多くの種類がある「がん保険」。どれを選ぶべきか判断に迷う人も少なくありません。がん保険は、正しい知識のもとで選ばなければ、せっかく加入していてもいざというときに役に立たないこともあると、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏はいいます。では、がん保険で失敗しないためにはどのように選べばよいのでしょうか? 本記事では、木村さん(仮名・40歳)の事例とともに、正しいがん保険の選び方について解説します。
“給付金100万円”のはずが、まさかの支払い対象外!肺がん転移の40歳女性「なにかの間違いでは」…失敗しないがん保険の選び方をCFPが解説 (※写真はイメージです/PIXTA)

2回目の給付金が支払い対象外となったワケ

まさかの回答に木村さんは驚き、「なにかの間違いでは? がんの診断で100万円の保障は1年に1回支払われるはず」と、その理由を尋ねました。

 

するとオペレーターからは「前回のお支払いから1年経過していることと、今回診断されたがんの治療のために『入院すること』がお支払いの要件となっています」との回答。

 

木村さんは手元に置いてあるパンフレットをよく見ましたが、確かに細かい字でそう書いてあります。木村さんは落胆しながら電話を切りました。

 

木村さんは、先日がんの転移の診断を受け、本日から通院で抗がん剤治療を受け始めました。主治医からは、抗がん剤治療を長期で続けていくとの説明を受けています。ただし、入院せずに治療が可能であること、仕事を辞める必要もないことを聞かされ、少し気が楽になりました。

 

そして、乳がんの5年生存率は9割を超えていて、10年生存率も8割近くであることを知り、前向きに治療を頑張っていこうと思っていました。さらにこれから長期でかかるかもしれないお金に関しては、がん保険から1年に1回100万円受け取れると考えていたので、木村さんは安心していました。

 

2回目以降の請求は「入院」が条件だった…

木村さんはこの4年間がんと向き合ってきて、少しずつがんという病気のことをわかってきました。

 

がんになる前は、「がん=死」というイメージを持っていて、主治医からがんの告知を受けたときは衝撃で頭が真っ白になり、記憶があまり残っていないほどです。ただ、治療を受けていくなかで、乳がんでも長生きして、しかも普通に仕事をして生活をしている人がたくさんいることを知り、前向きさを取り戻すことができました。

 

そしていま、がん保険を選ぶときの記憶がよみがえってきました。駅前の来店型保険ショップで、自分より年齢の若そうな女性スタッフからがん保険をいろいろ紹介してもらい、最終的に2つに絞られました。

 

その2つのがん保険の違いは「100万円の一時金の支払い要件」で、以下のような説明がありました。

 

A:1年に1回を限度に回数無制限、ただし2回目以降は治療のために入院した場合にお支払い

B:2年に1回を限度に回数無制限、ただし2回目以降は入院または通院で治療を受けた場合にお支払い

 

そのとき木村さんは「がんの治療で入院しないわけがない」と思っていて、2年に1回よりも、1年に1回のほうが絶対にいいと、現在加入のがん保険を選びました。そのお店で出してもらったがん保険の提案書に記載されていた「1年に1回」という箇所に赤ペンで丸をしたことを思い出しました。

「経過年数が短いほうがいい保険」ではない!?

1年に1回100万円が受け取れると期待していたにもかかわらず、まさかの支払対象外で落胆してしまった木村さん。どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか。

 

木村さんはがん保険選択時、一般的に『がん診断給付金』と呼ばれる、がんの診断を受けたら100万円受け取れる保障の違いで2つのがん保険を比較しました。AとB2つの違いは、前回お金を受け取ったときからの「経過年数」と「そのほか付随する条件」です。木村さんは「がんで入院しないわけがない」と思っていたので、経過年数が短いがん保険のほうが優れていると思い、迷わずそちらに加入しました。

※診断給付金という名称が多く見られますが、保険会社、がん保険商品により名称が異なることがあります。

 

がん診断給付金と呼ばれるこの一時金保障は、自由に使えるまとまった一時金を受け取れるため、がん保険のなかでも非常に重要な保障のひとつであると私は考えています。そのため、この2回目以降の支払要件の比較と選択は、本当にがんになってしまったときのために慎重に行う必要があります。以下でその2つの比較対象について詳しくみていきます。

 

「経過年数」は保険の種類によってさまざま

まず「経過年数」ですが、世の中に流通するがん保険の診断給付金を見渡してみると、

 

・1回限りで終了

・3年に1回

・2年に1回

・1年に1回

 

といったものが存在します。これは上から古い順と思っていただいてよいかと思います。10年、20年前のがん保険では、1回受け取って終了というものが多くありました。その後複数回支払われるものが増えてきて、少し前は2年に1回というものがスタンダードでしたが、ここ数年で1年に1回というものがかなり増えてきています。この違いが最初のチェックポイントです。この点にがん保険商品ごとの違いがあることを知ってください。

 

木村さんがそうであったように、2年より1年に1回のほうがいいと思うかもしれません。もちろん間違いではないですが、一方で、

 

A:1年に1回100万円

B:2年に1回200万円

C:1回限りで1,000万円

 

AとBだとどちらがよいと感じますか。またCは、1回しか受け取れませんが、Aの10年分の金額を最初のがん診断時に受け取る計算になります。これについては、答えがあるはなしではなく、その方の置かれた状況(家族、仕事、収入と貯蓄状況など)に応じてふさわしい選択が変わってくるものです。そして2つ目の「経過年数以外の条件」との組み合わせにより、変わる可能性があります。

 

「入院したら」という文言があったら注意!

がん診断給付金の支払い要件のうち「経過年数以外の条件」について、世の中に流通するがん保険を比較してみると、

 

・がんの治療目的で入院したら

・がんの治療目的で通院したら

・がんが存在すれば

・がんの再発/転移など新たながんの診断があったら

 

といったものがあります。筆者の個人的な見解ですが、「入院したら」という条件のものは基本的に避けたほうがよいと考えます。理由はのちほど述べますが、これからのがん治療を考えたとき、この条件は非常に厳しいといえるかもしれません。

 

そのほかに「新たながん診断」が必要なケースがあるのですが、これは今回の木村さんのように転移が見つかったなどということが条件になっています。その場合、ひとつのがん治療が長引いて1年経過した、2年経過した、と経過期間の条件を満たしても、それだけでは支払われないという意味です。

 

また、治療の中身についても条件がある場合があります。これはたとえば、手術や抗がん剤のように積極的にがんを叩く治療は対象だけど、再発予防のホルモン療法などは対象外となっているものが存在します。

 

ここ最近「1年経過後がんが存在すれば」という治療や再発などの有無に影響されないがん診断給付金も出てきました。パンフレットだと「100万」とか「回数無制限」といった部分が目立つように表示されていますが、小さい文字で書かれている説明書きに大きな違いが存在します。是非ここの比較を入念に行っていただきたいです。