鉄壁の相続対策を立てたはずの、都市農家の方の例
相続対策は先手必勝です。早い段階から対策を考えて備えておけば、いざというときも慌てることなく、効果的な資産承継が実現します。
しかし一方で、相続対策は「一度立てれば終わり」になるほど、簡単にすませられるものではありません。家族を取り巻く状況は常に変化しており、計画当初の想定通りにはならない可能性もあります。パナソニック ホームズ株式会社 営業推進部の榎本克彦氏は説明します。
「いまの中高年のご夫婦は、奥様が少し年下の組み合わせが多く、また、統計上は女性のほうが長生きです。そのことから、奥様が残る想定で相続対策を立てることが多いのですが、順番が入れ替わってしまうケースもあります」
榎本氏は、あるご家族の例をあげて説明します。
「都市農家で、お子さんが2人いるご夫婦なのですが、相続税の対象となる自宅と農地の評価額が10億円という資産家です。まだ先の話とはいえ、ご主人は相続税額を気にかけていました。30年前のことです」
30年前の平成4年当時の税率で計算すると、相続税額は3億8736万円。妻が半分相続することを想定し、各種控除等を勘案すると、実質の相続税は1億9368万円となりました。
奥様に先立たれ、計画はフイに…ご主人は抜け殻状態
「まだ働き盛りだったご夫婦は、相続対策のために10億円の賃貸マンションを建築することを決意しました。10億円の借り入れを行うことで、相続税は1700万円にまで下がる計算となり、万一の際に奥様が財産の半分を相続することで、相続税の繰り延べによる効果も含め、税額は850万円にまで圧縮できたのです」(ただし、建築後3年を過ぎた場合)
計算通りであれば1億9368万円の相続税が、およそ850万円。ご夫婦は手を取り合って喜んだといいます。
ところが最近、重大な問題が発生します。
「ご主人からご連絡をいただく機会があり、お元気だと思っていた奥様が急死されたというのです。しかも、30年前に組んだ10億円のローンの返済が、ちょうど終わったばかりのタイミングです。こちらのお宅の相続対策は〈ご主人→奥様〉の順を想定していましたから、計画が大きく狂ってしまいました」。
財産を持たない奥様が先に亡くなったことで、相続税の配偶者控除のメリットも得られません。また二次相続では、すでに課税額から控除できる借入金によるマイナスもなくなってしまい、節税効果もありません。当初3億5000万の評価だった賃貸住宅は、30年後のいま、3500万円と10分の1程度に下がったとしても、現状から相続税を計算すると、3億2250万円と高額です。
「3億円超の相続税ですから、このままにしておけば、おそらく土地を半分近く手放すことになってしまいます。本当なら、もっと早くに対策を立て直すべきなのですが…」
借入を活用した相続対策の場合、ご夫婦が健在のうちに返済が終了してしまったら、追加の相続対策をしておかないと遺された方が大変です。ましてや、相続の順位が大きく変化したなら対策の立て直しは必須ですが、問題は、配偶者に先立たれた高齢の相続人への負担の重さです。
※相続税の各種計算は、税理士法人 四谷会計事務所監修。小規模宅地等の評価減は考慮していない。
親が思う「大丈夫だろう」は、全然大丈夫ではなく…
相続トラブルは誰の身にも起こり、また問題の内容も多様です。日々多くのお客様の相談に乗り、アドバイスを行っているパナソニック ホームズのメンバーにとっても同様であり、抱えるトラブル内容はさまざま、「家族・親族ならではの事情」がにじむものです。
たとえば、医学部に在籍する長男の子どもにだけ資金援助したことで、ほかのきょうだいから不満が噴出したケース。孫への教育資金の贈与を巡り、いまも揉めています。
両親の思い込みが問題を誘発したケース。結婚時に相応の援助をした長女には遺産は不要だと考えていたところ、長女が同等の権利を求めたことで、相続人同士が冷戦状態になっています。
きょうだいで平等に遺産を分配しようとしたものの「いつもお姉ちゃんがいい思いをして、自分は代わりに叱られてばかりだった。ずっと我慢してきたのに、お姉ちゃんはずるい!」などと、幼いころからの鬱積が爆発したケース。いまだに話し合いが進みません。
親は「大丈夫だろう」「わかってくれるだろう」と思っていても、実際の相続では、きわめて細かい感情的な部分に至るまで、揉める要因になり得るのだと知っておきましょう。不満は「過去のいろいろな出来事」が蓄積し、噴出するものなのです。
「相続対策は、常に見直しが必要です。例にあげた都市農家の方はもちろん、相続人ひとりひとりを取り巻く状況は、絶えず変化しています。こまめに見直しておかないと、取り返しのつかない事態になりかねません。もっと悪くなると、その場しのぎの対策が原因で、破産することすらあります。準備する間もなく相続が迫り、慌てて節税目的のアパート投資に走るケースなど、その最たるものです」
次回は、安易な収益物件の購入が深刻なトラブルを招いた事例をご紹介します。
パナソニック ホームズ株式会社
営業推進部 榎本 克彦