1.当時のトルコ情勢を十分に把握していなかった
新興国の債券は、国の情勢の変化によって株や債券、為替レートなどが大きく変動するリスク(カントリーリスク)が高いとされています。
Tさんが債券の運用を始めた当時、トルコの情勢不安もやや後退し、2018年8月の急落から復活したところだったため、証券会社の営業マンからは「いまが買いだ」と言われていたようです。
当時の情勢を再確認してみましょう。
このように、さまざまなリスク要因が残っていたトルコ情勢ですが、その後、20年にはコロナショック、23年には大地震が発生。いまもなお経常収支のマイナスおよび対外債務の大きさは懸念材料として残っています。
しかし、当時のトルコ情勢をあまり理解していなかったTさんは、カントリーリスクを考えずに運用を開始してしまったのです。新興国の債券を購入する際は、先進国の債券を買うのと同じような買い方をするのではなく、その国の情勢や政治をよく理解してから投資すべきだったといえるでしょう。
2.債券だからリスクが低いと誤解していた
一般的に債券は、株や不動産などほかの投資商品に比べてリスクは小さいとされています。
しかし、債券であればすべてが低リスクという訳ではありません。とくに新興国債券はカントリーリスクが大きく、ときに債券金利を吹き飛ばすほどの為替変動が伴います。
また、その国に情勢不安がなかったとしても、先進国の金利の影響を受けやすいことに注意が必要です。
先進国の金利が低いときは「リスクを負ってでも新興国通貨で運用しよう」と考える投資家が増え、新興国に資金が流入しますが、逆に先進国の金利が高い場面では「無理してリスクを負わなくても先進国で十分な利益が得られる」と考える投資家が新興国から資金を引き揚げ、先進国に振り分ける傾向が強まります。
新興国債券への投資を行う際は、先進国の金利動向も注視する必要があることを覚えておきましょう。
3.高い為替手数料を理解していなかった
新興国の債券を購入する場合は、為替手数料にも気をつけなければなりません。
とある大手証券会社の為替手数料は次の通りです。
・1米ドルあたり50銭(当時の為替レート:120円)
・1トルコリラあたり40銭(当時の為替レート:18円)
これを基に計算すると、2,000万円を各通貨に交換した場合の手数料は、
・米ドル:8万2,987円(2,000万円に対して0.41%)
・トルコリラ:43万4,782円(2,000万円に対して2.17%)
アメリカの債券に比べて、トルコリラ債券の手数料がかなり割高であることがわかります。
これは、新興国通貨の流通量の少なさや金利差によって金融機関の調達コストが高くなるためです。“1通貨の単位は小さいのに為替手数料が米ドルと同等だと手数料割合が高くなってしまう”ことを忘れないようにしましょう。
新興国債券への投資を行う際に注視すべきリスク
Tさんが失敗した原因から、トルコリラ債券への投資で注意すべき点を下記にまとめました。
・金利だけでなく為替手数料や税金も考慮して投資するか判断する
新興国債券は、為替の変動や政治的リスクをしっかり把握してから購入することが大切です。そのためにも、普段から自国だけでなく、他国の情勢にも気を配るようにしましょう。
また新興国の債券は金利が高いため魅力的にみえますが、金利だけでなく為替手数料や為替変動リスク、利益にかかる税金など、さまざまな角度から損益をシミュレーションして、投資するかどうかを判断する必要があります。