2020年から長く続いたコロナ禍は、さまざまな社会の変化をもたらしました。デジタルデバイスを用いた新しい働き方やサービスといえば「リモートワーク」や「オンライン診療」といったものが挙げられますが、教室に行かなくても授業が受けられる「リモート教育」にいま注目が集まっています。本記事で詳しくみていきましょう。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
前時代的な教育システムを根本から変える…“すべての子どもに最適な教育”が叶う「エドテック」の全貌 (※写真はイメージです/PIXTA)

世界に引けをとらない日本のエドテック

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

世界では、主に米国がエドテックをリードしています。米国では、誰でも無料で教育用動画を視聴できる「カーンアカデミー」が2008年に開設され、エドテックの先進事例として知られています。

 

また、中国も“米国に追いつき、追い越せ”と猛チャージをかけていました。ところが、エドテックによって学校以外の教育サービスを受けられるようになった富裕層の子どもが「受験で有利だ」との国内批判が高まり、中国政府は2021年、学習塾などの教育サービスへの規制を強化しました。これにより教育産業は大きな打撃を受け、エドテックの開発競争では、先頭集団から1歩後退したという状況にあります。

 

他方、日本も負けていません。文部科学省は2019年、全国すべての小学生~高校生に1人1台の教育用モバイルを支給し、高速通信ネットワーク環境を与える「GIGAスクール構想」をスタートさせました。こうした取り組みは、先進各国を含めて世界初です。日本がエドテックのトップランナーになるのも夢ではありません。

 

通信制高校の概念を変えたN高校とS高校

未来のエドテックを先取りしたような教育機関も、すでに日本に誕生しています。その代表例が、2016年に開校した沖縄県うるま市の「N高校」と、2021年に開校した茨城県つくば市の「S高校」。両校とも、KADOKAWAグループが創設した私立のオンライン通信制高校です。

 

いままでの通信制高校は、全日制高校に通学できない事情を抱えた若者や、働く若者などが学ぶ“特殊な高校”というイメージがありました。ところが、N高校とS高校は、そうした従来の通信制高校のイメージを大きく塗り替えたのです。

 

オンラインで授業を受けられるため、日本国内はもちろん、外国にいても学ぶことができます。両校の生徒数は2022年12月時点で合計約2万3,000人と日本最大規模。単位制のため学びたい教科を自由に選びやすく、「学力を伸ばせる」と人気を集めています。英語や数学といった主要科目だけでなく、プログラミングやデジタルクリエイティブといった両校ならではの科目も履修が可能です。

 

原則としてホームルームもリモートで実施されますが、全国各地にスクーリング(対面での必修授業)のためのキャンパスがあり、通学での学習をメインとしたコースも選択できるようになっています。

 

クラブ活動も盛んで、「起業部」「投資部」「eスポーツ部」といったユニークなクラブもあります。また、SDGsのアイデアを競うコンテスト「SDGs探求AWARDS」で中高生部門優秀賞を受賞するなど、多方面で活躍を見せています。

 

開校当初は、「オンライン通信制高校で社会性が身につくのか」「友人が作れるのか」などと疑問視されていましたが、杞憂に過ぎなかったようです。デジタルネイティブの高校生は、オンラインの学習環境にうまく適応して、コミュニケーションを取ったり、学園生活を楽しんだりしているのでしょう。

 

両校は進学実績も高く、2021年度は東京大学と京都大学に各1名、早稲田大学に40名、慶應義塾大学に26名が合格しました。オンライン通信制高校でも難関大学入試を突破する学力が得られることを証明した格好です。さらに、中国の北京大学やカナダのトロント大学といった海外の有名大学への進学も増えています。

 

N高校・S高校のほかにも、2020年には、新潟産業大学がオンラインで経済学や経営学を学べる通信制大学「managara(マナガラ)」を新設しました。このように、今後はエドテックを活用した新型の学校が全国に展開すると見込まれます。