政府の建て前は「就業意欲が高い高齢者の生きがい」
形式的には改正法による一部改正であるものの、実質的には高年齢者雇用安定法という新法を立法したに等しい措置だったと労働政策研究・研修機構労働政策研究所所長の濱口桂一郎氏は述べている。このあと、1990年の改正で65歳までの再雇用が努力義務化され、1994年の60歳定年の義務化などを経て、2004年の高齢法の改正によって、65歳までの雇用が一定の例外規定を置きつつも原則として義務化されることになる。
65歳までの雇用義務化に至るまで累次の制度改正を行ってきた日本政府。政府は当時その必要性をどのように説明していたのか。たとえば、当時の労働大臣はその必要性を以下のように述べている。
我が国の高年齢者は少なくとも65歳くらいまでは働くことを希望しているなど就業意欲が極めて高く、また、今後、若年・中年層を中心に労働力人口が減少に転ずること等から、我が国の経済社会の活力を維持し、高年齢者が生きがいを持って暮らすことのできる社会を築くためには、65歳に達するまでの雇用機会を確保することが喫緊の課題となっております。
このため、今後は、企業における65歳に達するまでの継続雇用制度の導入を促進するとともに、高年齢者がその希望に応じ多様な形態により就業し得るための施策を推進していくことが求められているところであります。
(1994年6月1日の衆議院労働委員会、鳩山邦夫労働大臣による高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律の提案理由から)
「就業意欲が高い高齢者」が「生きがいをもって暮らすため」に65歳まで継続雇用することができる機会を設ける。これが、高齢者の就労に対して政府が公式に表明していた立場といえよう。そして、就業意欲が高い高齢者のために生きがいをもって暮らす環境を用意するという政府の立場は、現在でもそのまま引き継がれている。
しかし、ここまでの経緯からわかる通り、これは日本社会で起きている実態に即した考え方とはとても言えない。意欲ある高齢者のために雇用の機会を用意するという政府の立場は、あくまで建て前なのである。