日本経済は長期的にみれば拡大しており、今後もその傾向は変わらないはずである。経済成長に応じて労働者の報酬の「総額」は増えていくと考えられるが、それは誰にどう分配されるのだろうか。世代・性別にみた、今後の賃金の変化について、リクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏が解説する。 ※本連載は、書籍『統計で考える働き方の未来 ――高齢者が働き続ける国へ』(筑摩書房)より一部を抜粋・再編集したものです。
「将来の日本企業」初任給は引き上げられ、中高年層は“漂流する”事情 (写真はイメージです/PIXTA)

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今後20年で「新卒人口」は20%以上減少…獲得合戦へ

経済成長に応じて、報酬の総額は今後も着実に増える。では、それは今後どう分配されるのか。将来の賃金のゆくえを考えるのであれば、賃金の分配としての側面にも配慮しなければならない。

 

企業の利益を個々の労働者にどのように分配するかを考えたとき、その人の生産性の多寡のほか、その人を取り巻く労働需給がどう変動するかは無視できない。労働需給は報酬の総額を規定する大きな要素にはならないとしても、その配分の方法には一定の影響を与えるはずなのである。

 

そして、労働需給は人口によって規定される部分が少なからず存在する。そう考えれば、賃金の分配の観点からより多くの利益を得ることになるのは将来の若年層となるだろう。

 

2018年時点で高校卒に当たる18歳人口は120.7万人、大学学部卒に当たる22歳人口は123.0万人存在する。

 

国立社会保障・人口問題研究所が推計している将来人口の中位推計によれば、2040年には18歳人口が88.2万人、22歳人口が97.8万人にまで減るという。これは、労働市場でそれだけ新卒のマーケットが縮小することを意味する。

 

これは企業にとってはまさに死活問題である。今後、これまで以上に高齢社員が増えるなか、企業組織の年齢のバランスを確保するために若い社員を積極的に採用しなければならない。しかし、世の中にはその需要に見合うだけの若手がいなくなるのだ。

 

将来的には、多くの企業で新卒社員の獲得合戦が起きるだろう。足元でもすでにその兆候は見え始めている。実際に、特段目立ったところのない学生が一昔前では考えられないような企業で内定を得て、高い給与を得て働いているという声も聞くようになっている。

 

これからも、企業は他社に先駆けて優秀な若手社員を獲得しようと、初任給を引き上げることになるだろう。労働需給の逼迫が若手社員に有利に働くのだ。

 

女性の賃金も今後ますます増加するはずだ。男女の賃金格差は未だに大きい。2018年時点において、50〜54歳の男性の平均賃金は708.2万円であるのに対し、女性の50〜54歳の平均賃金は422.1万円と、男性の6割弱にとどまっている。

 

女性の管理職比率が低い水準にとどまっているなど、「女性活躍」はまだ道半ばだ。現在の40代、30代がこれらの年代に達する頃には、活躍する女性の裾野はさらに広がっているはずであるし、またそうあらねばならない。

 

今後も女性の賃金が上昇する形で、男女賃金格差はますます縮小していくはずだ。