防犯テックの進化の陰で…避けて通れない「リスク」
今回紹介したもの以外にも、今後さらに新しいテクノロジーが次々と登場し、防犯テックは飛躍的に進化していくことが期待されます。なかでもIoT(モノのインターネット)が発展・普及し、あらゆるデバイスがインターネットにつながるようになれば、発生している事象を即座に覚知し、防犯や犯罪者の逮捕につなげることがずっと容易になるでしょう。
しかし、防犯テックが普及する際に考えなければならないのは、「倫理的なリスク」です。たとえば中国では、すでに国内に数億台のカメラが設置され、カメラとAIを組み合わせた「天網」というシステムが構築されています。これにより、誰がどこでなにをしているのか、数分で割り出せる仕組みがあるとされます。
治安の維持と引き換えに、個人の行動が政府に筒抜けになってしまう社会…。このような社会を我々は望むでしょうか?
また、今回紹介した「Citizen」も、実際に倫理的な問題にぶつかっています。
Citizenは当初「Vigilante(自警団)」という名前でリリースされており、そのコンセプトは、ユーザーが事件・事故を共有し、「犯罪に巻き込まれている人を皆で助けよう」というものでした。しかし、犯罪の発生を知ったアプリユーザーが助けようと現場に駆けつけると、そのユーザーが犯罪に巻き込まれる恐れがあります。これを危惧した警察やメディアの批判を受け、リリース後わずか数日でAppStoreから削除されました。
その後、VigilanteからCitizenにアプリの名称が変わったものの、その内容にはほとんど変化がありません。
また、犯罪予測システムについても、もしその情報が警察の外に漏れてしまえば、犯罪が起こりやすい土地の価格が下がったり、その地域の住民に対する偏見を助長したりする恐れがあります。
このように、防犯テック普及の先にある二次災害のリスクと、加えて公権力のおよばないところで民間人同士が相互に監視する「私刑化社会」到来のリスクについては慎重に議論していく必要があるでしょう。
どこまで国による監視や相互監視の仕組みを受け入れるのか、また犯罪に関するデータをどこまで秘匿し、公開するのかなどのコンセンサスを形成することが、防犯テックを進化させていく前提として重要になってくるのではないでしょうか。
出典:※1 警察庁の犯罪情勢統計
出典:※2 SoundThinking
出典:※3 Citizen
出典:※4 Citizenウェブ版
出典:※5 Singular Perturbations
出典:※6 VAAK
根来 諭
株式会社Spectee 取締役COO