長年「世界でもっとも安全な国」といわれてきた日本。しかし近年、豪邸を狙った強盗事件が複数発生していることや、「闇バイト」による強盗や傷害などの犯罪のニュースを耳にすることも増え、“体感治安”は悪くなっています。とはいえ、少子高齢化が進み、こうした犯罪を抑止し治安を維持する人手は減少する一方です。そこで注目したいのが、「防犯テック」。テクノロジーを利用し、犯罪を予防するしくみが米国を中心に増えています。今回は、そんな「防犯テック」の実例や今後の課題についてみていきましょう。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
犯罪被害を防ぐ「予知防犯」まで!進化する世界の最新防犯テック…犯罪ゼロ社会への道のり (※写真はイメージです/PIXTA)

防犯テックの進化の陰で…避けて通れない「リスク」

今回紹介したもの以外にも、今後さらに新しいテクノロジーが次々と登場し、防犯テックは飛躍的に進化していくことが期待されます。なかでもIoT(モノのインターネット)が発展・普及し、あらゆるデバイスがインターネットにつながるようになれば、発生している事象を即座に覚知し、防犯や犯罪者の逮捕につなげることがずっと容易になるでしょう。

 

しかし、防犯テックが普及する際に考えなければならないのは、「倫理的なリスク」です。たとえば中国では、すでに国内に数億台のカメラが設置され、カメラとAIを組み合わせた「天網」というシステムが構築されています。これにより、誰がどこでなにをしているのか、数分で割り出せる仕組みがあるとされます。

 

治安の維持と引き換えに、個人の行動が政府に筒抜けになってしまう社会…。このような社会を我々は望むでしょうか?

 

また、今回紹介した「Citizen」も、実際に倫理的な問題にぶつかっています。

 

Citizenは当初「Vigilante(自警団)」という名前でリリースされており、そのコンセプトは、ユーザーが事件・事故を共有し、「犯罪に巻き込まれている人を皆で助けよう」というものでした。しかし、犯罪の発生を知ったアプリユーザーが助けようと現場に駆けつけると、そのユーザーが犯罪に巻き込まれる恐れがあります。これを危惧した警察やメディアの批判を受け、リリース後わずか数日でAppStoreから削除されました。

 

その後、VigilanteからCitizenにアプリの名称が変わったものの、その内容にはほとんど変化がありません。

 

また、犯罪予測システムについても、もしその情報が警察の外に漏れてしまえば、犯罪が起こりやすい土地の価格が下がったり、その地域の住民に対する偏見を助長したりする恐れがあります。

 

このように、防犯テック普及の先にある二次災害のリスクと、加えて公権力のおよばないところで民間人同士が相互に監視する「私刑化社会」到来のリスクについては慎重に議論していく必要があるでしょう。

 

どこまで国による監視や相互監視の仕組みを受け入れるのか、また犯罪に関するデータをどこまで秘匿し、公開するのかなどのコンセンサスを形成することが、防犯テックを進化させていく前提として重要になってくるのではないでしょうか。

 

出典:※1 警察庁の犯罪情勢統計

出典:※2 SoundThinking

出典:※3 Citizen

出典:※4 Citizenウェブ版

出典:※5 Singular Perturbations

出典:※6 VAAK

 

 

根来 諭
株式会社Spectee 取締役COO