そもそも認知症ってなに?
認知症とは、以前「痴呆」と呼ばれていた病気です。なぜ「認知症」という名前に変更されたかというと、
①表現が失礼
②実態を正確に表していない
③名前のイメージから、早期発見・早期診断の取り組みの支障になる
という問題点が指摘されていましたからなのです。これらの問題点が厚生労働省の検討会で話し合われた結果※1、いまや「痴呆」という言葉は使われず、「認知症」という言葉に置き換わったという背景があります。
◆認知症とは?
厚生労働省のホームページでは「認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます」と記されていますが、ちょっとわかりにくいですね。まず「認知機能ってなんだろう?」と首をひねってしまいます。
「認知」についてWikipediaを調べてみると、
「人間などが外界にある対象を知覚したうえで、それが何であるかを判断したり解釈したりする過程のこと。」
とあり、さらに、
「認知機能」とは『ものごとや外界を正しく理解し、適切に実行するための機能』のことを指す」
とされています。やっぱりわかりにくい…。
さらにかみ砕いて解説しましょう。わかりやすさに振り切って説明するなら、「認知機能」とは、「脳の働き(機能)のうち、筋肉を動かす運動機能、五感を感じ取る感覚機能以外の全部」のことです。そう、つまり脳の働きの大半は「認知機能」なのです。
細かく言えば、自律神経を中心とした生命維持機能とか、感情自体は認知とは別とか、いろいろ出てきてしまうのですが、ここでは「運動と感覚以外の脳の働きが認知機能である」と、ざっくり理解しておきましょう。
ならば、認知症って認知機能が低下するわけですから、とても大変な病気ですよね。そして、冒頭でお伝えした、「痴呆→認知症」という言葉に置き換わった理由として、「早期発見・早期診断の取り組みの支障になること」というものがありましたが、その背景には、認知症も早期発見して対策をすれば進行を防げるかもしれないという点、何らかの予防策があるかもしれないという点など、いろいろと明らかになったことが挙げられます。
認知症リスクを減らすには?
認知症と生活習慣や「運動」などの関係、特に予防効果に関する研究が世界中で行われています。それらをもとに、では実際に、日々どのように過ごしていったら、認知症を予防できるのだろう?ということを考えていきます。
◆1日に15分歩くだけでも効果があるかも
2004年の研究では、日頃よく歩く方は認知機能テストの成績がいいことが示され、特に1週間に90分以上(1日あたりにすると15分程度)歩く方は、週に40分未満の方より認知機能がいいという結果が報告されました※2。
ウォーキングの健康効果は様々な研究でもわかっていますが、認知症予防にも効果が期待できるわけですね。
◆厚生労働省は「+10分」を推奨
15分のウォーキングの効果ですが、厚生労働省は「+10:いまより10分多く体を動かそう」と推奨しています※3。
「+10分の運動」によって「死亡リスクを2.8%」「生活習慣病発症を3.6%」「ガン発症を3.2%」「ロコモ・認知症の発症を8.8%」低下させるというデータが示され、さらに「+10分の運動」を1年間継続すると、1.5~2.0kgの体重減少(ダイエット)効果があったと報告しています。
これは「10分運動しましょう」ということではなく「今の活動に加えて+10分だけ運動時間を作りましょう」ということです。その「+10分の運動」は筋力トレーニングやウォーキングなどが推奨されていますが、お掃除だって、通勤だって、買い物だっていいという感じで、継続のハードルを下げたかたち提唱されています。
いかがでしょう。「それならできそうだな」と思いませんか? しかも、その+10分だけで、認知症リスクを8.8%下げるだけでなく、様々な健康リスクを減らせることがわかっていれば、モチベーションも維持できそうですね。
さらに認知症予防効果を高めたい方には「早歩き」「筋トレ」がおすすめ
「なるほど、ちょっと歩くことを増やすだけでもいいんだな」とわかったところで、「認知症リスクを減らせる、もっと効果の高い方法はないのか?」と思われた方もいるでしょう。そこで、2022年のある研究をご紹介したいと思います。「なぜ運動が認知症予防になるのか」というメカニズムの面でも興味深い知見を与えてくれています。
うつ病や認知症と関連があるとされる「脳由来神経栄養因子:brain-derived neurotrophic factor(BDNF)」という物質があります。これはタンパク質の一種で、神経細胞の成長や再生を促すものとして知られています。逆にいうと、これが不足することで神経細胞がどんどん減少する方向性へと動くわけです。だからこそ、認知症との関連が注目されているタンパク質なのです。
そしてこのBDNFは、運動で増えることがわかっているのですが、ゆっくり歩くなどの低強度の運動より、早歩きや筋トレなどの中強度以上の運動の方が増え方が大きいことが示されたのです※4。
となると、やはりハードに運動したほうがいいと思われるかもしれません。
ただし、整形外科医としては注意していただきたい点があります。
運動習慣を作るときに気をつけたい関節の問題
よく私たち整形外科医が患者さんに説明するのは「筋トレでは筋肉は鍛えられるが、関節は鍛えられない」ということです。つまり、筋トレやランニングなど運動の強度を上げていくと、むしろ、ランニングで体重を支えたり、筋トレでダンベルを支えたりする関節には、良くない影響がありうるということです。関節ごとに細かく説明すると長くなるので割愛しますが、大事なポイントだけ伝えさせてください。
関節に痛みを感じたときはまず整形外科で診察を受けてください。そして、どのような運動であれば、その関節に負担がかからないかを相談することが大切です。もしくは、その関節の問題を解決しないと運動できないから、まず治療に専念するということもあり得ます。
間違っても「痛いのは筋力が不足しているせいだ」と決めつけて、無理して運動を続けることは避けていただければと思います。
楽しく、痛みなくできるからこそ、運動は効果を示し、継続できるものだということを忘れないでいただければ幸いです。
出典
※1 『「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書』平成16年12月24日 「痴呆」に替わる用語に関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/s1224-17.html
※2 Jennifer Weuve et al. JAMA. 2004 Sep 22;292(12):1454-61. Physical activity, including walking, and cognitive function in older women
※3 「健康づくりのための身体活動基準2013」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-01-002.html
※4 Rubén Fernández-Rodríguez et al. J Sport Health Sci. 2022 Immediate effect of high-intensity exercise on brain-derived neurotrophic factor in healthy young adults: A systematic review and meta-analysis
歌島 大輔
横浜町田関節脊椎病院
整形外科医
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