住宅を初めて購入する人の多くは30代~40代ですが、近ごろは50代で購入する人も少なくありません。多くの金融機関で住宅ローンの完済年齢は80歳となっているため、もちろん購入は可能です。しかし、50代での住宅購入は、10~20年早い時期に購入する場合よりもリスクが高まると、FPdream代表FPの藤原洋子氏はいいます。本記事では、Yさんの事例とともに住宅購入計画の注意点について解説します。
月収80万円、50歳・IT企業の部長職「一目惚れしたマンション購入」、余裕の返済計画でにっこりも…65歳で「ローン残債1,900万円」の絶望【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

50歳でついに購入した理想のマイホーム

IT企業の部長職であったYさん(55歳)は、地方都市の分譲マンションにお住まいです。同い年の奥様と長女(28歳)、長男(26歳)、ペットのタイニープードル(7歳)と暮らしています。子どもたちは都内の私立大学を卒業し、就職して自立しました。ご自宅は、最寄りの駅から徒歩20分ほどのところで、大通りから少し外れた、緑の多い閑静な住宅街にあります。


Yさん一家は、5年前まで賃貸マンションで暮らしていました。持ち家にはあまりこだわっていなかったそうです。ご実家は北海道で、いつかは戻るかもしれないという思いがあったので、お住まいの地方都市で住宅を購入するかどうか、決断を先送りにしていたそうです。しかし、Yさんが50歳のとき、長女が大学を卒業するのをきっかけに、住宅を購入することにされました。賃貸マンションでの生活はYさんにとっては気楽で快適でした。

 

「これまでなんとなく物件をみる機会もあったのですが、特段気に入ったところもなく、購入には至りませんでした。ただ、たまたまみつけたこのマンションを、私も妻も一目で気に入ってしまったので、購入を決めたんです」

 

Yさんの勤務する会社の定年は65歳です。勤務延長制度を採用していますので60歳以降も役職や賃金は大きく変わりません。当時のYさんの年収は約1,200万円(月収80万円・賞与別)、貯蓄は2,000万円ほどありましたが、貯えが減るのは心もとないと思い、貯蓄は使わずに全額を借りることにしました。Yさんの資金計画は以下です。

 

物件価格 4,000万円

※購入時や引っ越し、購入後に必要な費用を含めて4,400万円のフルローン

 

変動金利型

 

月の返済額 約15万8,000円

 

完済 75歳

 

Yさんの退職金は約2,000万円受け取れます。奥様は現在専業主婦です。子ども達に学費がかからなくなったのですが、友人と旅行や買い物、外食に出かけるなどしていたため、年収の割に貯蓄額は少なめです。Yさんは、毎月の支払いを続けて65歳時点での住宅ローンの残債を退職金で完済し、そのあとは年金でゆったりと暮らそうと定年後の生活を楽しみにしていました。

 

「理想の家で妻と愛犬とともに悠々自適な生活を送れることになり大満足です。たまたまいいマンションを見つけられて本当によかった」にっこり笑うYさんでした。

余裕の返済プランのはずが…

ところが、Yさんが54歳のとき会社が合併されることに……。しばらくはそれまでどおりの仕事を続けることができましたが、今年に入って、合併した会社が組織編成の改革を行い、課長職に降格することになったのです。降格に伴い年収は800万円に激減、退職金も合併会社の水準に合わせせることになります。

 

現在の返済を続けていくと、65歳時点で約1,900万円の住宅ローンが残ることになります。

 

「退職金が予定どおりの金額を期待できないとなると、いったいどうなるのか……」Yさんは絶望しました。

 

Yさんのねんきん定期便を確認してみると、65歳からの年金額は約200万円でした。奥様は会社員として働いていた時期もあり、64歳から約10万円、65歳から約90万円受け取れます。お2人の年金は、65歳以降合わせて年に約290万円、月にすると約24万円です。

 

現在の年収と比べても半分以下になり、当初のご希望のように「年金だけでゆったり」と暮らせそうにありませんでした。退職金で完済しきれないとなると大変です。貯蓄が1,000万円残ったとしても、毎月10万円ずつ使っていくと、9年目には底をついてしまう計算になります。