1. 住宅ローン、みんなはいくら払ってる?年収と比較した目安
まずは、住宅ローンを組んでいる人が、年収に対してどの程度の住宅ローンを組んでいるのか見てみましょう。
ほかの人たちの目安を知っておくことで、自分自身が住宅ローンを組む際の参考になります。
1.1. 返済比率は年収の20%強
住宅金融支援機構の「2021年度 フラット35利用者調査」によると、住宅ローンを組んでいる人の返済比率のボリュームゾーンは「年収の20%強」です。
返済比率とは、年収に占める年間のローン返済額の割合を指しており、 一般的に返済比率が低いほど、月々の返済にゆとりを持たせることができます。たとえば、年収が500万円で毎年のローン返済額が150万円の場合、返済比率は「30%」です。
2021年度の調査では、年収の20%強がローン返済に充てられていることから、年収500万円の人であれば「100~125万円」を住宅ローンの返済に充てていることになります。
1.2. 所要資金は年収の約7倍
住宅金融支援機構の「2021年度 フラット35利用者調査」によると、マイホーム購入の所要資金は年収の約7倍という結果でした。
住宅購入の所要資金を世帯年収で割った数値を「年収倍率」といいます。年収500万円の人であれば、約3,500万円程度のマイホームを購入していることになります。
なお、年収倍率はマイホームの区分によって差があり、土地付注文住宅は7.5倍、中古戸建は5.7倍と差があります。
年収倍率は、金融機関が住宅ローンの審査をする際に、融資の可否を判断するための基準の1つです。
年収倍率が低ければゆとりのある返済が可能といえますが、年度によって年収倍率は異なるため、目安として参考にしましょう。
2. 年収は住宅ローンを借りるときに重要な目安なのか?
一般的に、マイホームを購入する際には住宅ローンを借りることになります。住宅ローンの審査において、年収は重要な要素となるのかどうか、詳しく解説していきます。
2.1. 年収は住宅ローン審査の重要項目の1つ
「令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」によると、95.7%の金融機関が年収を住宅ローン審査の項目として挙げています。
つまり、住宅ローンを組む際には、どの金融機関を利用するにしても、「ほぼ確実に年収をチェックされる」と捉えるべきでしょう。
具体的には「前年度年収」や、年収の多寡に深く関係する「雇用形態」「勤続年数」が重視される傾向にあります。
金融機関にとって、貸し倒れは最も避けたい事態ですから、返済能力をチェックするうえで年収は重要なポイントといえます。
2.2. 年収がいくら以上あれば住宅ローンを借りられるのか?
マイホームの購入を検討している人にとって、「年収がいくら以上あれば住宅ローンを借りられるのか」は最も気になるポイントでしょう。
結論からいうと、審査基準は各金融機関で異なるうえに、明確な基準が公表されているわけではないため、正確な数字をお伝えすることはできません。
大手銀行は明確な年収を明らかにせず、安定した年収や勤続年数を重視する傾向が強いですが、ネット銀行は下記のように明確な年収を公表していることがあります。
銀行名 |
借り入れ条件 |
auじぶん銀行 |
|
ソニー銀行 |
|
PayPay銀行 |
|
新生銀行 |
|
なお、住宅ローンを借りる際には、金融機関の基準をクリアすることは当然ですが、「自分にとって、無理なく返済できる金額」で借りることが重要です。
自分が無理なく返済できる金額については、次の項目で詳しく解説していきます。
3. 住宅ローンの適正借入額の目安|年収に対する返済比率
続いて、無理なく返済できるレベルである、住宅ローンの適正借入額の目安を解説していきます。重要となるのが、年収に対する返済額である「返済比率」なので、特に意識しましょう。
3.1. 返済比率=年収に対する年間返済額の割合
「返済比率」とは、年収に対する年間のローン返済額の割合です。
なお、年間のローン返済額は、住宅ローン以外にもカーローンやクレジットカードのリボ払い、さらに利息なども含まれる点に注意しましょう。たとえば、年収が300万円で毎月5万円(年間60万円)のローン返済を行っているケースだと、下記のようになります。
60万÷300万×100=20%
逆に、「返済比率を30%程度にしたい」場合は、下記のように自身の年収に30%を乗じれば年間返済額の目安を計算できます(年収500万円の人の場合)。
500万円×30%=150万円(年間返済額の目安)
一般的に、返済比率が低ければ「ローン返済以外に使えるお金が多い」ことになり、ゆとりを持って返済できるメリットがあります。
3.2. 金融機関の借入限度額の基準は返済比率30~45%程度
「令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査」によると、金融機関の92.1%がローンの審査を行う際に「返済比率」を審査項目としています。
つまり、住宅ローンを借りる際には、「ほぼ確実に」返済比率がチェックされ、無理のない返済が持続可能か判断されている、ということです。
なお、金融機関によって差はあるものの、多くの金融機関は審査に通過するための返済比率の目安を「30~45%程度」に設定しています。
たとえば、住宅金融支援機構の「フラット35」は、下記のような借入額の制限を行っています。
- 年収400万円未満の人:返済負担率30%以下
- 年収400万円以上の人・返済負担率35%以下
3.3. 無理なく返済できる返済比率の目安は手取りの20~25%程度
金融機関のローン審査に通過できたとしても、長期的に無理なく返済しなければなりません。
返済比率を高めると、ローン返済がスムーズに進む一方で、無理のある返済計画になりがちです。
無理なく住宅ローンを返済するためにも、返済比率は「手取り収入の20~25%程度」を目安にすることをおすすめします。
「手取り収入」とは、額面の給与から社会保険料や税金を差し引いたもので、「可処分所得」と同義です。社会保険料や所得税・住民税などを天引きで支払ったあと、自由に使えるお金を「可処分所得」と呼びます。
たとえば、年収500万円の人の場合、手取り収入(可処分所得)は概算で350万円になります。
つまり、
350万円(手取り収入)×25%(返済比率)=87.5万円
上記のように、87.5万円程度が「無理のない返済負担額」といえます。
3.4. 共働きの場合の目安はどう考えたらいい?
共働き夫婦の場合は、夫婦の収入を合算した「収入合算」という方法で住宅ローンを組むことができます。
自分だけの収入だけでは希望の金額を借りられないケースなどで、収入合算は利用されています。たとえば、年収500万円の夫と年収200万円の妻がいるケースで考えてみましょう。
■夫だけで住宅ローンを組む場合(返済負担率は30%で計算)
500万円×30%=150万円
■夫と妻で収入合算して住宅ローンを組む場合(返済負担率は30%で計算)
700万円×30%=210万円
上記のように、収入合算することで目安となる返済負担額が増え、借り入れができる金額も増えることになります。
しかし、すべての金融機関で収入合算ができるわけではなく、金融機関によって収入合算のルールが異なる点にも注意が必要です。
たとえば、多くの金融機関は収入合算者の条件として「正社員雇用である」ことを求めていますが、フラット35では「パートやアルバイトでも収入合算可能」です。
共働き夫婦の場合は、収入合算の活用も視野に入れながら住宅ローンの相談をするとよいでしょう。
4.《年収・返済比率別》住宅ローン借入可能額・返済額シミュレーション
実際に、年収ごとに借入可能額と月々の返済額をシミュレーションしてみましょう。
フラット35を想定し、「固定金利35年・元利均等方式・年利1.5%・ボーナス返済なし」でシミュレーションすると、下記のようになります。
年収 |
返済負担率20% |
返済負担率35% |
300万円 |
約1,630万円 (月々約5万円の返済) |
約2,860万円 (月々約8.8万円の返済) |
400万円 |
約2,180万円 (月々約6.7万円の返済) |
約3,810万円 (月々約11.7万円の返済) |
500万円 |
約2,720万円 (月々約8.3万円の返済) |
約4,760万円 (月々約14.6万円の返済) |
600万円 |
約3,270万円 (月々約10万円の返済) |
約5,720万円 (月々約17.5万円の返済) |
700万円 |
約3,810万円 (月々約11.7万円の返済) |
約6,670万円 (月々約20.4万円の返済) |
800万円 |
約4,350万円 (月々約13.3万円の返済) |
約7,620万円 (月々約23.3万円の返済) |
900万円 |
約4,900万円 (月々約15万円の返済) |
約8,570万円 (月々約26.2万円の返済) |
1,000万円 |
約5,440万円 (月々約16.7万円の返済) |
約9,520万円 (月々約29.1万円の返済) |
ご覧のように、返済比率35%であれば返済比率20%の場合よりも多くの金額を借り入れることができますが、毎月の負担は重くなってしまいます。
返済を早く終わらせたいが故に返済比率を高くしてしまうと、日々の生活に悪影響が出てしまう可能性があるため注意しましょう。
5. 借入額=購入できる住宅の価格…ではない!
「借り入れる住宅ローン=購入する物件の金額」と考えている人がいますが、それは誤りです。
マイホームを購入する際には、頭金を用意する必要があることに加えて、不動産取得税などの諸費用が発生する点に注意が必要です。
5.1. 頭金の目安は所要資金の10%~20%
「2021年度 フラット35利用者調査」によると、住宅ローンを組む際に準備した頭金は「購入価格の1~2割程度」という人が多いです。
全国平均でみると「758.9万円」を頭金として用意していることから、マイホームの購入にあたってまとまった資金が必要になることがわかります。
つまり、住宅ローンを借りる金額は、ざっくりと「購入価格から頭金を差し引いた金額」というイメージです。生活費とのバランスを見ながら、計画的に頭金を用意することも大切です。
5.2. 諸費用は購入価格の10%前後かかることがある
マイホームを購入する際には、下記のように様々な諸費用が発生します。
- 不動産会社への仲介手数料
- 司法書士への登記依頼手数料
- 金融機関への融資関係手数料、ローン保証料
- 不動産取得税、登録免許税などの各種税金
これらの諸費用は「物件の購入価格の1割程度」が目安となっているので、決して小さくない金額です。
たとえば、3,000万円の物件を購入する際には、約300万円の諸費用が発生することになります。
なお、金融機関によっては、諸費用を住宅ローンに組み込むことができるケースがありますが、基本的に諸費用は自己資金で用意することになります。
住宅ローンに頼るとその分利息が発生し、総支払額が膨らんでしまうため、計画的に自己資金は積み立てておくのがおすすめです。
6. 無理のない住宅ローン借入額|年収以外の判断ポイント
続いて、無理なく返済できる住宅ローン借入額を判断する際のポイントを紹介していきます。
年収以外にも、さまざまな要素を勘案することが大切です。下記で解説する内容もチェックしてください。
6.1. 家計・家族の状況を考慮する
家族の人数や子どもの年齢、生活水準などによって各家庭の家計状況は異なるため、自身の家計状況をチェックしましょう。
また、子どもの進学のタイミングは、数百万円の教育資金が必要になるため、住宅ローンと併せて家計を大きく圧迫します。
そのため、住宅ローンを組む際には、家計状況や家族のライフステージも考慮することが非常に大切です。
シミュレーションが雑だと、出費がかさむタイミングで家計が赤字になってしまい、生活に悪影響が出てしまう可能性があります。
収支バランスはもちろん、家族の将来を見越したうえで無理のない返済計画を考えましょう。
6.2. 年収が下がった場合を想定する
下記のように、生きているなかで年収が下がりうる要因は多くあります。
- 降給してしまった
- 失業してしまった
- 出産に伴って妻の収入が減少した
- 親の介護で時短勤務になった
住宅ローンを借りるうえでは、安心して返済するためにも、年収が下がってしまった場合も想定しておく必要があります。
もし、住宅ローン返済中に何らかの理由で年収が下がり、返済が厳しくなるとローンの借り換えなどを検討することになります。
生活費の切りつめなど、生活にも悪影響が出てしまうため、「悪いケース」の想定もしておきましょう。
6.3. 金利の変動を計算に入れる
日本では低金利が長く続いているため、住宅ローンを借りる人にとっては有利な状況です。
しかし、変動金利や当初固定金利でローンを組んでいる場合、金利の変動に伴って返済負担が重くなる可能性があります。
アメリカやヨーロッパでは利上げが行われており、実際に住宅ローンの返済が滞ってしまう世帯が増えていることから、金利の変動は無視できないポイントです。
2022年7月21日の金融政策決定会合では、低金利政策の維持が決定されましたが、今後どうなるかはわかりません。
「円安を抑えるために利上げを行う」というシナリオも否定できない以上、金利の変動も想定しておきましょう。
7. 年収からみた目安より高額の物件を買いたいときは?
最後に、「シミュレーション結果よりも高い物件が欲しい」という場合の対処法を紹介していきます。マイホームの購入で妥協したくない、という人は参考にしてください。
7.1. 頭金を多く用意する
頭金を多く用意できれば住宅ローンの借入金額が少なくなり、その結果として返済負担も少なくなります。
そのため、マイホームの購入を検討しており、「年収がそこまで高くない」という人は、早い内から計画的に頭金を貯蓄するのがおすすめです。
また、目安よりも多い頭金を用意することで、金融機関から信頼を得られ、審査が有利に働くメリットも期待できます。もちろん、生活のバランスが崩れるレベルで頭金を用意する必要はありませんが、高い物件の購入を希望している場合は頭金の用意を進めましょう。
7.2. 収入合算・ペアローンを検討する
先述した収入合算を行えば、「1人分の年収」ではなく「2人分の年収」で審査を行うため、借入限度額も増えます。
そのため、夫婦共働きで「グレードの高い物件に住みたい」と考えている人は、収入合算を検討するとよいでしょう。また、収入合算と似ていますが「ペアローン」の活用もおすすめです。
ペアローンとは、1つの物件に対して夫婦がそれぞれローンを組む方法を指します。
1人あたりの借入額は低くなりますが、2人分を合わせると「1人でローンを組む場合」よりも多い金額を融資してもらえる可能性があるため、こちらも検討する価値があります。
7.3. 申し込み前にほかの借り入れを完済する
先述したように、返済比率は住宅ローンだけでなく、そのほかの借り入れも含めて計算します。
実際に、金融機関がローンの審査を行う際には、ほかの借り入れ状況もチェックしているため、申し込み前にすでにある借り入れを返済することをおすすめします。
また、金融機関は返済能力をチェックするために、延滞や支払遅延状況などもチェックしているので、過去の返済履歴も確認しておきましょう。ほかの支払いがなくなることで毎月の収入にも余裕が生まれるため、目当ての物件にも手が届きやすくなります。
住宅ローン以外の返済がなくなれば、収支バランスが改善して、より高額な物件を購入できる可能性が生まれます。
そのため、すでに借り入れがある場合は、速やかに返済したうえで住宅ローンの申し込みをするとよいでしょう。
まとめ
年収に対する適正な住宅ローン額の考え方、また返済比率などの目安について解説してきました。
住宅ローンの審査において、金融機関は年収や返済比率を重視しており、また「無理なく返済できるかどうか」もチェックしている点は知っておきましょう。
しっかりとシミュレーションを行い、返済計画を立てることで長期的に無理なく住宅ローンを返済できます。
マイホームは人生で最も高い買い物ですから、借入額の目安を把握したうえで無理なく住宅ローンを返済できるようにしましょう。