日本は「死んだら終わり」…異状死体の解剖・原因の究明が進まない理由
こうしたなか、異状死体、とくに未成年の死体は解剖に回されることは少ないというのが、日本の現状です。実際、日本では異状死体の解剖自体が15%程度しか行われていません。法医学者と海外の医師からすると日本はまさしく、「死んだら終わり」と言われています。
それはなぜか。下記の3点が主な理由であると考えられています。
● 実際に法医解剖が必要と考えても、子どもの場合には、保護者の同意が不要とは言え、心情的に難しいケースがあること
● 警察が法医解剖不要と判断すれば、病理解剖は保護者の同意が得られないのでほとんど解剖されないこと
● 監察医が置かれている場所自体が限られており、時間が大幅にかかってしまい、デメリットに感じやすくなっていること
これらの背景には、法医学医になる人数が少ないこともあげられるでしょう。
実際、2020年の統計によると、日本国内の死亡者138万人のうち約17万人が異状死なのにもかかわらず、死体を専門にみる法医解剖医は、国内にわずか150人しかいません。
しかも、これまでに私が経験した、乳幼児突然死症候群が疑われた不審死に関する監察医のレポートは、いずれも結果が出るまで3ヵ月ほど要しました。
その理由として、日本の医学教育は「臨床医になること」が第一のように教育されてしまっている部分も大きいですね。法医学は臨床医学とは分けられて考えられてよいはずなのに、臨床医学の枠組みのなかに入っているので、最初から法医学を志す人が少ないのです。
こうしたことから、異状死の原因を明らかにするためにも、法医学の整備と人材確保はもっとすすめられていくべきでしょう。
法医学にもっと光を!
今回は監察医制度・法医学にまつわる現状を解説していきました。
最近はドラマなどでも監察医がとりあげられていることから、もっと法医学が認知され、乳幼児突然死症候群といった「原因不明の死因」についての究明が進むことも期待できそうす。
こうした時代の動きによって、より多くの人が法医学に関心を持ってくれることを切に願っています。
秋谷 進
東京西徳洲会病院小児医療センター
小児科医