(※画像はイメージです/PIXTA)

高齢の父親が亡くなり、相続が発生――。その際、しばしば選択されるのが「まずは、母親に全額相続させる」というパターンです。配偶者であれば、1億6000万円まで、あるいは配偶者の法定相続分相当額まで無税となるため、よい方法のように考えがちです。しかし、場合によってはその後の「母亡き後の相続」で大変なことになりかねません。

母が亡きあとは平穏だったが…「二次相続」でトラブル噴出のワケ

二次相続とは、一次相続で相続人となった配偶者が亡くなったときに発生する相続のことを指します。じつは、この二次相続、相続人の紛争が激化することが多いのです。

 

賃貸アパートを管理していた父親が亡くなったが、相続税をはじめとする税金の処理があることから手続きを急ぎ、とりあえず配偶者である母親を中心に相続させる内容で、バタバタと「一次相続」を終了。

 

しかしその後、母親が亡くなり「二次相続」となり、兄弟姉妹間での遺産を分割することとなった途端、激しい紛争に発展――。

 

相続財産の分割が難しくても、一次相続の時点であれば、問題を未来の二次相続まで棚上げし、とりあえず相続手続きを終えることが可能です。

 

しかし、二次相続では、問題の「棚上げ」は行えず、兄弟姉妹間で遺産分割に決着をつけることになります。その際、各自の取り分が明確になることもあり、それぞれの思惑がぶつかって紛争になりやすいのです。

 

一次相続の際、配偶者に多く相続させるケースが多いのは、問題の棚上げという側面のみならず、税務上の制度としても、そのほうが相続税を圧縮する特例が利用でき、相続税上も有利になりやすいことが理由だといえます。そのことから、配偶者を中心に相続させる遺産分割協議が多く行われています。

 

一次相続の手続きがきちんと完了しているにも関わらず、二次相続でトラブルになってしまうこともありますが、そもそも一次相続手続きが完了しておらず、二次相続と一次相続の問題を同時並行で処理しなければならないというケースもあり、その場合は、いっそう問題がこじれやすくなり、厄介です。

 

一次相続手続きを終えていない場合、一次相続の結果によって二次相続の際の財産額が変動してしまうことが、トラブルを増大させています。

 

トラブルに白黒つけるため裁判所手続きを行うことになっても、解決までには長い時間と多大な労力がかかります。

「最初の相続で、権利関係を整理しておけばよかったのに…」

ここでは、私が過去にいただいたご相談事例を紹介します。

 

戸建ての実家の権利の5分の1(約2,000万円)を保有していた母親が死去(一次相続)。しかし、相続手続きを行わずに放置した。その後、戸建ての実家の権利の5分の4(約8,000万円)とアパート3棟(約4,000万円×3)と、およそ約2億円の財産を保有していた父親が死去した(二次相続)。

 

このような場合、亡くなった母親の権利を、相続発生の時点で処理しておけば、大きなトラブルになる可能性は低いといえます。その場合、実家の権利を共有している父親にまとめたうえで、子どもたちに一定の代償金を支払うというのがよくある例です。しかしこれが、一次相続と二次相続を同時処理しようとすると、かなり煩雑になってきます。

 

一般的に、遺産分割の紛争を収めるには、相続人同士が多少の譲歩をして、和解に持ち込み解決を図ることになります。訴訟のように、どちらかが100%勝訴してどちらかが0%という「100か0か」の解決ではなく、多少不満が残っても双方譲り合って解決を図るのです。

 

また、金銭的に納得できなくても、紛争が長びけばストレスや労力が増えるため、「早く終わらせるために譲る」という思考のもと、解決に至るケースも多くあります。

 

それが、前述のような一次相続と二次相続を一緒に処理する状況になると、「一次相続で譲歩することで、二次相続が不利になるのでは」という疑念が生じ、譲り合いができにくくなる他、一次相続後も二次相続の紛争があるとなれば、解決まで長引くことは決定的であり、だからこそ「簡単には譲れない、降りられない」という心境になりがちなのです。

 

つまり、一次相続と二次相続を並行した処理は、相続財産の連動化・複雑化という問題、そして、相続人が疑心暗鬼となりやすく、譲歩しにくい心理状態に陥ることから、紛争解決が難しくなるケースも多いといえるのです。

母亡きあと、父が「遺言書」を準備するべき理由とは?

では、紛争を減らすにはどうすれば良いのでしょうか。

 

それは「二次相続時に、遺言書等の対策を施しておく」ことに尽きると思います。

 

筆者は仕事柄、相続対策における遺言書の重要性を各所で説いていますが、実際問題として、遺言書の作成が心情的に着手しづらいことも理解しています。遺言書を作成するとなると、自分の死をイメージせざるを得ず、「法定相続」という制度から、「自分の意思」で子どもたちの取り分を左右するとなると、責任の重さを感じ、問題から目を背けたくなります。そのため、遺言書が普及しない心情や背景もよくわかるのです。

 

しかし、だからこそ、一次相続後の「二次相続時」における遺言書作成の必要性を、強調すべきだと痛感しているのです。

 

一次相続は、配偶者の相続分について相続税の特例が利用できますし、また、親の世代の意見も反映させられるため、相続手続きの完了は比較的容易です。もっとも、一次相続で手続きの複雑さや大変さを実感してこそ、遺言書の必要性が理解できるのではないでしょうか。

 

現に筆者への遺言書作成等の依頼は「一次相続の終了後の二次相続開始前」のタイミングが最多です。一次相続の際、税理士、司法書士等の専門家が関与することで、二次相続の問題点が明確となるため、二次相続を考えるというパターンが多いのでしょう。

 

しかし、遺言書で相続時の苦労を回避できるのかといえば、そうではありません。法律には「遺留分」といって、一定の相続人に遺言でも奪うことのできない相続財産の取得する権利を認めているため、紛争を100%防ぐことは困難だといえます。

 

そうはいっても、不動産の相続に特化して言うなら、遺言書があることで不動産の権利が確定でき、金銭請求のみに整理できる点は大きなメリットです。とくに賃貸アパートを抱えていると、相続が確定するまでローン返済や賃貸運営が止まってしまうため、相続人を明確化する遺言書の存在は、非常に有意義であると言えるでしょう。

資産防衛の観点からも、先々の相続を見越す「先見性」が重要に

今回は、二次相続の問題点とその対策法をお話しました。やはり一番大変な状況となるのは、「一次相続を放置し、二次相続と同時処理」する場合です。

 

令和6年4月1日から、相続登記や不動産の名義変更をしない場合に罰則が設けられることになり、法的にも放置できない状況となりました。相続トラブルは、社会制度や個人の考え方の変化に伴い、増加傾向にあるというのが、偽らざる実感です。

 

その点からも、一次相続を乗り切ったあとの二次相続は、遺言書を準備してトラブルを防ぐという対策が、より広まってもらえたらと願っています。

 

(義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)

 

 

山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。