1. 不動産投資は手法によって手軽に始められる
不動産投資を始めるには、多額の費用が必要だというイメージを多くの人が持っています。そのため、不動産投資に興味があっても、費用面から始めることが難しいと諦める人も多くいます。そのような人におすすめの不動産投資が、不動産小口投資です。
不動産小口投資は不動産が小口化されており、複数の投資家がそれぞれ資金を出して1つの物件を購入します。高額な不動産物件であっても、小口化されているため、少額で投資が可能です。
不動産小口投資は、比較的新しい投資方法であるため、商品の種類や選択肢が限定されていることがあります。ただ、少額投資ができるという大きなメリットがあるため、初心者におすすめの投資手法です。
2. 不動産における小口投資とは
一般的に不動産投資には多額の費用が必要となります。マンションといった不動産を1棟買いする場合は、少なくとも数千万円の資金が必要です。また、高額物件であれば、億単位の資金を要します。
一方で、不動産小口化商品であれば、手持ち資金の範囲で投資額を決められます。小口投資であれば、マンション1棟を購入する場合であっても1口100万円程度から始めることができます。複数の投資家から購入資金を集め、マンション1棟を購入するため、1人あたりの必要資金が抑えられ、負担を減らせる投資方法です。
また、投資形態によって実物不動産の所有者となることができるため、相続税対策をお考えの方におすすめです。
2.1. 不動産特定共同事業法とは
不動産特定共同事業法は、出資者を募って不動産を賃貸・売買し、そこから得た収益を出資者に分配する事業を行う事業者に対して設けられた法律です。
以下に記載した目的のため、1994年に制定されました。
- 事業の適正な運営を確保する
- 投資家の利益を保護する
多様化する不動産の取引方法に対応して、現在までに大幅な法改正が3回行われました。
法改正の年 |
主な追加修正 |
概要 |
2013年 |
倒産隔離型スキームの導入(特例事業) |
一定の要件を満たす企業が届出を提出することで、 SPC(特別目的会社)として不動産特定共同事業に参加できる |
2017年 |
小規模不動産特定共同事業者の追加 |
・登録制 ・投資家ひとりあたりの出資額が100万円、出資総額が1億円以下 ・資本金が1,000万円 |
クラウドファンディング に対応した環境整備 |
第24条3項、第25条3項により、オンライン上での書面の交付が認められた |
|
2019年 |
電子取引業務ガイドラインの策定 |
電子取引業務をする不動産特定共同事業者が遵守する内容が明確になった |
3. 小口投資の投資形態
不動産小口投資には、匿名組合型・任意組合型・賃貸型の3種類があります。小口投資は現物不動産投資と比べて少額からの投資が可能で、種類によって最低投資額が異なります。1口数万円から100万円ほどで、それぞれ特徴や運用期間が異なるため、自分の目標や状況などに適した不動産商品の選択をしなければなりません。
3.1. 匿名組合型について
匿名組合型とは、複数の投資家が不動産特定共同事業者に出資して、事業者の運用によって得られた利益を配分する方法を指します。各投資家と事業者は1対1で契約を結びます。
匿名組合で投資家による出資が認められているものは以下の通りです。
- 金銭の出資
- 現物の出資
投資家自身が不動産を所有するわけではないため、不動産所得税のような物件を自己所有する際に必要な初期費用がかかりません。匿名組合型の運用期間は1ヵ月、投資可能な金額は1口数万円からです。長期的な利益を重視したい人には不向きですが、不動産投資の初心者におすすめな不動産小口投資商品です。
3.2. 任意組合型について
任意組合型とは、複数の投資家が出資をして、ひとつの事業を運営する方法を指します。契約はすべての投資家と、不動産特定共同事業者の間で結ばれます。
任意組合で投資家による出資が認められているものは、以下の通りです。
- 金銭の出資
- 現物の出資
- 労務の出資
任意組合で所有する財産(物件)の所有権は任意組合が保有します。組合員は、民法第676条3項の規定により、清算する前に財産の分割を求めることはできません。
また、共同事業であるため、利益は出資した投資家に分配されます。投資可能な金額は1口100万円以上で、10年以上の運用期間が定められていることが多いです。
3.3. 賃貸型について
賃貸型は、複数の投資家が出資して物件を購入し、その物件を不動産特定共同事業者が運営する形式です。賃貸型では事業者に運営を委託するため、運営費用が発生します。
また、投資家に入る利益は、家賃収入から運営にかかる費用を差引いた金額です。出資した投資家に投資金額に応じて分配される形式を取ります。投資可能な金額は、任意組合型と同様に1口100万円以上で、運用期間は10年以上と長期にわたることが多いです。
運用が好調であれば、期間中は安定した収入を見込めます。デメリットとしては、万が一事業者が倒産した場合、利益が見込めるどころか運営母体が消滅してしまう恐れがあることです。
4. 不動産小口投資のメリット
多額の費用がかかるイメージがある不動産経営ですが、不動産小口投資であれば、少額で始められるなどさまざまなメリットがあり、初心者の方におすすめです。ここではそのメリットについて詳しく解説します。
4.1. 少ない金額から投資を始められる
形態にもよりますが、小口投資であれば1口数万円から100万円ほどで投資でき、自己資金が少ない方でも不動産投資を始められます。
一般的に、個人で不動産に投資をする場合、物件や土地の購入費といった多額の費用がかかります。その際、費用の目安としては数千万円、購入する物件の価格によっては数億円という資金が必要です。
また、不動産投資ローンを組む必要があり、返済金が発生するリスクを伴います。しかし不動産小口投資は、自己資金の範囲内で金額を設定し、不動産運用を始められます。
4.2. ハードルが高い物件に投資できる
都内にある数億円規模のマンションやオフィスビルは地価や景気の変動を受けにくく、一定のニーズがあります。そのような価格や価値が高い物件でも、小口化商品であれば少額から投資できるという利点があります。
また、小口化商品で取引されている物件は賃貸住宅以外にも、以下のようなものがあります。
- 商業ビル
- サービス付き高齢者向け住宅
- 保育園
- ホテル
個人での出資が難しい商業用物件でも、小口化商品であれば出資が可能です。
4.3. 投資におけるリスクを分散できる
不動産投資では景気の影響を受けることで空室リスクが増えたり、不動産価値が下落したりする可能性があります。損失額を抑えて投資を成功させるためには、リスク分散をすることが重要なポイントです。
たとえば、5,000万円の資金を不動産投資に充てる場合、全額をひとつの不動産に投資するよりも、10件の不動産に500万円ずつ投資するほうがリスクを分散できます。
さらに、需要が異なる物件を組み合わせることで値動きにズレが生じ、リスク分散の効果を大きくできます。
4.4. 物件を管理する手間がない
現物を購入する不動産投資では、物件の管理・維持も自分で行うため、多くの手間や資金が必要です。
不動産を管理・維持するための業務には、以下のようなものがあります。
- 入居者の募集
- 入居者のトラブルの対処
- 物件の修繕
- 業者の手配 など
小口化商品では、これらの業務を一括して不動産特定共同事業者が行います。そのため、不動産運営に関わる労力や費用などの負担を減らせます。業務実績のある専門の管理会社に一任できるため、円滑な運用が期待できます。
4.5. 相続対策としての活用が可能
不動産小口投資は、形態によって相続税対策として活用できます。現金や有価証券を相続する場合、すべてが相続税の対象です。しかし、購入した不動産を相続する場合は、保有資産に対する評価額の計算式が採用されるため、任意組合型の小口投資では相続税対策になります。
■保有資産に対する評価額の計算式
土地の相続 |
路線価方式または倍率方式で定められた相続税評価額 |
不動産の相続 |
固定資産税評価額に1.0を乗じた相続税評価額 |
任意組合型の小口投資を相続すると、相続税は物件の評価額により算出されるため、節税が見込めます。
5. 不動産小口投資のデメリット
投資初心者におすすめである不動産小口投資には、前述のように多くのメリットがあります。その一方で、小口投資ならではのデメリットも持ち合わせています。どのようなデメリットがあるのか、メリットと併せて覚えておきましょう。
5.1. 不動産価値が下がるリスクがあり、元本の保証がない
小口投資も不動産投資の1つであるため、実物不動産投資と同様に元本の保証がありません。空室になるリスクや値下がりの可能性があり、元本は保証されていません。
これは、出資法により金融機関以外の不特定多数への資金集めが禁止されているためです。投資物件を探す際に元本保証のある物件があった場合、法律に反している可能性があります。そのような物件には投資しないように気をつけてください。
5.2. 商品の種類が少ないため選択肢が乏しい
小口投資は不動産投資の手法のなかでは、比較的取り扱われている数が少なく、選択肢が多いとはいえません。しかし、少額投資が可能であるため、多くの購入希望者が存在します。
そのため、人気物件には応募が殺到し、倍率が高くなります。また、追加商品に関してもすぐに完売する可能性があるため、小口投資商品を購入するのであれば、常に新しい情報を確認しておく必要があります。
5.3. 実物不動産投資より利回りが低い
小口投資は運営会社を通して運用されています。投資家に手間がかからない分、運営会社側は商品の販売や運用に手間がかかります。そのため、運営会社側の運営費用が利益から差し引かれます。
したがって、運営会社を通さずに自分で不動産運用する場合と比べて、小口投資では大きな収益が期待できないデメリットがあります。また、投資金額が少ないため、1口購入しただけでは大きな利益を見込みにくいです。
不動産小口投資を申し込む際には、事前に利回りなど収益に関する情報を確認しておきましょう。
5.4. 現物不動産に比べ自由度が低く、収益の分配頻度が少ない
小口投資の場合、投資に関する意思決定や業務はすべて管理会社が担います。そのため、投資家は手間を省ける反面、投資家自身の意思を運営に反映できないというデメリットがあります。
不動産運営に関する意思を反映できないということは、不動産経営の自由度が低いことを意味します。自由度が低いとは、運用期間中の解約、売却のタイミングを自由にできないということです。
自分1人で不動産を所有している場合は、自分のタイミングで物件を売却できます。しかし、小口投資は即時に換金できません。また、毎月の家賃収入がある不動産所有とは異なり、小口投資では収益を年に1、2回しか分配されないといったデメリットがあります。
5.5. 投資には自己資金が必要で家賃収入の保証もない
小口投資を所有していても、不動産物件を担保にできません。投資対象の物件を担保にした融資が受けられないため、投資を始める際は原則として自己資金を用意する必要があります。
また、小口投資のみならずすべての不動産投資に言えることですが、物件を購入しても、長期にわたって空室状態が継続する恐れがあります。
6. 小口投資に向いている人
本記事で紹介している小口投資を含め、それぞれの不動産投資方法には向き不向きがあります。少額から投資できる小口投資がどのような人に向いているのかを解説します。
6.1. 物件の管理を含め不動産投資に手間をかけたくない人
小口投資では物件選びから物件管理・運用まで運営会社に委託できるため、実物不動産投資と比べて手間がかかりません。
実物不動産投資であれば、物件の管理以外にも、入退去者の募集・管理、家賃の入金管理・回収業務、清掃・メンテナンスなどの業務を行う必要があります。
6.2. 相続対策をしておきたい人
前述のように、不動産小口投資は相続税対策に向いている投資方法です。小口投資は、すでに小口化された投資であるため、相続の際に分割が可能です。
また、物件の扱いは不動産の所有となり、相続税評価額の計算方法も実物不動産と同様です。そのため、節税対策につながり、土地や建物が賃貸物件となっている場合は相続税評価額をさらに下げることができます。
7. 初心者の不動産投資には小口投資がおすすめ
不動産投資には、さまざまな種類や手法があります。そのなかで、不動産投資初心者の方におすすめの手法は、少額から始められて比較的リスクが少ない小口投資です。
小口投資であれば、将来的な相続税対策になります。不動産小口投資にはメリットやデメリットがあります。それぞれの特徴を理解したうえで不動産小口投資を始めましょう。