住宅ローン返済中の家は、原則として賃貸に出すことは認められていません。しかし、一定の条件を満たせば賃貸に出すことは可能なので、金融機関に相談することが大切です。本記事では、住宅ローンを借りている家を賃貸に出すことが認められる場合やとるべき手続き、注意点等について解説します。
住宅ローン返済中の家は賃貸に出せるか?可能なケースと手続と注意点 (※写真はイメージです/PIXTA)

住宅ローンを返済している間に、その家に転勤などの事情で住めなくなることがあります。そういう場合、家を空けておくより、賃貸に出して収益を得たいと考えるかもしれません。

 

しかし、住宅ローンを組んでいる家は原則として賃貸には出せません。また、こっそり賃貸に出してもばれる可能性が高いのです。したがって、賃貸が認められる例外的なケースとはどのようなものかということと、その場合に必要な手続きを知っておくことが重要です。

 

本記事では、住宅ローンを組んでいる家から引っ越す必要に迫られた際の対処法や必要な手続き、賃貸に出すかどうかを検討する際の注意点について解説します。

1. 住宅ローン返済中の住宅は原則として賃貸に出せない
2. 住宅ローン返済中の住宅をそのまま賃貸に転用できるケース
2.1. 単身赴任や転勤などでやむを得ず住めなくなる場合
2.2. 賃貸併用住宅として住宅ローンを契約している場合
3. 住宅ローン返済中の住宅を賃貸に転用するときの注意点
3.1. 住みたくなったときに入居者を退去させるのが難しい
3.2. 住宅ローン控除を受けられなくなる
4. 住宅ローン返済中の住宅を無断で賃貸転用…絶対ばれる!
4.1. 賃貸への転用が金融機関にばれる理由
4.2. 賃貸への転用が金融機関にばれるとどうなるか?
5. 不動産投資ローンに借り換えると賃貸転用が可能になる
6. 住宅ローンを不動産投資ローンに借り換える場合の注意点
6.1. 不動産投資ローンのほうが金利が高い
6.2. 不動産投資ローンは審査が厳しい
6.3. 借り換えに伴う手数料が発生する
6.4. 希望どおりの収益が得られるとは限らない
6.5. 将来自分で住むつもりなら「定期借家契約」にする必要がある
7. もう住まないなら売却という選択肢もある
7.1. 賃貸に出すメリット・デメリット
7.2. 売却するメリット・デメリット
7.3. 賃貸・売却どちらか迷うときの考え方
まとめ

1. 住宅ローン返済中の住宅は原則として賃貸に出せない

住宅ローン返済中の住宅は原則として賃貸に出せない
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

転勤や家庭の事情によって、現在住んでいる家から引っ越しを余儀なくされるケースがあります。

 

住宅ローンを返済中の家でも、賃貸に出すことができれば経済的にも助かるのですが、残念ながら住宅ローン返済中の家は原則として賃貸に出せません。なぜなら、住宅ローンは、購入者自身が居住する目的で住宅・土地の費用を借り入れることが前提となっているからです。

 

住宅ローンの利率が低く設定されており、住宅ローン控除という税制優遇制度を受けられるのは、「住宅取得」という目的があるからこそです。

 

もし、住宅ローン返済中の家を自由に賃貸に出すことができると、上記の優遇措置を悪用される可能性があります。そのため、原則として住宅ローン返済中の家を賃貸に出すことはできない仕組みなのです。

 

ただし、金融機関に相談して、金融機関が「やむを得ない」と判断してくれれば、住宅ローン返済中の家を賃貸に出すことは可能です。

2. 住宅ローン返済中の住宅をそのまま賃貸に転用できるケース

住宅ローン返済中の住宅をそのまま賃貸に転用できるケース
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

本項では、住宅ローン返済中の家を、そのまま賃貸に転用できるケースを紹介します。全国転勤がある方や、家庭事情の変化等に備えたいと考えている方は、参考にしてください。

 

2.1. 単身赴任や転勤などでやむを得ず住めなくなる場合

住宅ローンを組んでいる金融機関が「やむを得ない事情がある」と判断すれば、住宅ローン返済中の家でも賃貸に出すことは可能です。ただし、金融機関によって対応は異なるため、すべての金融機関で賃貸に出せるわけではない点に留意しましょう。

 

具体的な、「やむを得ない事情」としては、単身赴任や転勤などが挙げられます。単身赴任や転勤などに伴い、住宅ローン返済中の家を賃貸に出している事例は存在します。まずは金融機関に相談しましょう。

 

2.2. 賃貸併用住宅として住宅ローンを契約している場合

賃貸併用住宅として住宅ローンを契約している場合、返済中でも賃貸に出すことが可能です。賃貸併用住宅は、そもそも賃貸に出すことを想定している契約の形態であるためです。

 

また、賃貸に出した際に得られる家賃収入を、住宅ローンの返済に充てることもできます。

 

自宅兼アパートのような、賃貸併用住宅に住んでいる方であれば、特段問題なく賃貸に出すことが可能です。

3. 住宅ローン返済中の住宅を賃貸に転用するときの注意点

住宅ローン返済中の住宅を賃貸に転用するときの注意点
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

本項では、住宅ローン返済中の家を賃貸に出すにあたって、注意すべき点を詳しく解説しますので、参考にしてください。

 

3.1. 住みたくなったときに入居者を退去させるのが難しい

不動産の賃貸契約においては、「借地借家法」という法律で借家人の権利が保護されています。一般的に、不動産の賃貸は「普通借家契約」と「定期借家契約」に分かれますが、ほとんど「普通借家契約」で締結されます。

 

普通借家契約の場合、2年契約で賃貸契約を締結するケースが多いですが、契約期間が満了するタイミングでも賃貸人が一方的に解約できない点に注意が必要です。

 

原則として、借家人に「住み続ける」意向がある限り、契約は更新されるため、賃貸人の単身赴任が終わって自宅に戻ろうとしても、借家人を退去させるのが難しいのです。

 

定期借家契約であれば、一定期間を過ぎれば契約が終了するため、スムーズに自宅に戻ることができます。ただし、定期借家契約の場合は、借家人が見つかりづらく、入居人募集で苦労してしまう点がネックです

 

3.2. 住宅ローン控除を受けられなくなる

自分が住んでいた家を賃貸に出すと、住宅ローン控除を受けられなくなってしまいます。

 

住宅ローン控除が適用される要件に「自己居住用の住宅である」ことがあるため、賃貸に出すと要件をクリアできなくなるためです。

 

住宅ローンを返済している場合でも、賃貸に出して「自分が住んでいない」以上、住宅ローン控除を受けることはできません。

 

したがって、現在住宅ローン控除の恩恵を受けている方は要注意です。

4. 住宅ローン返済中の住宅を無断で賃貸転用…絶対ばれる!

住宅ローン返済中の住宅を無断で賃貸転用…ばれない方法はない!
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

なかには「こっそり賃貸に出せば、ばれないんじゃないの?」と考える方もいるのではないでしょうか。

 

しかし、住宅ローン返済中の家を賃貸に出すと、残念ながら絶対に金融機関にばれることになります。以下で、こっそり賃貸に出してもばれてしまう理由を解説していきます。

 

4.1. 賃貸への転用が金融機関にばれる理由

4.1.1. 郵便物が返送されたことにより発覚するパターン

金融機関から住宅ローン契約者宛に郵便物が発送されたとき、実際に住んでいる人が違う場合は返送されることになります

 

これにより、賃貸に出している事実が発覚するケースが多いです。

 

住宅ローンを契約している金融機関は、住宅ローン控除関連の書類などを契約者宛に送ることがありますが、返送されれば「契約者が居住していない」ということになります。

 

実際に、郵便物を通じて賃貸に出していることが発覚するケースが多いので、ばれずに賃貸に出すことはできないと思ってください。

 

4.1.2. 金融機関などによる居住実態の調査により発覚するパターン

住宅金融支援機構では、住宅ローンの融資後に居住実態調査を行っています

 

近年、住宅ローンの金利が非常に低いことに着目し、本来の趣旨とは異なる目的で住宅ローンを利用するケースが増えているためです。他の金融機関でも居住実態調査は行われています。もし、調査の結果「居住の実態がない」と判断されれば、契約違反となります。

 

このように、郵送物や実態調査などで、賃貸に出している事実がばれてしまうため、自宅の居住が難しくなったら金融機関に相談することが大切です。

 

4.2. 賃貸への転用が金融機関にばれるとどうなるか?

4.2.1. 住宅ローン残額の一括返済を求められる

もし、金融機関に住宅ローンを組んでいる家を賃貸に出していることがばれると、住宅ローン残額を一括で返済するように求められることがあります。

 

一般的に、住宅ローンの残債は数百万円~数千万円であることが多く、一括返済できる人は少ないでしょう。ただし、金融機関側も「一括返済が難しい」ことはわかっています。そのため、一括返済の要求をしてこなくても、適用されている金利を引き上げる措置を取るケースが多いです。

 

このように、経済的なデメリットを被ってしまうため、こっそり賃貸に出すべきではありません

 

4.2.2. 借入先金融機関との以後の取引が困難になる

住宅ローンを組んでいる家を賃貸に出す行為は、金融機関との契約に違反します。そのため、金融機関との信頼関係が毀損し、その後の借入先金融機関との取引が困難になってしまう可能性が非常に高いです。つまり、新たにカーローンなどのローン商品を利用しようとしても、断られてしまう可能性があるということです。

 

金融機関との関係が悪化してよいことは少しもありません。

 

4.2.3. 詐欺行為として訴えられるリスクもある

もし、金融機関から「悪質である」と判断されてしまうと、詐欺行為として訴えられてしまうリスクもあります。刑事告訴が行われることで、自身の社会的信用が失われてしまうなどのデメリットがあります。こっそり家を賃貸に出す行為は止めておくべきでしょう。

 

実際に、住宅ローンを悪用して組織的に第三者賃貸を行い、金融機関から刑事告訴された事例が存在します

 

そのため、自身の身を守るためにも、賃貸を考える場合は金融機関に相談したほうが無難です。

5. 不動産投資ローンに借り換えると賃貸転用が可能になる

不動産投資ローンに借り換えると賃貸転用が可能になる
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

住宅ローンを不動産投資ローンに借り換えることで、賃貸に転用することが可能となります。不動産投資ローンへの借り換えは、すでに契約している金融機関を利用しても、他の金融機関を利用しても構いません。

 

なお、住宅金融支援機構では不動産投資ローンを取り扱っていないため、現在住宅金融支援機構を利用している方は注意しましょう。

 

不動産投資ローンを利用すれば、契約違反に問われることなく堂々と賃貸に転用できるため、心理的にも安心できるメリットがあります。

6. 住宅ローンを不動産投資ローンに借り換える場合の注意点

住宅ローンを不動産投資ローンに借り換える場合の注意点
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

住宅ローンから不動産投資ローンに借り換えることで、持ち家を賃貸に出すことができます。しかし、不動産投資ローンに借り換えるにあたって、注意すべき点があります。詳しく解説します。

 

6.1. 不動産投資ローンのほうが金利が高い

住宅ローンよりも不動産投資ローンのほうが金利が高いため、支払う利息は高くなります。住宅ローンの金利は0.5%~1.5%程度が一般的ですが、不動産投資ローンの場合は1.5%~4.5%程度が一般的です。

 

場合によっては、適用金利が倍以上になることもあるため、返済負担が増加する点には注意しなければなりません。住宅ローンを組んだ家を賃貸に出す場合は、単身赴任や転勤などの経済的負担が発生するケースが多いため、金利負担も同時に上昇してしまう点は覚悟しておきましょう

 

6.2. 不動産投資ローンは審査が厳しい

不動産投資ローンは、住宅ローンよりも審査が厳しい傾向にあります。住宅ローンは「自宅に住む」ことを目的としているのに対し、不動産投資ローンは事業性を伴う融資です。

 

借入状況や勤続年数などの基本的な審査に加えて、事業の収支計画や家賃収入の見通しなどもチェックされるため、審査項目が増えます

 

また、賃貸に出す場合は空室リスクなど、住宅ローンよりもリスクが伴うことから、不動産投資ローンの審査は厳しくなる点を理解しておきましょう。

 

6.3. 借り換えに伴う手数料が発生する

住宅ローンを借り換える際には、下記のようにさまざまな手数料や諸費用が発生します

 

  • 繰り上げ返済手数料
  • 事務手数料
  • 抵当権設定費
  • 印紙税
  • 賃貸に出す際の広告費用など
  • 保険料など

 

すべての手数料を合計すると30万円~80万円程度になることもあるため、決して軽くはない負担となります。

 

自宅に住み続ける場合はそもそも発生しない費用ですから、上記の手数料を支払うことに抵抗を感じる方もいるでしょう。

 

このように、住宅ローンを借り換える際にはさまざまな手数料が発生する点に注意しましょう

 

6.4. 希望どおりの収益が得られるとは限らない

賃貸収入は紛れもない不労所得なので、ポジティブな印象を持つ方も多いでしょう。

 

しかし、自宅を賃貸に出す場合でも「不動産投資」に変わりはないため、空室リスクや滞納リスクが伴います。また、修繕費など大家として負担する費用もあるため、希望どおりの収益が得られない可能性があります。

 

物件の管理を管理会社に委託する場合は、管理費や手数料を支払う必要があるため、得られる家賃がそのまま収益とならない点は知っておきましょう

 

6.5. 将来自分で住むつもりなら「定期借家契約」にする必要がある

先述したように、借家契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」があります。いずれ自宅に戻る予定がある場合は「定期借家契約」にする必要があります

 

定期借家契約であれば、決められた契約期間が満了すれば借家人は退去することになるため、「いずれは自宅に戻りたい」という賃貸人のニーズを満たすことが可能です。

 

しかし、逆に借家人からすると「契約更新できず、契約期間が満了したら出ていく必要がある」ことから、長期的に住むことができません。

 

定期借家契約で賃貸に出すと、なかなか入居が決まらず賃貸収入が得られなくなる可能性がある点は知っておきましょう

7. もう住まないなら売却という選択肢もある

もう住まないなら売却という選択肢もある
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

自宅から離れる事由が発生し、そのあとに戻る意思や見込みがない場合は、賃貸に出すのではなく売却する選択肢もあります。

 

自身のライフスタイルに応じて、賃貸に出すべきか売却すべきか決めるとよいでしょう。

 

以下で、賃貸に出すケースと売却するケースのそれぞれについて、メリット・デメリットを解説します。

 

7.1. 賃貸に出すメリット・デメリット

賃貸に出す際のメリットとしては、マイホームを手放す必要がなく、スムーズに入居者が決まれば家賃収入が見込める点にあります。

 

「自分が購入した家」に愛着を感じている方や、やがて戻ってきて再度住みたいと考えている方は、売却せずに賃貸に出したほうが心理的にも折り合いがつくでしょう。

 

また、家賃収入という副収入に魅力を感じる方も、売却せずに賃貸に出すことをおすすめします。

 

一方で、賃貸に出すことによるデメリットとしては、空室リスクや災害リスクなどといった様々なリスクを抱えることになる点や、物件管理などの手間がかかる点です。

 

また、住宅ローンから不動産投資ローンへの借り換えや、不動産所得の確定申告などの手続きも発生するため、何かと手間暇が発生することは押さえておきましょう。

 

7.2. 売却するメリット・デメリット

家を売却することで、住宅ローンがなくなり、再度自身の住環境をゼロベースで考えることができます。

 

また、先述したように賃貸に出す場合は様々な手間やリスクを抱えることになりますが、売却の手続きが完了すればそのあとに面倒な手続きは発生しません

 

煩雑な手続きをネックに感じる方や、空室リスクなどを抱えることに心理的抵抗がある方は、賃貸に出すよりも売却したほうがよいでしょう。

 

一方で、デメリットとしては、一度売却すると「同じ価格で購入できない可能性がある」点が挙げられます。つまり、将来地価が上昇したとしても、売却後に利益を得ることができないことから、大きな機会損失が発生する可能性があります。

 

また、売却代金で住宅ローンが完済できない場合は、自己資金を持ち出して返済する必要があることから、タイミングによっては損失を被ってしまう可能性も無視できません。

 

7.3. 賃貸・売却どちらか迷うときの考え方

未来は不確実である以上、そのときに確実に得をする方法を選ぶことはできません。

 

そのため、賃貸に出すべきか売却すべきか悩んだら、下記のポイントに注目して判断するとよいでしょう。

 

  • 自身のキャリアや家族のライフプラン
  • 住宅ローンの残債
  • エリアの人気度
  • 家賃相場と予想利回り

 

特に、自身のキャリアや家族のライフプランを鑑みることが大切です。損得の決定的な判断は下せない以上、「自分と家族の生活」という点を最重要視したほうが、心理的にも折り合いが付きやすいでしょう。

 

また、購入した物件が人気のエリアで、比較的スマートに入居者が決まりそうな場合は、安定して家賃収入が得られる可能性が高いです。

 

エリアの家賃相場を調べて、十分な利回りが期待できる場合は賃貸に出せばよいでしょう。逆に、十分な利回りが期待できない場合は売却するとよいでしょう。

まとめ

住宅ローンを借りている家を賃貸に出す際の注意点や必要な手続きについて解説しました。

 

原則として、住宅ローンを借りている家を賃貸に出すことはできません。また、こっそり賃貸に出してもばれる可能性が高い以上、金融機関に相談したうえで必要な手続きを進めるべきです。

 

賃貸に出すほかにも、売却するという選択肢もあります。エリアの魅力や空室リスクなどを勘案して、ベターな判断を行ってください。