多くの種類がある「がん保険」。どれを選ぶべきか判断に迷う人も少なくありません。がん保険は、正しい知識のもとで選ばなければ、せっかく加入していてもいざというときに役に立たないこともあると、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏はいいます。では、がん保険で失敗しないためにはどのように選べばよいのでしょうか? 本記事では、木村さん(仮名・40歳)の事例とともに、正しいがん保険の選び方について解説します。
“給付金100万円”のはずが、まさかの支払い対象外!肺がん転移の40歳女性「なにかの間違いでは」…失敗しないがん保険の選び方をCFPが解説 (※写真はイメージです/PIXTA)

「治療の長期化」を視野に入れた保険選びを

さきほど「入院したら」という条件は避けたほうがよいといった見解を示しましたが、それを含め、がん保険の診断給付金はどのように選んだらよいのでしょうか。

 

正しくがん保険を選ぶ際は、まずは一旦パンフレットから離れることが大切です。というのも、がん保険の保障がどうかということよりも、日本のがん治療の実態がどうなっているかということのほうが重要だからです。

 

日本では毎年約100万人が新たにがん診断を受けていますが、実際にがんになった人がどのような治療を受けているのかということを具体的にイメージしなければ、適切な選択はできません。

 

がん治療を大きく2つにわけると、「単発で終わるか」「再発・転移で長期戦になるか」というシナリオになります。特にがん保険を考える場合には、必ず後者を前提に考える必要があります。なぜなら、よりお金で困るのは後者だからです。

 

ですから、今回の木村さんの事例のように、がんが転移してしまい、長期の抗がん剤治療を行っていくといったシナリオがあるということを前提にがん保険選びをすることが大切です。最初からパンフレットの比較をしてしまうと、ついつい「AとBどちらがお得か?」ということばかりに目が行ってしまい、大切なことが見落とされてしまう可能性があります。

 

いまのがん治療は「通院」がメインであるケースが多い

今回の木村さんの事例では、がんの転移があった後の治療において入院をしなかったために、1年に1回受け取れるはずのがん診断給付金が支払い対象外という結果になりました。木村さんは「がんで入院しないわけがない」と思い込んでいましたが、実際はどうなのでしょうか。

 

厚生労働省患者調査(平成17年~令和2年)をもとに筆者が作成
[図表]がん(悪性新生物)での入院・通院受療率の推移 厚生労働省患者調査(平成17年~令和2年)をもとに筆者が作成

 

図表のとおり、この15年ほどで入院治療のがん患者さんと通院治療のがん患者さんの比率は逆転しています。

 

日本でがん治療を受ける場合、基本的には3大治療と呼ばれる「手術」「放射線」「抗がん剤」のどれかを受けることが一般的です。そのうち、「放射線」と「抗がん剤」は多くの場合は通院で治療が完結するようになっています。また、いまだに手術では入院することが多いですが、その入院日数自体は短くなってきています。そしてがんの再発・転移で長期戦となったシナリオにおいては、その治療は抗がん剤治療が多くなってきますので、自然と通院での治療が主体となってくる可能性があります。

 

したがって、今回の木村さんのケースも、支払要件に「入院」が条件となっていると厳しい結果になることを知っておけば防げた可能性があります。

「変化への対応」がポイント

今回取り上げているがん保険のなかの「がん診断給付金」ですが、これは100万円、200万円といったまとまった一時金を、がん診断の時点、もしくは治療の早期の段階で受け取れる保障なので、非常に安心感のある保障のひとつだと思います。その選択において「入院要件」が厳しいということを例にあげました。では、最終的にはどういった保険を選択すべきなのでしょうか。

 

がん治療が「再発・転移で長期戦になる」ことを前提にすべきということを先述しましたが、その前提のもとで、さらに今後の変化に対応しやすい(変化に対して陳腐化しにくい)ものを選択するということを付け加えておきます。

 

がん治療が長期化してくると、そのあいだにがん治療の実態が変化していく可能性があります。がん治療の実態が変化しても、あなたが加入したがん保険の内容が変化することはありません。ですから、その変化が起きたときに「昔の治療だったら給付金を受け取れたのに……」ということが起きにくいものを選ぶことが大切です。

 

なぜなら一度がんの診断を受けてしまうと、がん保険の診査に通らなくなり、新たにがん保険に加入することが限りなく困難になるからです。ただし書きが少ない、シンプルながん診断給付金を選ぶことが大切です。また加入後も、がんの診断を受ける前の段階で、必要に応じてがん保険の見直しをしましょう。

 

多くの方が加入するがん保険。実は、加入からの時間の経過とともに保障の質が変化している可能性があります。いままさにがん保険の検討をしている方は、現在のがん治療の実態をふまえたうえで、適切ながん保険を選んでいただきたいと思います。その際、自分自身でがんの適切な情報を得られないのであれば、ぜひがんをよく知る保険の担当者に相談することをおすすめします。

 

 

谷藤 淳一

株式会社ライフヴィジョン

代表取締役