コロナ禍によるリモートワークの拡大などにより、都会から地方へという人口移動がありましたが、移動制限がなくなったいま、どのようになっているのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏が解説します
東京一極集中、ほぼ完全復活(1)…2022年1~9月「住民基本台帳」転入超過人口都道府県ランキング (写真はイメージです/PIXTA)

はじめに

2020年4月に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発令され、都道府県間の移動を含むさまざまな行動制限がかかることとなった「コロナ禍」も2022年に3年目を迎えた。しかしワクチン接種など、諸々の対策によって2022年3月のまん延防止等重点措置が解除されて以降は、移動に係る制限はなくなった。

 

筆者の暮らす東京都でも日々外出者数が増える一方で、飲食業なども休日には従前のような活況を呈している。ここで、統計的にもコロナ禍による人流の変化は終焉を迎えたともいえるようなデータが示されているので紹介しておきたい。

東京圏ではなく、再び東京都集中へ

総務省「住民基本台帳人口移動報告」のデータ分析結果からは、筆者にとっては予想通りの「コロナ禍前の人口移動の復活」という結果となった(図表1)。なぜ予想通りかというと、コロナ禍において以下のような現象がみられていたからである。

 

地方の転出超過数の減少は、地方からの感染警戒による転出抑制(マイナス要因の減少)によるものであり、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)から多くの人口を引き寄せた(プラス要因の増加)ことに起因する現象ではなかった。このため、マイナス要因の原因であるコロナ禍が緩和されることにより、従前通りの人口移動に戻るであろうことが予想された。

 

コロナ禍における地方からの人口転出の男女格差(女性が男性より多く減少する現象)はさらに強化された。地方における人口転出は主に就職時に発生することから、今回のようにコロナ禍で経済が不安定になった場合などは、女性の就業場所が地方では限られるなどの弊害もより明らかになった。

 

男女の就業場所格差が明らかになる中で、男女の4年制大学進学率は年々平等化(ほぼ拮抗)に向かっており、男女平等の教育理念と労働市場の男女偏在のダブルスタンダードがさらに浮き彫りになっている。

 

第16回出生動向基本調査(2021年)の結果から、18歳から34歳までの若い未婚男女が目指すライフデザインにおいて、男女共働きで女性が出産育児期にも仕事を辞めない「両立型」の支持層がさらに増加(男性39%、女性34%)しており、今の50歳代から60歳代が理想とした家族ライフデザインとは真逆の結果となっている*1

 

【図表1】2022年1月から9月合計 転入超過数都道府県ランキング/転入超過エリアのみ(人)

 

若い人口の流出によって高齢化が進む地方部では、若年層と彼らよりも年長層との間での就労や家族における役割分業的な価値観の違いが縮まらない限り、女性活躍推進法が適用される大企業の数が圧倒的に多い東京都へ向かう若年人口の流れを食い止めるのは難しい。統計的に考えるならば、ほぼ無理であるともいってよい。

 

コロナ禍前は、年間における人口シャッフル(各エリアの人口純増減を生み出す流出入の差)によって人口が増加したエリアの人口純増数の50~55%程度を東京都が占めていた。さらに東京都のベッドタウンエリアでもある神奈川県、埼玉県、千葉県(東京圏)における純増数を加算すると、人口増加エリアにおける人口純増数の8割から9割が東京圏の人口増加であった。ただ、コロナ禍の2020年と2021年においては、テレワークの拡大もあり、東京都に隣接する神奈川県、埼玉県からの人口が流入し、「東京圏一極集中」の状況となっていた。

 

コロナ禍による人流制限が緩和された2022年も9月末で既に年間の4分の3の期間が経過したが、人口移動の「天下分け目」といわれる3月の移動の結果も含めると、東京都が人口増加エリアの首位に返り咲き、同期間を通じて転入超過数も4万人以上(占有率38%)となり、2位の神奈川県を1万5千人以上、1.6倍も引き離す独走状態となっている。

 

そして相変わらず、未来人口の増加につながる若い女性を中心に男性の1.4倍となる2.4万人を集めており、女性人口の純増数でみると、2位神奈川県1.3万人の1.9倍、3位埼玉県1.1万人の2.3倍、4位千葉県5.3千人の4.5倍、5位大阪府4.8千人の4.9倍、6位福岡県2.9千人の8.0倍という女性誘致力を誇っている。

 

未来の出生数を考えるならば、圧倒的な未来人口の勝ち組、それが東京都であり、そのパワーの源は「就職期に女性を集める力がダントツである」に尽きる。これについてのエビデンスを最後に紹介しておきたい。

 

*1:「激変した「ニッポンの理想の家族」-第16回出生動向基本調査「独身者調査」分析/ニッポンの世代間格差を正確に知る」2022年10月3日 基礎研レポートを参照。