昨年、岸田首相は資産所得倍増プランを公表し、「貯蓄から投資へ」を促しているものの、資産形成への理解が進んだとは言えない現状です。どうすれば、日本人は投資へ目が向くのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の磯部広貴氏が考察します。
「貯蓄から投資へ」の推進に向けて目標利回り設定を (写真はイメージです/PIXTA)

2―目標があるからリスクを取れる

受験に例えてみたい。いくら勉強をしたところで志望校に合格できる保証はない。不合格になってしまえば、勉強に費やした時間も労力も、教材などを買った経済的負担も水泡に帰す。それでも受験するのは、志望校に合格したいという目標があるからだ。

 

では志望校はどうやって決めるのか。1年か2年かけてじっくり勉強に専念することが許されるなら、今の実力よりずっと高いところに設定するのも一策。アルバイトをしながら半年後にどうしても合格したいのであれば、今の実力プラス少しの努力で合格できるところにするのも一策。それぞれ自分の事情に応じて決めることになる。

 

資産運用における目標設定においても同様である。毎月いくら拠出できるか、老後まであと何年あるか、老後はどのような生活水準としたいのか、損失を被っても働いて稼ぐことでカバーできるかなどを考慮して、最終的には一人一人が決めていくしかない。また、その目標は自身のライフスタイルの変化などに基づいてタイムリーに見直していく必要がある。

 

その目標が元本確保型商品で達成される水準でない限り、投資した金額が毀損(元本割れ)する可能性が生じる。それでも熟慮の上に定められた目標であるからこそ、その危険を冒して投資に進むことができる。

 

税制優遇のある投資の仕組みを作ることも、長期の資産形成に資する運用商品の開発ももちろん重要ではあるが、政府や金融機関に対しては、まず国民が自らの資産運用の目標を設定するための情報提供が求められよう。提供された情報に基づいて、一度設定したものの実現可能性が低くリスクの高い目標が修正されることもあるだろう。

 

3―目標利回りが定まって、何にどのように投資するか考えられる

前述の通り個人がその様々な事情に基づいて資産運用の目標を考えていくところ、その目標は基本的に目標利回りの水準、1年間に何%の増加を目指すかに集約されていく。その水準に応じて投資の方針が違ってくるためだ。目標1%と5%では、何にどのような割合で投資するかは大きく異なるし、元本割れの危険度も同じではない。

 

例えば諸事情を考慮の上、毎月3万円の積立が可能、何とか20年で1000万円にしたいと考えたとする。金融庁HPの資産運用シミュレーションを用いて目標利回りを算出しよう。

 

「将来いくらになる?」を選択し、毎月の積立金額に「3」万円、積立期間「20年」を入力の上、最終積立金額が1000万円に達するまで想定利回り(年率)を動かしていく。想定利回り(年率)を3.2%にしたところで最終積立金額は1000万円を超える。よって利回り3.2%を目標に考えていけばよい。

 

【図表2】
【図表2】

 

現在の金利環境ではすべて元本確保型商品で3.2%は到底望めない。株式などのハイリスク・ハイリターン商品の中から何をどれくらい入れていくか考えつつ、自分がそのリスクを受け止めることができるか判断しなくてはならない。

 

目標を定めリスクを承知して「貯蓄から投資へ」がスタートする。