ITの急激な進歩とコロナ禍を契機として、フィットネス・ビジネスの形は大きく変わりました。とりわけ、今や世界有数のIT大国となった中国ではフィットネスジムと自宅で行うトレーニング「宅トレ」のいずれにおいてもDX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展が目覚ましく、ユニークな進化を遂げています。近い将来、日本でも同様のサービスが広く普及する可能性があります。ジャーナリスト・高口康太氏が解説します。
もうすぐ日本も席巻!? 筋トレのDX デジタル大国・中国で進化するフィットネス・ビジネス (※写真はイメージです/PIXTA)

スポーツジムで体を鍛える、ヨガで心身を整える……こうしたフィットネスの世界にもDX(デジタル・トランスフォーメーション)の波が押し寄せています。人間の体の仕組みははるか昔から変わりませんが、より簡単に、より高精度に、より楽しくフィットネスに取り組める環境が整いつつあるのです。

 

デジタル技術による変革は世界的な現象です。その中でもユニークな事例を数多く輩出しているのが、新興デジタル大国の中国です。フィットネスの分野もその一つ。この記事では中国でどのような新トレンドが生まれているのかを見ていきます。

スポーツジムの変革

フィットネス・ビジネスの代表格といえばスポーツジム。昔からあるこのビジネスにも大きな変化が到来し、日本のジムビジネスも激変しています。ほんの十年ほど前ですと、ジムといえばウェイトトレーニング機器、ランニングなどの有酸素マシン、プール、ヨガやダンスを行うスタジオのすべてを完備した総合型ジムが主流でした。

 

それが現在ではウェイトトレーニング機器と有酸素マシンだけの24時間ジム、ヨガスタジオなど機能ごとに分かれた小規模専門型が主流です。低価格でサービスを提供でき、利用者の近場に店舗を構えることができる点が長所です。

 

大型総合ジムから小型専門ジムへの流れは中国でもコロナ禍以前から進んできました。というのも、中国ではクレジットカードによる月額課金が普及していないため、ジムの料金は6カ月分、1年分の長期利用カードを購入するスタイルが中心でした。期間を長くすればするだけ割引されるので、3年分、5年分という長期契約のカードまでありました。

 

ところが、お金を集めるだけ集めて半ば計画倒産のように潰れてしまう、そこまでひどくなくてもスタジオプログラムの中止など契約当初のサービス水準が維持されないという不当行為が横行していました。

 

この課題をクリアすることで人気を集めてきたのが、2010年代半ばから登場してきた「楽刻運動」や「スーパーモンキー」などの新型スポーツジムです。小規模店舗で安く通いやすいという特徴は日本とも共通していますが、月額払いや1回ごとの利用料支払いという形式を採用することで、倒産して前払い金がムダになる不安がないことが魅力でした。

 

問題は短期契約の場合、会員がすぐにやめてしまうというリスクがある点です。が、それを補うのがアプリです。新型ジムのアプリには支払いや会員カード代わりという役目以外にも、実に多くの機能が搭載されています。ヨガやダンスなどの有料プログラムの申込み、トレーニングプログラムの作成と保存、体重の記録や消費カロリーの計測といった内容です。

 

いわばフィットネスに関する機能をオールインワンで詰め込んでいるわけです。支払いと会員カード代わりのアプリならばほとんど利用する機会はないですが、これだけの機能があると日々アプリを利用する人も多いでしょう。

 

毎日アプリを使うということは、ジムとユーザーにデジタルの“接点”が生まれることを意味します。利用者には月額払いでいつでも辞められるという気楽さがありますが、日々アプリを使って健康やフィットネスについて考えるようになれば継続する動機が生まれるわけです。