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1960年の定年・年金支給開始年齢は「55歳」
財政問題と定年問題とは密接に関わっている。国は法律を介して、企業において設定されるべき定年年齢に一定の条件を課している。雇用者をいつまで雇うかということは一義的には企業の雇用管理の問題であるはずだが、そこには国家の強い介入があるのだ。
政府が雇用する期間の延長を強く促した要因には、とりわけ国の年金財政の悪化がある。
定年を迎えて企業を退職した後、年金の支給開始年齢までにブランクが生じてしまえば、その時期の生活に支障が生じてしまう。労働者とすれば、少なくとも年金の支給が開始されるまでは企業に給与を支給してもらわねば困る。だから、年金財政が逼迫(ひっぱく)して年金の支給開始が遅れるのであれば、それまでの経済的な面倒は企業が見るしかない。
実際に、過去の定年引き上げや定年後も継続して雇い入れる継続雇用制度の導入の議論は、厚生年金保険の支給開始年齢引き上げの議論と同時並行で進められてきた。
財政の悪化を端緒に年金の支給開始年齢引き上げが検討される。そして、それに追随して定年年齢の引き上げ議論が行われる。本来は企業の専決事項であるはずの定年年齢が、実際には国の財政の論理で決められてきた過去があるのだ。
厚生年金(男性・定額部分)の支給開始年齢の推移をみると、平均寿命の延伸に伴って、これまでそれは緩やかに引き上げられてきたことがわかる([図表])。
1960年までさかのぼれば、当時の年金支給開始年齢は55歳であった。これに伴い、多くの企業では定年年齢が55歳に設定されていた。当時の男性の健康寿命を推定するとおよそ58歳となる。健康寿命はあくまで推計値ではあるが、1960年時点での健康寿命と定年年齢の差は3歳程度しかなかったとみられる。
さらに、定年年齢が設定されているのは雇用者であるが、1960年当時、自営業者の比率は22.7%。現在の自営業者比率である7.9%と比べてかなり高かった。引退年齢が存在しない自営業者が今よりも一般的な働き方として浸透していたのである。
つまり、かつての日本には、働けなくなるまで働くことが当たり前である社会が確かにあったのだ。