1. 不動産小口化商品とは
不動産小口化商品は、ひとつの不動産を一口につき数万円から分割して販売する商品のことです。事業者が不動産の運用をし、家賃収入や売却益を投資口数に応じて投資家に分配します。共同で不動産に出資するため、不動産特定共同事業ともいわれます。
個人では手が出せない高額な不動産でも、一口ごとに販売されているため、少額からの投資が可能です。また、種類によっては実物不動産のように権利を保有できる商品があり、相続税の節税につながる手段としても注目を集めています。
なお、不動産小口化商品は不動産特定共同事業法に基づいて運営され、国からの許可を受けた事業者でなければ商品を提供できません。
1.1. 不動産特定共同事業の仕組み
現物の不動産投資で不動産を所有するためには、数千万円前後の大きな資金が必要です。
不動産特定共同事業では、事業者が収益を見込める不動産を購入して一口ごとに分割し、複数の投資家に販売します。そのため、大きな資金がなくても不動産投資ができます。
なお、不動産小口化商品は、国土交通大臣や都道府県の知事に許可を得た業者のみが販売可能です。
2. 不動産小口化商品の種類
不動産小口化商品には、いくつかの種類があります。ここでは、「匿名組合型」「任意組合型」「賃貸借型」の3種類について詳しく紹介します。
2.1. 匿名組合型
匿名組合型は、不動産特定共同事業者と投資家が匿名組合契約を結び、事業者に出資する商品です。事業者は不動産の所有者として管理運営を行い、得た利益を投資家に分配します。
匿名組合型の大きな特徴は、有限責任なので元本割れしても、投資した金額を上回る責任を負わなくてよいことです。また、一口数万円からの少額投資が可能で、数ヵ月単位からの短期投資ができます。
2.2. 任意組合型
任意組合型は、出資者と不動産特定共同事業者が任意組合契約を結び、出資したすべての投資家が共同で事業を行う商品です。事業者は組合の代表として運営管理し、事業によって得た利益を投資家に分配します。
任意組合型の大きな特徴は、投資家が不動産の所有権を持つことです。そのため、相続時に実物不動産と同様に相続税評価額で計算されるため、相続税の節税が期待できます。
また、一口100万円以上、運用は10年以上の長期機関で募集されることが多く、長期にわたって収益を得られます。
2.3. 賃貸借型
賃貸型とは、任意組合型と同じく複数の投資家が、不動産特定共同事業者が運用する不動産を共同で事業を行うことです。
そのあと事業者と賃貸借契約を結び、家賃収入による利益や不動産の売却時の売却益が投資家に分配されます。また、投資家が不動産の所有権を得られるため、相続税の節税が期待できます。
一口100万円以上、運用は10年以上の長期機関で募集されることが多く、長期にわたって収益を得られます。
3. 他の不動産投資との違い
不動産投資には、不動産小口化商品の他にも、実物不動産投資やREITなどがあります。それぞれにはどのような違いがあるのでしょうか?
ここでは、不動産小口化商品と実物不動産投資、REITの違いについて紹介します。
3.1. 実物不動産投資との違い
土地やマンション一棟・一室、アパートなどを購入する実物不動産投資は、収益不動産から家賃収入を得たり、売却して売却益を得たりする投資方法です。投資家自身で購入する不動産のため、管理方法や売却のタイミングは自由に決められます。
不動産小口化商品と実物不動産投資との大きな違いは、投資に必要な資金です。
実物不動産を始める際には初期費用が多額になり、不動産を購入するためには多くの場合で不動産投資ローンを利用します。
一方、不動産小口化商品は、一口につき数万円からの商品があるため、頭金や諸費用などの初期費用は必要ありません。
3.2. 不動産投資信託との違い
REIT(不動産投資信託)は、投資信託の一種です。不動産投資法人が、投資家から集めた資金でオフィスビルやマンション、商業施設などの不動産をいくつも購入します。
不動産投資法人は、賃貸収入や売却益を投資家に分配します。証券取引所を通し、不動産ではなく投資信託の証券を売買するため流動性が高く、自由なタイミングで売買可能です。
しかし、不動産市況や金利の影響を受けたり、証券市場における値動きが大きくなったりする可能性があります。
このように、売買の自由度や収益の安定性などで、不動産小口化商品と不動産投資信託とでは違いがあります。
4. 不動産小口化商品5つのメリット
不動産小口化商品には、「不動産のプロが選んだ物件」「不動産保有者」「不動産管理の手間」「相続対策」「リスク」にメリットがあります。
ここでは、それぞれのメリットを詳しく紹介します。
4.1. 不動産のプロが選んだ物件に投資できる
不動産小口化商品は、投資家が集まらなければ運用できないため、事業者は収益が期待できる不動産を商品化しています。
不動産小口化商品を運営する事業者は、不動産特定共同事業者として許可を得ている不動産に関するプロです。プロが選んだ、安定した賃貸収入が見込めそうな物件や、不動産価値が上がりそうな物件に投資できます。
そのため、大型のマンションや商業テナントビルなど、個人では購入できない不動産への投資が可能です。
4.2. 不動産保有者になれる
任意組合型の不動産小口化商品では、投資家が不動産の所有者になれます。そのため、商品の規約範囲内であれば、投資した口数の売却が可能です。
少額から始められる不動産投資には、不動産小口化商品の他にREITがあります。REITでは、物件を保有する人物は不動産投資法人であり、投資家は証券のみを購入します。
4.3. 不動産管理の手間がかからない
実物不動産投資では、不動産のメンテナンスや家賃の入金などの管理まで、すべて自分で行います。
一方、不動産小口化商品は、入居募集や退去管理などの賃貸管理や、メンテナンスやリフォームなど建物管理の手間はかかりません。なぜなら、すべて事業者や専門の管理会社が担うためです。
そのため、投資家は管理全般を任せられます。不動産小口化商品であれば、費用の面だけでなく時間や労力の面でも不動産投資に挑戦しやすいと言えます。
4.4. 相続対策として活用できる
実物不動産投資と同様に、任意組合型では投資家が不動産の所有権を得られます。現金や有価証券を相続する際は、その金額がそのまま相続税の課税対象になります。
それに対し、任意組合型の不動産小口化商品では、「路線価」「固定資産税評価額」を基にして相続税評価額を計算します。そのため、現金よりも評価が低くなり、相続税の節税につながります。
また、小口に分けて不動産の所持ができるため、複数の相続人がいても分配しやすくなることもメリットです。
4.5. 比較的リスクが少ない
不動産小口化商品の大きなメリットは、一口数万円からの少額で始められることです。分散投資がしやすいため、リスク分散の面でもメリットがあります。
不動産投資には、空室や災害などのリスクがあり、収益が大幅に減少してしまう可能性があります。
そのため、ひとつの不動産に集中して投資するのではなく、複数の不動産に少額ずつ投資可能な不動産小口化商品は、リスク分散につながります。
5. 不動産小口化商品4つのデメリット
不動産小口化商品には、「家賃収入や元本保証」「不動産小口化商品の選択肢」「融資」「相続対策」「事業者の倒産」などのデメリットがあります。
ここでは、それぞれのデメリットについて詳しく紹介します。
5.1. 家賃収入や元本保証がない
不動産小口化商品は、組合や共同事業として不動産を購入して運用し、利益を分配する仕組みです。そのため、入居者が決まらずに空室の状態が続くと家賃収入が得られません。
また、将来不動産の価値が下がり、元本割れを起こす可能性があります。
5.2. 不動産小口化商品の選択肢が少ない
注目を集めている不動産小口化商品は、他の不動産投資の方法に比べると新しい投資手法です。そのため、注目度に対して商品の種類がそれほど多くなく、選択肢が限られています。
商品が販売されてもすぐに完売してしまい、なかなか購入できないケースも少なくありません。流動性が低く、買いたくても買えない状態は、デメリットといえます。
5.3. 融資が受けられない
不動産投資では、投資対象の評価価値によっては、投資対象不動産を担保にして融資を受けられることがあります。そのため、自己資金が少なくても不動産の購入が可能です。
不動産小口化商品では、複数人の投資家がひとつの不動産を共同で所有しているため、投資対象不動産は担保にできません。融資を受けられないため、自己資金での投資が原則になり、高いレバレッジ効果が見込める投資はできません。
5.4. 事業者が倒産することもある
不動産特定共同事業者が倒産する可能性があります。不動産小口化商品の管理や運営は事業者に委ねるため、事業者が倒産すると投資家に損害が出ます。
倒産リスクを避けるには、信用度の高い事業者を選ぶことが大切です。事業者のなかには、東証プライム上場している企業もあるため、事業者のホームページで経営状況や業績などを確認してみましょう。
6. 不動産小口化商品に確定申告は必要か
不動産小口化商品を購入して収益を得たとしても、すべての投資家に確定申告が必要になるわけではありません。
不動産小口化商品以外の所得が給与のみの方に関して、確定申告が必要になる条件は、不動産所得の合計が20万円を超えた場合です。
注意点は、年間20万円の「収入」ではなく、「所得」であること。収益から経費を引いた金額が不動産所得となり、この不動産所得が20万円を超えたときに確定申告が必要になります。
しかし、20万円以下の所得であっても以下のような場合には確定申告が必要です。
- 医療費控除を適用する
- ワンストップ納税をふるさと納税で選択していない
- 年末調整で住宅ローン控除を適用していない
- 給与を2か所以上の事業主から受け取っている
不動産所得が赤字の際には、確定申告をすることで赤字部分の税金が戻ってくるため、節税につながります。また、申告義務が発生しているにもかからわずに確定申告の手続きをしなければ、罰金が発生します。
7. 確定申告の手順
不動産所得の確定申告は、「提出書類の準備」「確定申告書を作成」「税務署に提出」の流れで進めます。
申告の期間は、毎年2月16日から3月15日です。これを過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税が発生するため、確定申告の義務がある際には、必ず提出しましょう。
7.1. 提出書類を準備する
不動産の投資で収入があれば、収入を証明する書類を提出するために準備します。必要書類は、以下の通りです。
- 賃貸契約書
- 源泉徴収票
- 不動産売買契約書
- 不動産収支内訳書
- 固定資産税通知書
- 借入の返済予定表
- 修繕費の請求書・領収書
- 火災保険・地震保険の証券
- 水道光熱費や交通費などの領収書
- 賃料入金明細など
書類をすべて準備するためには時間がかかるため、確定申告の期間になる前に準備しておきましょう。
7.2. 確定申告書を作成する
確定申告書の書類に必要事項を記入します。書類の作成には、国税庁のHP「国税庁 確定申告書等作成コーナー」を利用すると便利です。
不動産所得の確定申告は不動産所得用の収支内訳書を使用し、収支内訳書の太枠に該当する金額がある場合には必ず記入します。しかし、国税庁のHPのツールを使えば、金額を入力するだけで自動計算してくれるので、納付金額がすぐにわかります。
作成した確定申告書はコピーを取って保管しておきましょう。
7.3. 税務署に提出する
税務署に提出するには、以下の方法があります。
- 書類を税務署に持参
- PDFファイルを印刷し、記入した書類を税務署に郵送
- インターネット経由(e-Tax)
記載内容に間違いがあると再提出になる可能性があるため、確定申告の期限を過ぎないように余裕をもって提出しましょう。
8. まとめ
不動産小口化商品は、一口数万円から100万円程に分割された不動産を購入し、年に数回利益を得る不動産投資です。匿名組合型や任意組合型などの種類があり、任意組合型では購入した不動産の所有権を保有できます。
そして、不動産小口化商品の確定申告は、不動産所得が20万円を超えると必要になります。確定申告をしないと罰金が発生するため、申告義務がある場合には忘れずに手続きしましょう。