転職をした場合の住宅ローン審査への影響について、不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
本記事では、転職の前後における住宅ローン審査への影響や返済中の転職、申込時の対策方法、リスクなどについてわかりやすく説明します。転職と自宅購入は、今後の人生を左右する一大イベントです。正確な知識を得たうえで、失敗のないよう慎重に取り組みましょう。
1. 転職後の住宅ローン申し込み|審査への影響は?
転職後にローン審査を申し込んだ場合、どのような影響があるのでしょうか。マイナス面とプラス面に着目し、それぞれについて詳しく説明します。
1.1.【勤続年数1年未満】住宅ローン審査でマイナス要素
住宅ローンは、金融機関によって審査基準が異なります。しかし、国土交通省の令和3年(2021年)度「民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」によると、94.5%の金融機関が勤続年数を審査項目として挙げています。そのなかでも、50%以上の金融機関が、1年以上の勤続年数を基準としています。したがって、転職直後で勤続年数が1年未満の状態は、住宅ローン審査においてマイナス要素となる可能性が高いといえます。
3年以上の勤続年数を基準とする金融機関も20%近くあるため、転職してから3年以上経過したあとのほうが比較的審査に通りやすいです。
しかし、勤続年数を審査項目としていない住宅ローンも存在します。たとえばフラット35は、勤続年数の最低期間を設けていません。安定した収入を見込める契約者であれば、住宅ローン審査が通る可能性があります。
1.1.1. 年収が見込み額での判断になる
住宅ローン審査において「年収」を審査基準とする金融機関は、90%以上です。
転職してから1年以上経過していない場合は、「見込み額」で年収を判断されます。直近1~3ヵ月間の給与で見込み年収額を決めるため、ボーナスが含まれないことが多く、実際の年収額より低く見積もられてしまうことがあります。そのため転職直後は融資額を抑える必要があるでしょう。
1.1.2. 収入が安定していないと評価される可能性も
転職直後は、収入が不安定とみなされることがあります。審査において収入と勤続年数を重視する機関が多いため、年収が確定していない転職直後は不利に働くケースが多いです。
融資条件を確認したうえで、条件をクリアして審査を受けたほうが通る確率が上がります。
1.2. 雇用形態の変化がプラスに働くことも
実は、転職によってプラスの効果が表れる場合もあります。
前述した「令和3年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」によると、75.6%の金融機関で「雇用形態」が審査項目に挙げられています。
雇用形態は、正社員や契約社員、派遣社員、パートタイム労働者、自営業などです。なかでも、正社員は雇用契約期間に定めがなく給与や福利厚生が充実しており、一般的に「安定している」とみられます。そのため、転職で雇用形態が契約社員(派遣社員)から正社員に変わった場合には、以前よりも収入が安定すると考えられ、審査においてプラスにみられる可能性があります。
一方で、契約社員や派遣社員は40%以上の金融機関で対象外とされています。また、正社員から自営業へ転職した場合も、収入が不安定とされるケースが多いため注意する必要があります。
2. 住宅ローン審査|転職後すぐに申し込める?
住宅ローンを申し込める条件は、金融機関によって異なります。「勤続年数6ヵ月以上」などの条件を挙げている金融機関もあれば、勤続年数の条件を定めていない金融機関もあります。
しかし、勤続年数の定めがない金融機関で申し込みをしても、必ずしも住宅ローンを利用できるとは限りませんので注意してください。
申込時には、給与明細書などで見込み年収を判断されるケースが多く、源泉徴収票や給与明細が満額記載されるタイミングを選んだほうがよいでしょう。転職後は、数ヵ月〜1年以上経過してから審査を受けることをおすすめします。
3. 転職直後の住宅ローン審査|注意すべきこと
転職直後は住宅ローン審査の通過が難しいと理解したうえで、それでも審査を受ける場合は以下のような点に注意しましょう。
3.1. 借入可能額が希望より低くなる可能性がある
住宅ローン審査では、収入を証明するために直近の所得証明書や、源泉徴収票を提出するのが一般的です。ただし、転職直後は1年分の収入を証明できないため、転職後の給与から見込み年収を算出します。見込み年収は実際の年収よりも低く見積もられることが多いため、希望の借入額では審査が通らないケースがあります。
審査を受けてから後悔しないよう、審査前に条件などを確認しておきましょう。
3.2. 申し込み時に追加の書類が必要になることがある
転職後の申し込みは、通常よりも必要書類が増えることがあります。
- 今までの経歴を確認するための「職歴書」
- 転職先での勤続期間を確認するための「勤続証明書」
- 転職後の見込み年収を確認するための「見込収入証明書」
- 転職後に給与が支払われたことを確認する「給与明細」
金融機関によって必要書類は異なります。書類を準備するためには総務部に依頼するなどの手間がかかるため、金融機関に確認のうえ早めに準備をしましょう。
審査直後に転職予定がある場合は、必ず前もって金融機関へ報告しましょう。申込時に提出した書類で審査をするため、審査後まもなくの転職はトラブルになる可能性があります。
4. 転職直後の住宅ローン審査|申し込むときの4つの対策
転職直後は、住宅ローン審査の申し込みが通常よりも難しくなります。しかし、注意して対策をすることで、申し込みが可能になるケースがあります。ここからは、申込時に行うべき4つの対策を紹介します。
4.1. 勤続年数の要件を設けていない金融機関に申し込む
金融機関によっては、勤続年数の下限を設けていない場合があります。事前に調べて、勤続年数の条件をクリアできる金融機関を選べば、転職直後でも申し込みできる確率が高くなります。
4.2. フラット35の利用を検討する
フラット35は、勤続年数や雇用形態に制限がないため、安定した収入があれば申し込むことができます。
契約社員や派遣社員でも、継続した収入があると判断されれば申し込みが可能です。ただし、収入が安定していることを判断するために、数ヵ月分の給与明細の提出を求められることがあります。そのため、転職から数ヵ月経過していないと審査が難しくなる場合があります。申し込む前にしっかりと事前確認を行っておきましょう。
4.3. 頭金を多めに用意する
頭金を多めに用意することで、借入金額を抑えることが可能です。借入額が少なくなることによって、審査に通りやすくなる場合があります。
また、フラット35のなかには、頭金の割合によって金利が低くなる商品もあります。金利は35年間の長期で計算すると、かなり大きな金額です。頭金を用意することで、審査が通りやすくなるうえに、低い金利で申し込める可能性があるため、金融機関に相談してみましょう。
4.4. 勤続年数が1年を超えるまで申し込みを控える
勤続年数が足りないという理由で審査に通らなかった場合は、勤続年数が条件を満たすまで申し込みを待つことも考えてみましょう。
金融機関によって条件は異なりますが、半数以上の金融機関が「勤続1年以上」を基準としています。無理をして引受可能な機関を探すのではなく、勤続年数を満たしたうえで金利などの条件がよい金融機関を選択するほうが得策ではないでしょうか。
5. 転職直前の住宅ローン審査にもリスクあり
転職直後の審査が難しいとわかった場合、転職直前の申し込みを検討する人がいるかもしれません。しかし、転職前の審査にもリスクがあるので注意しましょう。
5.1. 転職までに融資が完了しない可能性がある
住宅ローンの契約を転職よりも前にした場合、物件引き渡しや融資の実行時に申込時点の会社に在籍していなければなりません。審査中の転職は、収入や勤続年数が異なる関係で審査の進行や結果に影響を与えてしまいます。
注文住宅や新築マンションは、ローン審査から引き渡しまでに長期間を要するため、余裕をもって転職のタイミングを考えましょう。直近で転職を考えている場合は、特に注意が必要です。
5.2. 転職後の収入では返済が困難なことがある
転職の前後で収入に差がある場合は特に注意してください。転職によって収入がアップする場合は問題ありませんが、収入がダウンする場合は返済が困難になりかねません。
返済が滞ることがないよう、転職後の収入を加味したうえで返済計画を立てましょう。たとえ収入がアップしても、転職後の職場が合わないなどの理由ですぐに離職する可能性も考えられます。転職が続くと、収入が不安定になりかねません。
転職前の審査には、上記のようなリスクがあることを理解したうえで検討しましょう。
6. 住宅ローン審査中の転職は報告すべき?
転職をすでに住宅ローンの審査中であるタイミングでした場合、金融機関に報告すべきなのでしょうか。ここからは審査中の報告義務について説明します。
6.1. 審査中の転職は金融機関への報告義務がある
審査中に転職した場合は、金融機関へ報告をする義務があります。審査中に限らず、融資の実行日や物件引渡日までに転職したときも報告をしなければなりません。
もし、ばれないだろうと報告しなかった場合でも、金銭消費貸借契約のときに健康保険証を提出するよう求められるため、転職したことは必ずばれてしまいます。
審査結果は、提出された勤務状況や年収によって判断したものです。転職が判明した場合は審査が無効となり、再審査を行うことになります。しかし、申込書に記載した勤務内容と異なっていることが発覚し、銀行への詐欺行為と捉えられると、契約を白紙に戻される可能性もあるので注意しましょう。
6.2. 転職を隠したことがバレたら違約金が発生するケースも
転職を隠して契約しようとした場合、違約金が発生することがあります。
売買契約をする際に、一般的には「住宅ローン特約」という特約を付帯します。この特約では、買主に落ち度がない状態で住宅ローン審査に通らなかった場合、契約を破棄することができます。支払った手付金も返還されます。
しかし、前述のように故意で転職を隠蔽して契約破棄になった場合は、住宅ローン特約が使えず、支払った手付金も違約金として取り上げられ、戻ってきません。
審査中の転職は、大きなリスクを伴うだけでなく、金銭的にもマイナスになることがあります。できる限り、転職後に勤続年数を重ねてから申し込みましょう。
7. 住宅ローン返済中に転職した場合にすべきことは?
すでに住宅ローンを返済中に転職した場合は、どのような手続きが必要なのでしょうか。ここからは、返済中の転職について解説していきます。
7.1. 借入先の金融機関に届け出をする
転職後も問題なく返済できれば、金融機関へ報告する必要はないだろうと思われる方もいるかもしれませんが、返済中の転職も変更の届出をする必要があります。
住宅ローンの契約を交わした際に、届出事項に変更があったときは報告をする旨の記載があることが一般的です。
転職した場合は、速やかに借入先の金融機関に申告してください。
7.2. 収入に合わせた返済プランの相談をする
転職によって収入が大きく変わってしまう場合は、返済プランの相談をしましょう。
変更には審査があるため、必ず変更ができるとは限りませんが、返済が滞ってしまう前に相談することが大切です。
具体的には、繰上返済で毎月の支払いを減額する方法や、ボーナス払いをやめる方法などがあります。転職後の収入状況に合わせた最適なプランを見つけましょう。
7.3. 転職先で住宅ローン控除の申請手続きをする
転職先で年末を迎える場合、転職先の年末調整での住宅ローン控除の申請が必要です。年の途中で転職した場合の年間所得税額は、転職前の源泉徴収票を転職先へ提出することで、転職前後の所得が合算されたうえで計算されます。
また、退職後に再就職しない状態で年末を迎える場合は、自分で確定申告をする必要があります。転職のタイミングによって住宅ローン控除の申請手続きが異なるため、注意しましょう。
8. 転職や勤続年数と住宅ローンにまつわる疑問Q&A
住宅ローンを検討中で、転職や勤続年数に不安のある方も多くいるでしょう。ここからは、よくある質問とその回答を3つ紹介します。
Q1. 会社都合の転職では自己都合より評価が高くなるか?
会社都合の転職でも、自己都合の転職と同様に評価されます。リストラや倒産などによる転職でも、審査項目や評価基準は変わりません。
会社都合で転職する場合は、無理なく住宅ローンの返済ができるように、まずは再就職先を探すなどして生活の安定を考えましょう。
Q2. 転籍や出向となった場合の勤続年数の評価はどうなるか?
転籍や出向など、勤務先がグループ会社や関連会社へ変わる場合は、勤続年数が合算できるケースと不可能なケースがあります。貸し側の金融機関の取り決めによっては、勤続年数を引き継げる可能性があります。
一概にはいえないため、金融機関に確認しましょう。
Q3. 連帯保証人の勤続年数も審査に影響するか?
連帯保証人の勤続年数も、契約者と同じ様に審査される可能性があります。しかし、住宅ローンでは、連帯保証人は原則不要です。なぜなら、住宅ローンでは、融資対象の土地や物件に抵当権を設定することが多く、債務者が返済不可となった場合は抵当権を実行すればよいからです。
しかし、以下の場合には、例外として連帯保証人を立てなければならないことがあります。
- 夫婦や親子でペアローンを組む場合
- 収入を合算してローンを組む場合
- 物件や土地が共有名義の場合
連帯保証人は、債務者本人と同等に返済義務を負うため、返済能力が審査されます。連帯保証人の返済能力が認められない場合は、住宅ローンの審査が通らない可能性があります。
まとめ
金融機関によって条件は異なるものの、住宅ローン審査や契約の前後で転職することは、大きなリスクを伴います。転職理由は人それぞれですが、急を要さない限り、勤続年数を重ねたあとに審査を申し込むのが理想的です。
審査項目や注意点をしっかりと把握したうえで、住宅ローン審査や転職のタイミングを見極めましょう。