認知症とは?
認知症は、脳の病気や外傷などさまざまな原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態とされています。
私は、認知症とは認知機能低下で一人暮らしができない状態。後述する「MCI」は、辛うじて一人暮らしができる状態と解釈しています。報告によると、認知症は65歳以上の人口の約6人に1人の割合で発症し、MCIまで含むと4人に1人にのぼるとされ、かなり深刻な状況です。
「アルツハイマー型認知症」は、65歳以上の認知症の中で最も多く(68%くらい)、徐々に認知が進行する病気です。病理変化としては、アミロイドβ(ベータ)と呼ばれる異常なたんぱく質の蓄積と、神経原線維変化(タウたんぱくの蓄積)という脳の中での2つの変化を特徴とします。
<アルツハイマー型認知症>
i)孤発性 〜遺伝との関係はなく、年齢や生活習慣病などと関係しています。
ii)家族性 〜アルツハイマー型認知症の1割程度が該当します。生活習慣病よりは遺伝的要因が関係しています。発症年齢が若く、20歳代後半~50歳代に発症するという特徴もあります。
両親のどちらかが家族性アルツハイマー病であると、その子どもは50%の確率でアルツハイマー型認知症になるようです。本記事では孤発性アルツハイマー認知症中心に論じていきます。
アルツハイマー型認知症に次いで多い(20%くらい)「血管性認知症」は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって起こる認知症です。アルツハイマー型認知症と違って、血管性認知症は突然発症することがあります。
このままでは、認知症は今後さらに増えていくと考えられています。他の認知症については、たとえ診断をつけたとしても現時点では特効薬がないため、本記事では省略します。
アルツハイマー型認知症の発症・進行を予防するには?
アルツハイマー型認知症の地道な予防として、次の2つが挙げられます。
●生活習慣病(血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙、肥満など)への早期介入
●筋力アップ
■生活習慣病への早期介入
日本ほど皆保険のもと健康診断が行われている国は世界に類を見ません。しかし、健診の結果を具体的な治療に早期介入できていないケースが多い印象があります。
生活習慣病を無視していると、たとえ痺れや麻痺など何らかの症状がなくても脳小血管病変が潜んでいることがあり、これがアルツハイマー型認知症や血管性認知症のリスクにつながることもあります。認知症予防のためには、40歳を過ぎたら、血圧やコレステロール、さらには糖尿病、喫煙などのリスクを甘くみないことです。
高血圧、糖尿病、脂質異常などを治療しても、認知症予防や進展予防に関していずれも効果が見られなかったという報告もあります。果たして本当にそうなのでしょうか?私はただ単に介入が遅すぎる面と、総合的視野に立った厳密な治療ができていない結果だと思っています。
■筋力アップの必要性 〜マイオカインとは
マイオカインとは筋肉から分泌されるホルモンの総称で、多くの種類があります。動物実験では、糖尿病や動脈硬化それに認知症などにも良い影響があるとの報告があるようです。運動して筋肉をしっかり刺激すると、身体に良いいろいろな種類のホルモンが筋肉から出てくるようです。
マイオカインはまだヒトにおいての確固たる臨床データはないと思いますが、動物実験の結果から期待しています(具体的にどのような運動をすれば良いのかは後述)。
<筋力アップと認知症予防の好循環>
筋力アップ→身体が軽くなり、行動範囲が広がる→さらに筋力アップに努める→認知症予防、認知症進行予防へ
「認知症の前段階」も「発症後」も筋力アップが大事
軽度認知機能障害(MCI)とは、いわばアルツハイマー型認知症の前段階です。精密検査の結果MCIと診断された場合、現状、多くの専門医療機関からの返事は往々にして「経過観察」です。
そのため患者さんの家族はビタミンB群や葉酸、ビタミンC、イチョウの葉、βカロチンなど、巷でいろいろと謳われ宣伝されている物にすがっているのが実情です。
本来であればこのMCIの段階から、i)専門医療機関が中心となって現在のアルツハイマー治療薬を保険治療とし、その臨床効果を判定してほしいと思っています。なぜなら、アルツハイマー型認知症の診断がついてしまってからの今の治療薬には、限界があるからです。そして、ii)行政と協力し合って積極的に筋力アップする体制づくりが、喫緊の課題だと思っています。
特に個人的に危惧している2つの問題として、慢性疼痛や糖尿病の治療があります。これらは投薬よりも患者さんの教育が重要だと痛感しています。
加齢や運動不足、たんぱく質の摂取不足などが重なるために起こる「筋力低下」が、腰痛などの慢性疼痛につながっている症例をよく見かけます。そのような患者さんへの安易な消炎鎮痛剤の投与は、患者さん自身が持つ自然治癒力の機会を遅らせる結果につながります。
また、特に糖尿病に関しては、適正糖質に加えてたんぱく質をしっかりと摂取し、食後に短時間のレジスタンス運動(筋肉に負荷をかける動作を繰り返し行う運動)を励行することで、筋力アップと血糖コントロールの改善に至った方を大勢見ています。どんな糖尿病治療薬を使っていても、適正糖質を守らない限り大きな血糖変動(動脈硬化への主要因のひとつ)の改善は得られません。
アルツハイマー認知症とされた場合でも、やはり薬ではなく運動が大事です。
脳トレーニングにはやや効果があったようです。しかし最も効果があったものは運動であったという結果もあります。これは私にとって意外であり、また、当たり前とも思える結果でした。マイオカインがその役割を果たしているのかもしれません。
アルツハイマー型認知症予防におすすめの運動
オムロン ヘルスケアは、アルツハイマー型認知症予防におすすめの運動として、次のようにアドバイスしています。
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●ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングやエアロバイク(自転車こぎ)などの有酸素運動が良い。
●強い運動を週1回やるよりも、30分程度の運動を週3~4回程度行うことが大切。理想は毎日行うこと。
●運動の効果は短期間で見られることもあるが、半年から1年程度は運動を続けることで効果が明確になる。
●義務的に行うのでなく、楽しみながら運動をすることが大切。
●運動をしながら、同時に脳に負荷をかける(頭を使う)とより効果的。例えば、身体と脳を同時に使う運動プログラムを開発した国立長寿医療センターでは、ウォーキングや踏み台昇降をしながら100から3を引き続ける計算をしたり、2~3人でしりとりをしながら歩く方法などを推奨している。計算は次第に慣れてしまうので、100から7を引き続けたり、3と9を交互に引くなどの変化をつけ、脳に新しい刺激を与える工夫をしましょう。
【出典】オムロン ヘルスケア株式会社『vol.133 アルツハイマー病の予防は運動と睡眠で』(https://www.healthcare.omron.co.jp/resource/column/life/133.html)
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素晴らしい試みだと思いますが、これらの恩恵を受けられるのはごく一部の方に過ぎません。実践するには、場所の提供、交通機関のサービス、公共施設サービスの充実化などが必要だからです。
そこで私は、以下のような誰にでもできる運動を提案しています。
どの運動も呼吸を止めないで行うことが大切です。あくまでもその時点での自分の体力に則したレジスタンス運動を行いましょう。短時間(1回につき5分程度)でかまいませんが、無理のないときに無理のない回数を行うことを習慣づけましょう。
1)スクワット
2)壁押しや、相撲取りの「鉄砲」
全身の筋肉を意識して最大の70%程度の力を使い、壁や柱を押しましょう。例えば、7秒ほどキープしたら少し休み、また70%程度の力で壁や柱を押して7秒ほどキープ。また少し休んだら再開…というように、この流れを5分ほど繰り返します。
3)体力に合わせた腕立て伏せ
これも70%ほどの力で5分程度行いましょう。きついようなら膝をついてもOKです。
4)適度な重さ(その時点の筋力の70%程度)のダンベルを利用する
5)加圧ベルトを上手く利用して下半身の強化を優先する
6)美木良介氏の提唱する「ロングブレス」
7)音の出ない笛をペンダントとしてつけておき、口、喉、肺、腹筋を鍛える
上記のうち、できる運動から始めることをおすすめします。組み合わせは自由にしてかまいません。しかし、これらの自宅トレーニングは義務だと考えてください。
他にも、これは義務というよりは強く推奨することですが、集団行動を取ることももちろん大事です。他者とのコミュニケーションが認知予防や進行を遅らせるうえで大事であることは自明の理です。
●ボーリングをする
ボーリングを趣味にしている、元気な高齢者をよく見かけます。
●軽い格闘技を目指す
テレビで観ましたが、90歳くらいの高齢者で、最初は足元もフラフラしていた方が1〜2年かけたリハビリでボクシングを始めたところ、表情も明るく、若くなっていきました。良い意味の精神的高揚感は大事なことです。
●友人との交流
身支度をして近所にでも出かける、会話やお茶を楽しむなど。良い意味での緊張感を保つことも大事です。
●ペットを飼う
ペットを飼うことによって責任感と緊張感を保つことができます。
…などなど。認知症の増加への一手として、厳密な生活習慣病の管理と筋力アップは自己責任で、社会的コミュニケーションづくりは国策の問題だと考えています。
團 茂樹(だん しげき)
宇部内科小児科医院 院長
総合内科専門医
日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。
以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。
著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。
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