がん患者100万人以上のうち、先進医療を使用する人はわずか1%
健康保険を使えば、自己負担額をぐんと減らせることをご理解いただけたと思います。ところが、健康保険適用外の「先進医療」など、保険がきかない治療をしなくてはならない場合が心配なので、高齢になっても生命保険に入っているという人もいます。
たしかに、保険適用外の先進医療の費用は、全額、患者の自己負担になります。しかし、先進医療というと、その言葉のイメージから、最先端の優れた医療と思われがちですが、そうではなく、評価がまだ定まらない治療なので健康保険の対象にするのは早すぎるという治療なのです。ですから、一定の評価が定まれば先進医療も次々と健康保険の対象になっていきます。
たとえば、約300万円もかかる前立腺がんなどの「重粒子線治療」は、適用外も一部ありますが、2018年4月から保険適用になり2022年4月からは適用となる疾患も拡大されました。また、最先端の手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」も保険適用なので約5〜26万円。1回の投薬で130万円かかると言われるオプジーボも、一部治療で健康保険対象になっています。
「先進医療は高額な治療費がかかる」と思っている人も多いようですが、なかには1万円に満たないピロリ菌除去代や歯科治療もあって、先進医療でも50万円程度という人が最も多いようです。
そもそも、病気になったら先進医療を受けないと治らないかといえばそうではなく、先進医療よりも保険適用の治療のほうが有効というケースはたくさんあります。
現在、日本にはがん患者が100万人以上いますが、先進医療を使っている人はわずか1%程度です。
300万円もする重粒子線治療は年間で2万9,000件(2019年末時点)とそれほど多くありません。こうしたことを知っておけば、民間の保険に入って多額なお金を支払う必要はないのではないでしょうか。
思ったほどかからない老後の医療費
また、今は病気で入院しても、それほど長く入院しているケースは少なく、手術を終えてから1週間から10日くらいで退院するケースもざらにあります。
高齢者で、入院が長引きそうなら、一定期間は病院にいても、その後は介護施設等に移送されることになるケースが多くなっています。ちなみに、厚生労働省の「患者調査」(2020年)を見ると、退院患者の平均在院日数は32.3日。がん患者などは20日前後で退院しています。
ただし、アルツハイマー病(273.0日)、統合失調症等(570.6日)など、認知症や精神的な病気の場合には、入院が長引く傾向があるようです([図表2]参照)。
このように、医療費は、公的保険を軸に考えると、思ったほどはかかりません。特に、70歳をすぎてリタイアすると、自己負担しなくてはならない金額の上限そのものが低くなります。
しかも、長く病院に入院させてはくれないのですから、老後にかかる医療費は、2人で200万円から300万円用意しておけば十分でしょう。
荻原 博子
経済ジャーナリスト