものでした。
① そもそも2,000万円すべてが「予備費」である必要はまったくない。年金だけでは余裕のある生活には足りないので、少しずつ取り崩しながら使うために貯めたはず。
② ただし毎年取り崩す分を見える化して管理することは重要。その方法としては、今後20年程度のキャッシュフロー表を作成する。予定どおり減るのであれば納得できる。
③ 貯めた2,000万円を全額円建ての預貯金にしておくことは危険。たとえ70歳超であっても一部は投資に回してインフレ対策を講じるべき。その手段として運用益が非課税になるNISA枠利用のインデックス型の株式投資信託などを活用するのは正攻法。
④ 一方で、お金は生涯貯め続ける、増やし続けることが目的ではない。特に老後は「増えたときも増えないときも毎月一定額ずつ楽しく使う」という選択肢は大いにあり。その手段として「毎月分配型投資信託」というのは検討対象としておかしくない。
FPは続けます。
「こういう言い方をするとご友人の方に失礼かもしれませんが、関根さんと同年代のその方は、亡くなるときに保有資産残高がピークになるタイプの方ですね。確かに毎月分配型投資信託では資産形成で最も大切だという複利効果を望めません。
また、運用が上手くいかないと、分配金がただの元本払戻しになる場合もあります。それでも、単に毎月預貯金から取り崩すよりも、運用が上手く行っているときは元本の取り崩しではない “資産寿命を延ばす商品” 程度に構えて一部を利用したらなんだか楽しいですよね」
関根さんが相談したFPによれば、毎月分配型投資信託の仕組みとコストを正しく理解して、相対的に購入手数料と信託報酬というファンド維持費が安いものを選ぶのであれば、老後の「お楽しみ投資」として、決して全面的に否定されるような投資商品ではないというのです。
投資へのスタンス・金融商品活用は世代によって異なる
これは「毎月分配金型投資信託」の話でしたが、これ以外にも「株式の優待目的投資」「生存給付金型の外貨建て一時払い終身保険」「学資保険(子ども保険)」など、金融資産運用の専門家からダメ出しされる商品は多数あります。
その批判の論拠はつまるところ「投資効率が悪くなる」という点に尽きるのですが、金融資産運用においては投資効率至上主義だけが正解ではありません。投資へのスタンスや金融商品の活用方法は世代や趣向によって異なってくるのが自然です。
働き盛りの現役世代であれば資産形成のために複利効果が得られる直接投資戦略が中心になる一方で、リタイアメント世代においては資産寿命を延ばしながら楽しんで使うやり方が全面的に否定されるべきではないでしょう。
「金融資産の取り崩しは毎月分配金などではなく、自分自身でコントロールするべき」との正論もある一方で、そこに時間とエネルギーを費やしたくない人たちも多くいることも事実なのです。
また「お金に色はない」といいますが、たとえば孫が生まれたときに祖父母が学資保険の契約者となる親を金銭的にサポートするような場合があります。仮にその予定利率が他の金融商品より悪くても、サポート側にとってそれはあまり重要なことではないでしょう。そこで大切なのは「学資保険」という色を付けてサポートをするということなのです。
山田 信彦
ニックFP事務所
代表