1月から10月の都道府県別の男女合計の転入超過数がマイナス(社会減)となったエリアについて、ニッセイ基礎研究所の天野 馨南子氏がランキング形式で解説していきます。
東京一極集中、ほぼ完全復活へ(2)…2022年10月まで社会減37エリア、男性の1.4倍の女性減で出生の未来に暗雲 (写真はイメージです/PIXTA)

「女性はいらないのか」とみられかねないエビデンス

移動による人口減規模の男女格差は、地域による差が非常に大きいことも示されている。社会減が発生している37エリアの詳しい状況解説は次稿に譲るが、37エリア中30エリア、実に8割以上のエリアにおいて男性よりも女性が多く減少しているという状況である。人口の社会減エリアが「男性に比べ、女性が出ていくことを軽視している」とみられても反論できないエビデンスでもあるといっても過言ではないだろう。

 

どんなに地元の「幸福度」「出生率」「婚姻率」が高くても、それが人口の社会減が止まらない状況下で起こっているとしたら、どうだろうか。

 

例えば、国際会議においてある国から、幸福度が高い、出生率も高い、婚姻率も高い、といった発表があったとしよう。しかしその一方で、絶え間なく自国からの脱国が絶えない状況を示すデータが別途あったならば、「自国に合わない人間を追いやった結果、その国がもつ環境や価値観に都合のよい人間しか残らないのだから当然だ」「自己の正当性を謳うための印象操作ではないか」と世界から反感すら買うのではなかろうか。

 

地方自治において、「出生率」「幸福度」「婚姻率」といった「割合指標」が内包するリスクを今一度、官民でしっかり認知してほしい。

 

地元の環境に合う人だけが地元に残る人気のないエリア(継続的な転出超過が止まらないエリア)となっていることを省みないままであれば、環境や価値観が合わない人間が地元から次々と出ていくことによって、これらの割合指標はいくらでも上昇していくのである*2

 

実際、都道府県で比較する場合、合計特殊出生率と出生数の高低増減にはすでに相関がない*3。都道府県という一定以上の人口母数のある単位の間で比較しても「女性1人あたり出生数」という指標が意味を持てないほど、女性の母数が流出しているからこその無相関となっている。ましてや市町村単位ではさらにその無相関度合いが強まる。出生数は母親候補となる女性の母数に出生率をかけて計算できるが、つまりそれは、「女性の母数が地元から出ていくことで減るならば、1人当たり出生率が多少上がったとしても、その上昇分を吹き飛ばしてしまうほどに子どもの数は減る」ということでもある。

 

正しい知識とエビデンス解釈に基づいた地方の復活劇はいつになったら起こるのか、人口に関する正しい知識の普及を願ってやまない。

 

*2:地元の幸福度は、地元の価値観に合わない人々が出ていく状況下では、いわゆる地元環境・価値観に対する「喜び組」が地元に残る傾向となるため、当然ながら上昇する。また出生率や婚姻率も、地元価値観に合わない未婚者が出ていくことによって、上昇傾向となる。出生率・婚姻率・幸福度等の割合指標が高いことが肯定されるかどうかは、人流と合わせてジャッジされるべきである。統計的には、日本は現時点において、転出超過エリアほど出生率、婚姻率、幸福度が高い傾向にあることを指摘しておきたい。

*3:天野 馨南子,「都道府県の合計特殊出生率、少子化度合いと「無相関」-自治体少子化政策の誤りに迫る-」,2022年9月12日 ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」