本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。今回は、近年多発する災害と共生していく私たちが、身を守る手段として今後欠かせないものとなってくる「オルタナティブ・データ」について、その活用事例とともにわかりやすく解説します。
劇的に被害を減らす…テクノロジーの進化による災害の「見える化」 (※写真はイメージです/PIXTA)

災害の可視化の実例

これまで紹介したようなオルタナティブ・データの活用によって「災害の可視化」が劇的に進んでいます。近年において発生した災害を取り上げ、その実例をご紹介します。

 

事例【1】熱海土石流

2021年7月3日に発生し、多くの命を奪った熱海市伊豆山での大規模土石流。静岡市消防局は発生当日にドローンを現場投入し、二次災害のリスクから人が近づけない現場の状況を素早く確認しました。その後、静岡市が公開したドローン映像をもとに、有志の方がフォトグラメトリ(※)という技術を使って3Dマップを作成し、SNS上に公開しました。

※ フォトグラメトリ:写真測量法のこと。被写体を様々なアングルから撮影し、その画像を解析・統合して立体的な3Dコンピュータグラフィクスを生成する手法

 

こうした自然災害の場合、従来は測量会社や地質調査会社などがヘリコプターを飛ばして現地を調査し、時間がたってからようやく現場の状況がわかる、ということが普通でした。

 

こうして瞬時に被災状況の可視化ができることは、人命救助活動に役立つのはもちろん、専門機関による災害の原因分析や対策立案などに大いに活用され得ます。この災害では、SNSで状況が伝わり、多くの人の耳目を集めたことで、国内外からの寄付などの支援の動きにもつながりました。

 

[図表2]熱海土石流で活用された「フォトグラメトリ」 Twitterから引用
[図表2]熱海土石流で活用された「フォトグラメトリ」
Twitterより引用

 

事例【2】パキスタン水害

2022年の6月から8月にかけて、パキスタンで降雨量が年平均の約2倍にのぼったことから、想像を超える規模の水害が発生しました。実に国土の1/3が冠水し、全人口の15%にあたる3,300万人が被災するという未曽有の災害です。

 

これほどの被害規模の場合、これまでであれば被災状況の全容把握にはかなりの時間がかかったはずです。しかしこのケースでは、NASA(アメリカ航空宇宙局)が発災前後の衛星画像をすぐに公開したことによって、被災地域の特定が容易になりました。

 

[図表3]NASAによって公開された発災前後の衛星画像 出典:Earth Observatory, NASA
[図表3]NASAによって公開された発災前後の衛星画像
出典:Earth Observatory, NASA

 

一方、草の根ではドローンも活躍。水に沈んだ町の様子をとらえ、またその映像がSNSで拡散されることで世界に惨状が伝わることとなりました。

 

[図表4]パキスタン水害の全容把握に貢献した「ドローン」による映像撮影 Twitterより引用
[図表4]パキスタン水害の全容把握に貢献した「ドローン」による映像撮影
Twitterより引用

 

このように、オルタナティブ・データによって災害の可視化が劇的に進んできているのです。