「どんなに働いても収入は上がらず、一方で生活コストは上がり続ける」傾向が顕著になっています。消費者の購買力はますます落ち込み、日本経済はますます厳しいものになっていくでしょう――。スティーブ金山氏が著書『18歳になったら、必ず押さえておきたいFIRE黄金法則』(彩流社)にて解説している、「これからの日本経済が厳しい理由」10項目のうちの3項目を見ていきます。
「どんなに働いても収入が上がらない…」日本経済は今後“ますます厳しくなる”と言えるワケ (※画像はイメージです/PIXTA)

日本だけ物価が上昇してこなかった理由

●長引くデフレ

 

バブル破裂後の日本経済は、失われた20年と言われ、20年間物価が下がり続けるデフレ(デフレーション)が続きました。2012年以降は若干のインフレ(インフレ―ション)に転換しましたが、各国のインフレのスピードに比べると物価はほとんど上がっていないようです。

 

このことが一目でわかるのが、[図表1]です。先進国に韓国を加えたインフレ率の比較ですが、日本は年率1%成長すらできていないにもかかわらず、ほとんどの国で2%以上の成長を遂げています。

 

出所:MONOist(2021年7月12日記事)「「ファクト」から考える中小製造業の生きる道」
[図表1]1980年基準の各国GDPデフレーター 出所:MONOist(2021年7月12日記事)「「ファクト」から考える中小製造業の生きる道」

 

2000年頃までは、欧米人からも、日本は物価が高いので行きたくても行けないと言われることが多くありました。しかし、もはやアジアの人たちですら、そんなことを言う人はほとんどいなくなりました。

 

コロナ前までは、日本の地方経済の救世主とされていたインバウンド需要ですが、欧米や中国・韓国のみならず、タイやインドネシアなどの国々からも日本は人気の滞在先となってきました。これは、他の国々が経済的に豊かになってきたのに対して、日本の物価だけが30年前とほとんど変わっていないからです。

 

世界中で資源の奪い合いが起こっているために、物価は上昇しているのにもかかわらず、日本だけ物価が上昇してこなかった理由は、長い間説明がつきませんでしたが、最近になって日本固有の構造的な問題ということがわかってきました。

 

それは、日本企業が消費者離れを恐れて物価上昇を商品価格に転嫁しないこと。それによって、利益率が落ち込み、非正規化の促進も含めて人件費負担を抑制していること。そして、人件費を受け取る側の労働者は、人件費が抑制され、可処分所得が減ったことにより、ますます購買力が落ちていき、社会全体の消費が縮小しているからです。

 

このことは、各国の一人あたり購買力平価を比較することでも見えてきます。一人当たりの購買力平価の比較では、

 

日本:42,248USDに対して、

 

韓国:44,620USD

 

台湾:55,723USD

 

シンガポール:97,056USD

 

米国:63,416USD

 

というような結果になっており、日本人よりも韓国人や台湾人のほうが豊かな生活を送っていることを示しています。

 

この傾向が続くとすると、日本人は周辺国に比べて、ますます貧乏になっていき、輸入物価が相対的に上昇していきます。この輸入物価の上昇は企業に重くのしかかり、値下げ努力が限界に達しそれ以上値下げができなくなったとき、物価上昇が始まっていくでしょう。

 

これによりデフレが止まれば喜ばしいかというと、必ずしもそうとは言えません。極限まで利益を減らしてまで値上げをしてこなかった企業の優先順位は、

 

売上点数>商品単価>企業の利益>>従業員の人件費

 

というものでした。商品単価の値上げを始めたとしても、この優先順位が変わらない限り、従業員の人件費が上がることはありません。つまり、あなたがどんなに働いても収入は上がらず、一方で生活コストは上がり続けるという傾向がますます顕著になります。

 

そして、消費者の購買力はますます落ち込み、日本経済はますます厳しいものになっていきます。近いうちに、南米や東南アジアの新興国のように、物価は上がるものの、国民のほとんどが貧困に喘いでいる状態、すなわち貧困国になっていく可能性が高いのです。