子どもが不調になった際、小児科にかかり処方される薬。ドラッグストアなどで購入する薬に比べて「医者に出してもらったから」と、なんとなく安心感があります。しかし、日本国内で処方される「小児の薬」の7割以上が、本来の病気で使用できないことになっている「適応外使用」だと、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。いったいどういうことなのか、詳しくみていきましょう。
“医師の処方=安全”ではない!?…日本が直面する「子どもの薬」の悲惨な現状【小児科医が警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

臨床試験の困難さも課題に

2.“ドラッグラグ”と臨床試験の困難さ

さらに、海外との格差に拍車をかけるのが「ドラッグラグ」と「臨床試験の困難さ」です。ドラッグラグとは、新薬が海外で承認されてから、日本で使用できるようになるまでの時間差のことです。

 

そもそも、小児の薬そのものが、

 

●子どもたちの治験参加が難しい、患者数が少ない、倫理的な制約など多くの課題があるため、小児向けの臨床試験が十分に行われない

●小児向け薬の市場規模が成人向け薬に比べ小さいため、製薬企業は投資リターンが低いと判断して小児用薬剤の開発に消極的になりやすい

 

という現状にあります。こうした影響から、特に患者数の少ない小児がんでは、使用できる薬が少ないために治療の遅れが問題となっています。さらに、下記のような理由から、日本の導入が遅れてしまっているのです。

 

●市場規模が小さいにも関わらず開発コストがかかる

●安全性監視活動などの法的制度での負担が大きい

●小児の治験に精通した施設、医師、CRC(臨床研究コーディネーター)の不足など小児治験を実施する環境が不十分

 

なぜ、「日本の」と何度も記載しているのかといえば、海外では成人の重要な薬を開発する際に、必ず子どもにも使用できるように法律によって治験が義務づけられているためです。

* 小児用の薬の開発を義務付ける法律「RACE(Research to Accelerate Cure and Equity) for Children Act(小児のための治療法および公平化促進のための研究法)」

 

こうした環境を打破しない限り、「有効性はわかっているのにも関わらず、いまだに日本では『適応外使用』となっている」という状態が続いてしまうことでしょう。

 

◆まとめ…早急な「適応内」への整備を!

上記のことからわかるとおり、「日本の整備が追いついていないことによる適応外使用」が多いのが現状です。

 

この事実は厚生労働省もよくわかっており、「適応外使用の基本的な考え方」について、「広く医療のなかでより適切に使用されるためには、基本的に薬事承認・保険適用を目指すべき」としています。

 

一刻も早く、適応外使用せず、医師とお子様・親御さん双方が安心して薬が利用できるよう、法整備が進むことを切に願っています。

 

 

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医