臨床試験の困難さも課題に
2.“ドラッグラグ”と臨床試験の困難さ
さらに、海外との格差に拍車をかけるのが「ドラッグラグ」と「臨床試験の困難さ」です。ドラッグラグとは、新薬が海外で承認されてから、日本で使用できるようになるまでの時間差のことです。
そもそも、小児の薬そのものが、
●子どもたちの治験参加が難しい、患者数が少ない、倫理的な制約など多くの課題があるため、小児向けの臨床試験が十分に行われない
●小児向け薬の市場規模が成人向け薬に比べ小さいため、製薬企業は投資リターンが低いと判断して小児用薬剤の開発に消極的になりやすい
という現状にあります。こうした影響から、特に患者数の少ない小児がんでは、使用できる薬が少ないために治療の遅れが問題となっています。さらに、下記のような理由から、日本の導入が遅れてしまっているのです。
●市場規模が小さいにも関わらず開発コストがかかる
●安全性監視活動などの法的制度での負担が大きい
●小児の治験に精通した施設、医師、CRC(臨床研究コーディネーター)の不足など小児治験を実施する環境が不十分
なぜ、「日本の」と何度も記載しているのかといえば、海外では成人の重要な薬を開発する際に、必ず子どもにも使用できるように法律*によって治験が義務づけられているためです。
* 小児用の薬の開発を義務付ける法律「RACE(Research to Accelerate Cure and Equity) for Children Act(小児のための治療法および公平化促進のための研究法)」
こうした環境を打破しない限り、「有効性はわかっているのにも関わらず、いまだに日本では『適応外使用』となっている」という状態が続いてしまうことでしょう。
◆まとめ…早急な「適応内」への整備を!
上記のことからわかるとおり、「日本の整備が追いついていないことによる適応外使用」が多いのが現状です。
この事実は厚生労働省もよくわかっており、「適応外使用の基本的な考え方」について、「広く医療のなかでより適切に使用されるためには、基本的に薬事承認・保険適用を目指すべき」としています。
一刻も早く、適応外使用せず、医師とお子様・親御さん双方が安心して薬が利用できるよう、法整備が進むことを切に願っています。
秋谷 進
東京西徳洲会病院小児医療センター
小児科医