一家の働き手や年金を受け取っている人などが亡くなったとき遺族が受給できる「遺族年金」。本記事では、夫が会社から独立直後に急逝した家庭の事例をもとに、驚愕の遺族年金受給額について三藤FP社会保険労務士事務所代表の三藤桂子氏が詳しく解説します。
IT会社から独立直後の35歳夫急死…妻も驚愕の「遺族年金額」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

35歳夫、IT会社勤務から独立直後の急逝…

今回は、子ども2人を抱える専業主婦Aさんの夫(35歳)が亡くなったケースを事例に遺族年金の受給額をみていきましょう。

 

Aさんのご主人は大学卒業後、念願のIT会社に就職。お互い28歳で結婚し、2人の子どもにも恵まれました。ご主人はスキルを活かし自由に仕事をしたいし、さらに収入を増やし子どもの教育費も貯めておきたいと、35歳で会社を退職し独立しました。

 

しかし独立して1ヵ月後、ご主人は脳梗塞にて急死しました。今までの健康診断で異常がなく元気だったのにとAさんが途方に暮れていたところ、友人から遺族の公的保障として遺族年金があると聞き、年金事務所に向かいました。遺族年金の請求したところ、受給見込額とその説明を受けて愕然としました。Aさんの考えていた想定額とは大きな開きがあったためです。

 

なぜ受給見込額が想定より少なくなってしまったのでしょうか。それは、Aさんのご主人が亡くなる直前に個人事業主として独立していることに起因しています。Aさんのご主人が亡くなったときに会社員であった場合と、個人事業主の場合とで遺族年金の見込額はどのように変わっていたのでしょうか。

 

遺族年金はどんな人が受け取れる?

遺族年金には亡くなった人の年金の加入状況などによって、次のいずれか、または両方の年金を受け取ることができます。


・遺族基礎年金:「子」または「子のある配偶者」が受け取ることができる


・遺族厚生年金:亡くなった人に厚生年金保険の加入期間があり、かつ要件を満たすことで、亡くなった人に生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母が受け取ることができる

 

遺族厚生年金の亡くなった人の要件は次のとおりです。

 

(1)厚生年金保険の被保険者であるあいだに死亡したとき


(2)厚生年金保険加入中に初診日がある病気やケガが原因で初診日から5年以内に死亡したとき


(3)1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている人が死亡したとき


(4)老齢厚生(退職共済)年金の受給権者または受給資格を満たした人が死亡したとき(いずれも受給資格期間が原則25年以上ある人に限ります)

 

上記(1)、(2)の保険料納付要件については、死亡日の前日において、原則、死亡月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間または保険料免除期間が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。ただし、死亡月が2026年3月末日までの場合は、死亡した人が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡月の前々月までの直近1年間に、保険料の未納がなければ特例として要件を満たすこととなっています。

 

上記(4)の保険料納付要件については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合計した期間が25年以上ある人に限ります。

 

Aさんのご主人の厚生年金加入期間は23歳から35歳までの12年間で、その後、独立し国民年金に加入したため、亡くなった人の遺族厚生年金の要件(1)~(4)のいずれにも該当していません。つまり、会社を辞めてしまったことが受給額の減少に大きな影響をおよぼしているのです。