本記事では、ニッセイ基礎研究所の篠原拓也氏が、ニュースなどでよく耳にする「富士山O個分」などという例示について考察していきます。
「富士山O個分」 実感できる?-「~O個分」 や 「~のO分の1」 の上手な例示 (写真はイメージです/PIXTA)

レタスは食物繊維の例示の定番だが…

もう1つ、昨今の社会全般の健康志向の高まりを受けて、整腸作用のある食物繊維も注目されている。機能性食品などで食物繊維の量を表示するときに、よく用いられるのがレタスだ。

 

「レタスO個分の食物繊維に相当」などと表示することで、なんとなく体によさそうな感じがする。「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(文部科学省)によると、レタス[結球葉 生]は可食部100グラム当たり1.1グラム。レタス1個の重量を300グラムとして、レタス1個当たりの食物繊維は3.3グラム。これを基準として用いることが一般的だ。

 

ただ、可食部100グラム当たりで、レタス(1.1グラム)よりも多くの食物繊維を含む食品には、ごぼう[根 ゆで](6.1グラム)、さつまいも[塊根 皮つき 蒸し](3.8グラム)など、他にもたくさんある。レタスは、サラダの定番として食卓に上ることが多いため、食物繊維の基準に使われやすいようだ。

 

なお、ビタミンCを「レモンO個分」、食物繊維を「レタスO個分」というように、「食品O個分」という形で表示することについて、2014年に内閣府の消費者委員会 食品表示部会 栄養表示に関する調査会では、何らかの基準を設けるかどうか検討している。

 

その検討に際して、「レタス3個分の食物繊維シリアル」というパッケージ見本を示して、全国でアンケート(インターネット調査, 20歳以上の男女, n=6000 (平成25年度消費者庁調査事業))を行ったところ、72.8%の人がこれを「栄養強調表示と思う」と回答したという。このことから、「食品O個分」を用いて極端な表示をすることには優良誤認表示を招くおそれがある、といえそうだ。

 

*商品・サービスの品質を、実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝する行為 (「優良誤認とは」(消費者庁HP)より)

 

同調査会では、こうした「食品O個分」のような表示については、その食品の代表的な量を示すことは困難なため引き続き基準を設けないとし、事実に基づいたものである限り、販売者の責任で任意に表示することとしている。

髪の毛の太さは、小ささの基準

今度は、小さいものの表し方について見てみよう。小さいものは、髪の毛の太さを用いて表すことが一般的だ。花王株式会社のヘアケアサイトによると、髪の毛の太さは、日本人女性の場合、平均約0.08ミリメートル程度とされている。男性も大体同じとみてよいだろう。

 

そこで、例えば、健康に影響を与える大気中の粒子の大きさを、髪の毛の太さで表すということが行われる。花粉症の原因となるスギ花粉は、直径0.03ミリメートルほどだ。これは、髪の毛の2分の1以下の大きさとなる。

 

もっと小さい粒子としては、PM2.5 (Particulate Matter (微小粒子状物質)) が知られている。アジア大陸内陸部の砂漠から舞い上がった黄砂が、日本に飛来した場合に、大気中に含まれるとされる。ここで2.5とは、2.5マイクロメートルを意味する。ただ、一般の人々は、マイクロメートルという単位はなじみがなく、実際にどれほど小さいのか、よくわからない。

 

こんなときに、髪の毛を使った例示が役に立つ。2.5マイクロメートルは、0.0025ミリメートルと同じだ。つまり、髪の毛の太さの30分の1以下に相当する。ものすごく小さいわけだ。

 

PM2.5を吸い込むと、肺の奥にまでたどりついてアレルギー反応を引き起こすとされる。髪の毛と比較することでPM2.5の粒子の小ささをイメージできれば、吸い込んだときに、肺の奥にまで達っしてしまうということが実感しやすくなるだろう。

 「~O個分」や「~のO分の1」の例示で実感を深める

以上、何かよく知られたものを用いた数量の例示について見ていった。このうち、「食品O個分」といった食品の成分の表示は、慎重に行うべきといえるだろう。消費者の優良誤認につながりかねないためだ。

 

一方、ごみの量やPM2.5の大きさのように、環境や健康の問題に関係する数量については、「~O個分」や「~のO分の1」を上手に例示することで、人々の理解を深めることにつながる。そうなれば、問題への関心も高まるはずだ。こうした例示を工夫することは、とても有意義といえるだろう。

 

今度、メディアなどで、「~O個分」や「~のO分の1」という例示を見かけたら、それがわかりやすいかどうか、少し考えてみるのもよいかもしれない。