新型コロナウイルスの流行で認知症リスクが上がった理由とは?認知機能の低下を防ぐ「日々の過ごし方」7つのヒント【医師が解説】

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大西 睦子
新型コロナウイルスの流行で認知症リスクが上がった理由とは?認知機能の低下を防ぐ「日々の過ごし方」7つのヒント【医師が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本では不要不急の外出を控えるよう求められたり、諸外国でもロックダウンが強いられたりと、人々の生活は大きく変わりました。生活様式の変化を受けて懸念された「健康への悪影響」は、運動不足や食生活の乱れなどにとどまりません。本稿ではコロナ禍で顕在化した「認知機能の低下要因」について、米国在住の大西睦子医師が解説します。

コロナ禍、友人から届いた連絡

(※画像はイメージです/PIXTA)
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2020年の夏、新型コロナウイルスの流行のため、私が在住する米マサチューセッツ州ボストンでは厳しいロックダウンが続いていました。そんな中、友人から「ジョージア州の故郷に住む母の認知症が、急激に悪くなっている。今後パンデミックがどうなるかわからない。遠くに住む両親がとても心配だ。彼らの様子を見に行ってくる」と連絡がありました。そして友人は、ボストンから約1,800km離れたアトランタ郊外の片田舎まで、車で両親に会いに行きました。

 

友人は故郷に到着したとき、「年老いた両親が、自立してこの町で生活するのは不可能だ。地域のネットワークがほとんどない。しかもインターネットがうまくつながらないので、遠くに住む家族とも連絡ができない。そもそもちゃんと食事ができていない」「今後、自分を含め、家族がこの家に住むことはないだろう」と判断したといいます。そして友人は故郷の家を売り払い、車に入るだけの荷物を積んで、両親とともにボストンに戻ってきました。

「社会的に孤立した状態」は、認知症リスクを25%以上高める

(※画像はイメージです/PIXTA)
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友人が両親をボストンに連れてきた大きな理由は、社会的孤立を懸念したためです。中国復旦大学や英国ケンブリッジ大学の研究者らは、2022年7月の医学誌「Neurology」に、社会的孤立により認知に関わる脳の領域が萎縮し、認知症のリスクが高まることを報告しました(*1)

 

研究者らは、パンデミック前に、英国全土の46万人以上(調査開始時の平均年齢57歳)を対象に、約12年間に及ぶ追跡調査を行いました。また参加者のアンケートを収集し、MRIなどさまざまな身体的・生物学的測定を行いました。さらに、参加者は認知機能を評価のために、思考と記憶のテストを受けました。

 

社会的孤立については、社会的接触に関する3つの質問、「他人と一緒に住んでいますか?」「友人や家族と少なくとも月に1回は会っていますか?」「クラブや会合、ボランティア活動などの社会的活動に、少なくとも週1回は参加していますか?」を尋ねられました。少なくとも2つの質問に「いいえ」と答えた人は、社会的に孤立しているとみなされました。

 

すると、約42,000人(9%)が社会的に孤立していると報告され、29,000人(6%)が孤独を感じていました。また、研究期間中、5,000人近くが認知症を発症しました。社会的に孤立している人のうち1.55%(約4万2,000人中649人)が認知症を発症したのに対し、社会的に孤立していない人では、認知症を発症したのは1.03%(約42万人中4,349人)でした。

 

年齢、性別、社会経済的地位、アルコール摂取量や喫煙、うつ病や孤独感などの他の条件を含む要因を調整した後、研究者は、社会的に孤立した人は、学習や思考に関わるさまざまな領域の脳の灰白質の体積が少ないことを発見しました。

 

また社会的に孤立している人は、社会的に孤立していない人に比べて、認知症を発症する可能性が26%も高まることを明らかにしました。ちなみに、孤独感は、認知症発症との強い相関は見られませんでした。

 

論文著者の復旦大学フォン・ジャンフェン教授は、ケンブリッジ大学のニュースで次のように述べています(*2)

 

「社会的孤立は、深刻でありながら十分に認識されていない公衆衛生上の問題であり、多くは老いと関連している」

 

「新型コロナの流行に伴い、社会的孤立、すなわち社会的ネットワークから切り離された状態はますます強まっている。社会的に孤立している人々を特定し、彼らがコミュニティでつながりを持てるようにリソースを提供することがこれまで以上に重要」

電子メールやテキストメッセージで社会的孤立に陥るリスクを低減

(※画像はイメージです/PIXTA)
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一方、ジョンズ・ホプキンス大学医学部とブルームバーグ公衆衛生大学院の研究者は、2つの研究において、社会的孤立が地域に住む(施設に入所していない)高齢者における認知症の重大なリスクであり、それに取り組むための効果的な方法として、電子メールやテキストメッセージによる他者とのコミュニケーションを特定しました。

 

まず1つ目の研究は、2023年1月の「米老年医学会誌(Journal of the American Geriatrics Society)」の報告です(*3)。ここでは、2011年に始まった「国民健康・高齢化動向調査(National Health and Aging Trends Study)」で、メディケア(65歳以上の高齢者および障害者向けの公的医療保険制度)受給者5,022人を対象としたデータを使用しています。参加者は全員65歳以上であり、認知機能、健康状態、全体的な幸福度を評価するために、年に1回2時間の対面インタビューを受けました。

 

最初のインタビューでは、5,022人の参加者のうち23%が社会的に孤立しており、認知症の兆候はありませんでした。ところが、この9年間の研究の終了時には、参加者の21%が認知症を発症していたのです。研究者らは、9年間の認知症発症リスクは、社会的に孤立していない高齢者と比較して、社会的に孤立した高齢者では27%高かったと結論づけました。

 

この調査から、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のアリソン・ホアン博士は、同大学のニュースに「社会的に孤立した高齢者は、社会的ネットワークが小さく、一人暮らしで、社会活動への参加も限定的」「ひとつの可能性として、他人と交わる機会が少ないことは、認知的関与を低下させ、認知症のリスクを高めるのかもしれません」と述べています(*4)

 

2つ目は、2022年12月に研究者らが「米国老年医学会誌」に報告したものです(*5)。ここでも、研究者らは「国民健康・高齢化動向調査」のデータを使用しました。

 

すると、初診時に社会的に孤立していなかった65歳以上のうち70%以上が携帯電話またはコンピューターを使用し、電子メールやテキストメッセージによって他者と定期的にコミュニケーションを行っていることが明らかになりました。

 

さらに4年間の調査期間中、電子メールやテキストメッセージといった技術を利用できる高齢者は、利用できない高齢者に比べて社会的孤立に陥るリスクが31%も低いことが一貫して示されました。

4.認知症リスクを減らす7つの習慣

(※画像はイメージです/PIXTA)
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上記の研究から、社会的孤立が認知症のリスクとなることが明らかになりました。最後に、「日々の過ごし方」に見る、認知機能の低下を防ぐヒントをご紹介します。

 

2023年4月22日から27日までボストンで開催される第75回米国神経学会のニュースによると、同学会ではボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院の研究者らが、13,720人の女性(研究開始時の平均年齢54歳)を対象にした20年間にわたる調査の結果を発表する予定です。この調査によると、米国心臓協会が推奨する7つの健康的な生活習慣「Life’s Simple 7」(*6)を取り入れることで、認知症のリスクが下がる可能性があるといいます。

 

その7つの生活習慣「Life’s Simple 7」は以下のとおりです。

 

1. 活動的であること

2. 健康的な食生活を送ること

3. 健康的な体重を維持すること

4. 喫煙しないこと

5. 血圧が正常であること

6. コレステロール値をコントロールすること

7. 血糖値を低くすること

 

調査では、それぞれの生活習慣について0点と1点のスコアが与えられ、最高7点のスコアリングが可能でした(0=悪い、7=優れている)。平均スコアは、研究開始時では4.3、10年後は4.2でした。

 

年齢や学歴などの要因を調整した結果、スコアが1点上がるごとに認知症のリスクは6%低下することがわかりました。調査では、20年後に、参加者の13%にあたる1,771人が認知症を発症していました(*7)

 

研究を率いたブリガム・アンド・ウィメンズ病院のパメラ・リスト助教授は、「1日30分の運動や血圧をコントロールするなどの対策を取ることで、認知症のリスクを減らすことができると知れば、人々の力になる」「認知症は、診断の何十年も前から脳で始まることがわかっている。よって、中年期の習慣が老年期の認知症のリスクにどのように影響するのかをもっと知ることが重要」と述べています。

 

2022年の秋頃、友人の母は、夫の顔も息子の顔もわからなくなりました。さらに2週間ほど前、友人は「母の食欲がまったくなくなった。母は元気なときから、無駄な延命を希望しなかった。母の意を汲んでチューブからの栄養や点滴はしない」と語りました。

 

そしてその数日後、「母が亡くなった。ボストンに連れてきたのは正解だった。孫とも一緒に過ごせて良かった」と連絡がありました。友人の母は、認知症の進行を止めることはできなかったものの、人生最後の時間を家族と共に過ごすことができて幸せだったと思います。


 

 

【*参考文献】 

1 Chun Shen, Edmund T. Rolls, Wei Cheng, Jujiao Kang, Guiying Dong, Chao Xie, Xing-Ming Zhao, Barbara J. Sahakian, Jianfeng Feng. (2022, July 12). Associations of Social Isolation and Loneliness With Later Dementia. Neurology. https://n.neurology.org/content/99/2/e164

 

2 Social Isolation May Impact Brain Volume in Regions Linked to Higher Risk of Dementia. (2022, June 8). University of Cambridge. https://www.cam.ac.uk/research/news/social-isolation-may-impact-brain-volume-in-regions-linked-to-higher-risk-of-dementia

 

3 Alison R. Huang PhD, David L. Roth PhD, Tom Cidav MS, Shang-En Chung ScM, Halima Amjad MD, MPH, PhD, Roland J. Thorpe Jr. PhD, Cynthia M. Boyd MD, MPH …(2023, January 11). Social Isolation and 9-Year Dementia Risk in Community-Dwelling Medicare Beneficiaries in the United States. Journal of the American Geriatrics Society. https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.18140

 

4 New Studies Suggest Social Isolation Is a Risk Factor for Dementia in Older Adults, Point to Ways to Reduce Risk.(2023, January 12). Johns Hopkins Medicine. https://www.hopkinsmedicine.org/news/newsroom/news-releases/new-studies-suggest-social-isolation-is-a-risk-factor-for-dementia-in-older-adults-point-to-ways-to-reduce-risk

 

5 Mfon E. Umoh MD, PhD, Laura Prichett PHD, MHS, Cynthia M. Boyd MD, MPH, Thomas K. M. Cudjoe MD, MPH. (2022, December 15). Impact of Technology on Social Isolation: Longitudinal Analysis from the National Health Aging Trends Study. Journal of the American Geriatrics Society. https://agsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.18179

 

6 Life’s Simple 7. American Heart Association. https://playbook.heart.org/lifes-simple-7/

 

7 American academy of neurology. (2023, February 18). Can Seven Healthy Habits Now Reduce Risk of Dementia Later? News Wise. https://www.newswise.com/articles/can-seven-healthy-habits-now-reduce-risk-of-dementia-later

 

大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。