1. 不動産クラウドファンディングの仕組み
不動産クラウドファンディングは、投資家が不動産に対して複数人で投資をして、その不動産の利益が分配される権利を得られる仕組みです。
従来の不動産投資は、不動産物件を自分で購入して運用する必要がありました。
一方、不動産クラウドファンディングは、物件の運用を不動産会社に任せて、少額の投資から始められます。手続きや運用に関する許可や手続きは事業者が行うため、不動産投資初心者の方におすすめの投資方法です。
2. 不動産クラウドファンディングで得る利益
不動産クラウドファンディングで投資家が得られる利益は、「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」です。不動産物件によって、どちらか一方の利益を得られる仕組みではなく、それぞれの比重が物件によって違います。
2つの利益について簡単に解説します。
2.1. インカムゲイン
インカムゲインは、投資した不動産に入居者が入り、その家賃収入が元になる利益です。家賃収入の全額が利益には回りません。家賃収入から不動産に必要な管理費用が引かれ、残った金額を分配します。
インカムゲインの分配は、景気に左右されにくく、利益の金額が大幅に変動しません。その物件に入居者が入れば、自分の投資額に合わせた分配金を受け取れます。投資期間中、継続的に受け取れる利益です。
2.2. キャピタルゲイン
キャピタルゲインは、投資家が投資した物件を売却するときに得られる売買利益です。投資家の購入した物件が、購入時より価値が上がったときに売却すると、その分利益を得られます。
インカムゲインと比べると、分配率に変動が起きやすい利益です。その物件が安いときに購入し、物件の価値が上がったときに手放すタイミングを見極める必要があります。
もし、不動産が予想の価格で売却できなかったとき、購入時の金額を下回る可能性もあります(=「キャピタルロス」)。
3. 節税になるかどうかは契約の種類によって異なる
不動産クラウドファンディングには、主に2種類の契約方法があります。「匿名組合型」と「任意組合型」です。
契約方法によって、節税が可能かどうかは分かれます。契約方法の特徴と、税金対策が可能かどうかを解説します。
3.1. 匿名組合型の不動産クラウドファンディングとは
匿名組合型の契約は、投資家と不動産事業者の2名間で行われます。契約をしたあとに、投資家は不動産に対して出資し、利益が出ればその分配を受けられる仕組みです。投資家は、自分以外に契約している投資家の情報を知ることはありません。
また、運用する不動産の所有権は不動産事業者にあり、投資家には登記費用の負担がない契約方法です。投資家は、利益の分配を受けられる権利と出資金の返還請求権を得られます。出資のみをするため、運用方法に口出しはできません。
短期の契約で利益を得られる商品が多く、少額の投資金額で効率よく投資したい方におすすめの契約方法です。
ちなみに、匿名組合型の分配金は雑所得として扱われるため、節税効果は少ない投資です。
3.2. 任意組合型の不動産クラウドファンディングとは
任意組合型の契約は、同じ不動産を購入する投資家たちが同じ組合員として1つの組合契約を結びます。投資家は、出資して共有持分を購入します。不動産事業者は、組合の代表として不動産を運用する仕組みです。不動産運用で利益があれば、投資額に応じて分配金が支給されます。
匿名組合型とは違い、不動産の所有権は投資家にあります。不動産の登記簿にも投資家の名前が載るため、登記費用が必要です。不動産を所有するため、もし不動産の修繕や復旧があれば、投資家も負担を負う可能性があります。
運用は不動産事業者が行います。しかし、実質不動産を投資家がそのまま持っている状態と同じです。そのため、現物不動産投資と同様に金融資産の評価圧縮効果が期待できる契約方法です。
相続税や贈与税の対策としても人気があります。
4. 任意組合型の不動産クラウドファンディングで相続税が減る仕組み
任意組合型で不動産投資の契約をすると、相続税を減らせます。なぜなら、相続において、不動産の相続のほうが現金の相続よりも税金が安いためです。
さらに、自分が使用するための土地より賃貸用の住地のほうが相続財産の評価を下げられるため、より相続税を抑えられます。不動産クラウドファンディングを任意組合型で契約し、賃貸運用する方法がもっとも税金対策できる相続の方法だとわかります。
相続税の税金対策ができる契約方法は、任意組合型のみです。匿名組合型は、投資家に不動産の所有権がないため、節税対象ではありません。
現金で相続を行うよりも相続税を低く抑えられる投資方法は、任意組合型です。
5. 匿名組合型の不動産クラウドファンディングも損益通算が可能
匿名組合型の契約方法は、相続税の対策はできません。しかし、損益通算が可能です。
損益通算とは、同じ年に出た利益と損失を相殺する方法です。不動産クラウドファンディングで利益が出たとしても、同じ雑所得内で損失があれば、利益から差し引くことができます。
損益通算は、雑所得どうしのみ相殺が可能です。たとえば、外貨預金の為替差益や公的年金が当てはまります。相殺すると課税所得が減るため、納税額を減らせます。
しかし、給与所得・譲渡所得など他の区分の所得と相殺することはできません。自身の収入がどの区分に入るかを確認し、節税できるかどうかを確認してください。損益通算をすると、減税や納税した税金の還付が見込めます。
6. 他の不動産投資手法と税金
不動産の投資手法はさまざまな種類があります。
ここでは、「現物不動産投資」「J-REIT」「不動産クラウドファンディング」の投資額や節税効果を見てみます。
ちなみに、J-REITとは、投資家の資金を集め、オフィスビルや商業施設の不動産を購入し運用する不動産投資手法のこと。不動産の賃貸収入や利益を分配します。法律上、投資信託に分類されます。
現物不動産投資 |
J-REIT |
不動産クラウドファンディング |
|
投資額 |
数千万円〜数億円 |
1口数万円〜数十万円 |
1万円〜 |
かかる税金 |
売却分の源泉分離課税 |
売却益・運用益の源泉分離課税 |
分配金に対して雑所得税 |
節税効果 |
所得税・相続税の対策ができる |
できない |
任意組合型のみ相続税の対策ができる |
ご覧のように、投資金額や税金の内容・税金対策の有無について、それぞれ特徴が違います。自分が希望する投資金額や内容に合わせて投資手法を選びましょう。
7. 数少ない任意組合型の不動産クラウドファンディング
任意型の不動産クラウドファンディングを運用している会社は、数が少なく限られます。国内で任意組合型の不動産クラウドファンディングの運用企業を紹介します。
7.1. 利回りくん
利回りくんは、株式会社シーラが運営する不動産クラウドファンディングのサービスです。
不動産投資をするだけではなく、不動産を通して社会貢献や地域創生を目指して運用されています。掲載されている物件も、その目的に合ったものが載せられています。
利回りくんでの任意組合型契約は、1口1万円から可能。不動産の運用期間は3年から10年程度の物件が多く掲載されています。任意組合型の投資も少額から始められるため、人気があります。
7.2. Good Com Fund(グッドコムファンド)
Good Com Fundは、株式会社グッドコムアセットが運営する、任意組合型専門の不動産クラウドファンディングです。
運用期間が15年程度の長期型案件を多く扱っており、自社ブランドのマンションを投資対象にしています。エリアは東京23区に限定。投資金額は、1口10万円からとなっています。
7.3. Globalbank Funding(グローバルバンクファンディング)
Globalbank Fundingは、株式会社Global bankが運営する不動産クラウドファンディングです。ホームページに掲載されているファンドは、1口10万円から投資できる物件や1口100万円・最低3口から応募できるものもあります。
これまで掲載されてきた物件数は2件で、今後の運用に期待できる会社です。運用スタッフは売買賃貸コンサルティングに関して高い知識を持っているようです。
最低投資金額や運用期間はファンドによって異なるため、自分が希望する運用方法に合った不動産クラウドファンディングを見つけられます。
7.4. ASSET SHARING(アセットシェアリング)
ASSET SHARINGは、株式会社インテリックスが運営する不動産クラウドファンディングです。2015年からサービスを開始。東京都内に限らず、京都府や福岡県にも物件を持っています。
建物をリノベーションして運用するため、その建物の価値を上げられる点が強みとなっています。
投資金額は1口100万円から。運用期間15年程度の物件が多く掲載されており、なかには30年の運用期間が設けられているファンドもあります。
8. 節税効果が薄い匿名組合型でも不動産クラウドファンディングが人気の理由
匿名組合型は、節税効果は薄い不動産クラウドファンディングです。しかし、近年人気があり、匿名組合型ファンドの需要は高まっています。その理由は、以下の5つ。
- 少額から投資できる
- 優先劣後出資による損失リスクの軽減
- 不動産投資でありながら短期投資が可能
- ポイント投資などサービスが多種多様
- 上場企業が運営している不動産クラウドファンディングも多い
それぞれ解説します。
8.1. 少額から投資できる
不動産クラウドファンディングの人気の理由は、少額から投資が始められる点です。
匿名組合型の契約は、1口1万円から始められるファンドも多くあります。不動産クラウドファンディングが初めての方や、初期費用をあまりかけたくない方でも始められます。
現物の不動産投資は初期費用が何千万円もかかるため、投資できる人が限られます。任意組合型の契約は、1口100万円〜数千万円と、金額の幅が広い投資です。気軽に始められるため、匿名組合型は人気があります。
8.2. 優先劣後出資による損失リスクの軽減
優先劣後出資の仕組みを取り入れている不動産クラウドファンディングは多くあります。優先劣後出資とは、優先出資と劣後出資のこと。
優先出資者は投資家のことを指し、劣後出資者は運用する事業者を指します。優先出資とは、配当金・利益を優先して受けられ、損失があれば後で出資する仕組みです。
劣後出資は、利益はあとに分配され、損失があれば先に出資します。損失が出たときに先に出資しなければいけないため、リスクが大きい立場です。
この優先劣後出資を取り入れている運営会社やファンドを活用することで、損失のリスクを下げて安定した利益を得られます。また、事業者も資金の調達や運用がスムーズにできるため、お互いにとってメリットがある方法です。
8.3. 不動産投資でありながら短期投資が可能
不動産クラウドファンディングは、他の不動産投資と比べて短期運用ができる投資方法です。たとえば、不動産自体を自身で購入し運用すると、その運用期間は20年から30年かかります。
不動産クラウドファンディングは、期間が短いファンドであれば6ヵ月程度のファンドや、3年〜5年運用のファンドが多くあります。
不動産の運用期間が長い物件は、修繕やリフォーム費用が必要な場合もあり、途中で出資が必要な可能性もある投資です。
不動産クラウドファンディングは、短期間で運用して利益を得られます。長期の運用をしたい方は、短期ファンドが終わったあと次のファンドに応募して運用を繰り返します。短い期間で配当金を受けられるため、人気がある投資方法です。
8.4. ポイント投資などサービスが多種多様
ポイント投資とは、外部のポイント関連サービスで貯めたポイントを投資に利活用できるサービスです。
現金を投資に当てることに抵抗がある方や、預金を減らしたくない方におすすめの方法です。ポイントを使用するため、資金調達に困ることはありません。
8.5. 上場企業が運営している不動産クラウドファンディングも多い
不動産クラウドファンディングを運営している会社には、上場企業もあります。たとえば、穴吹興産株式会社が運営するJointoαや、株式会社アンビジョンが運営するA fundingなどです。
上場企業は厳しい審査をクリアして上場しているので、信用力が高く、財務基盤が安定していると考えられます。
9. 不動産クラウドファンディングで失敗しないポイント
不動産クラウドファンディングで失敗しないポイントは3つあります。
- 事業者の安全性
- 投資対象物件の将来性
- 投資は余剰資金で挑戦する
それぞれ解説します。
9.1. 事業者の安全性
運用を任せる事業者の経営状況や過去の実績、投資物件の将来性は必ず確認して、安全かどうかを判断しましょうい。
9.2. 投資対象物件の将来性
投資対象物件のエリア、賃貸価格・周辺トラブルの有無などから、将来性があるかどうかを判断しましょう。
9.3. 投資は余剰資金で挑戦する
投資に使う資金は、余剰資金で行うのが鉄則です。利益が見込めるからといって、貯金を全額投資すると、いざというときに対処できません。
10. 大きな節税効果は期待し難いがメリットも多い不動産クラウドファンディング
不動産クラウドファンディングは、契約方法によっては大きな節税効果があります。
しかし、匿名組合型は短期間で分配金が受け取れ、任意組合型は相続税の節税などメリットも大きい投資方法です。それぞれに特徴があり、自分に合った契約方法で利益を見込めます。
興味を持った方は、無理のない範囲内で少額で始めてみてはいかがでしょうか。