「ひきこもり=犯罪予備軍」というイメージを植えつけられている人は決して少なくありません。しかし、「ひきこもり」「家庭内暴力」「殺人事件」の実態は…。臨床心理士の桝田智彦氏が解説します。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「ひきこもり=犯罪予備軍」という印象を植えつけたメディアの大罪【臨床心理士が解説】 ※画像はイメージです/PIXTA

教授が語った内容と、説得力ある統計

「私が今回のことで強調したいのは、家庭内暴力の延長線上に、通り魔的な暴力があるわけではない、ということです。この2つは方向性がまったく違う。

 

現在のひきこもり人口は、約100万人という内閣府の統計があります。しかし、それだけ当事者がいながら、明らかにひきこもりの人が関わったという犯罪は数件しかない。特に無差別殺人のような重大犯罪は今まで見たことがありません」

 

斎藤先生は最後に、「ひきこもりは決して犯罪率の高い集団ではない」と言い切っているのです。

 

しかし、斎藤先生のお話以上に説得力のあったのが、東京新聞の2019年6月6日の『こちら特報部』の記事です。

 

『こちら特報部』では共同通信の記事データベースに当たり、殺人・殺人未遂の容疑者・被告で、ひきこもりと報じられたケースが何件あるかを調べました。その結果、1999年から2019年までの20年間で43件あり、これを年平均にすると約2件のみだったのです。

 

さらに、記者たちが警察庁のまとめた各年の犯罪情勢を調べたところ、殺人の件数は1999年に1265件、2003年頃に1400件を超えましたが、それ以降は減少傾向にあります。過去5年間では900件前後です。

 

ひきこもっている人間が起こした殺人の年平均2件という数字は、過去5年間の900件前後という全体件数のわずか0.2%でしかないことを東京新聞は証明してみせたのです。

 

ひきこもりの人間が起こした殺人事件は全体のわずか0.2%──。ひきこもりが犯罪予備軍ではないことを示す決定的な数字です。

 

 

桝田 智彦

臨床心理士