新型コロナウイルス感染拡大の影響で、教育現場ではリモート授業の導入が進んでいます。本記事では、慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら「海外教育」の研究を続ける、本柳とみ子氏の著書『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』より一部を抜粋・再編集し、コロナ禍以前からリモート授業を積極的に取り入れていた、教育先進国である「オーストラリア」の教育現場について紹介していきます。
教育先進国「オーストラリア」…日本の学校教育との究極の違いとは?【教育学博士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

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オーストラリア教育「習熟度別クラス」が持つ魅力

日本では、習熟の程度に応じた指導によって教育効果が高まると言われる一方で、学業成績で分けるのは差別だ、成績下位の生徒に劣等感を植えつける、上位の生徒のやる気を失わせるなどといった批判がある。学力の低い生徒ばかり集まると授業が成り立たなくなるという人もいる。

 

オーストラリアでもそうした声がないわけではない。保護者の中にもこうした方法を好まない人もいる。

 

だが、習熟度別クラスは総合的な学力や能力で分けるのではなく、個々の教科の理解度や習得の速さによって分けるものだ。ある教科では習得が早いが、別の教科では遅いということはいくらでもある。早いから優れている、遅いから劣っているということでもない。進路希望も加味される。

 

だから、クラスの名称も、優劣を表す言葉ではなく、一般コース、基礎コース、アカデミーコース、方法論コース、実践コースなど内容を表す言葉が多く使われている。習熟度別指導は子どもを学力によって差別するものではないという認識は、日本よりオーストラリアの方が強いように感じる。

オーストラリアの教師が生徒同士を比較しない理由

効果を重視する声も多い。オーストラリアの教師と話していると、特定の教科について「理解力がある」「よくできる」などと言うことはあっても、学習全般について言うことはあまりないことに気づく。

 

どの教科にも秀でた生徒というのはそうたくさんはいないからだろう。また、「かしこい(smart)」などという肯定的な言葉はよく耳にするが、「頭が悪い」とか「勉強ができない」といった否定的な言葉はあまり聞かない。

 

他の生徒と比べることもない。学習は個人的な行為であり、他と比較するものではないからだ。習熟度別授業が広く行われる理由もそのあたりにもあるのかもしれない。カリキュラムで学校の特色を出すカリキュラムの実施が学校に委ねられているので、カリキュラムで学校の特色を出すことができる。

高校生が大学の授業を受けることもできる

大学と連携して、ハイスクール在学中から大学の授業を受ける先行履修プログラムを実施するハイスクールが増えている。その中で、教員志望の高校生が、在学中に大学の教員養成課程の授業を履修し、卒業後そのまま大学に入学するプログラムを実施する学校がある。

 

クイーンズランド州の低所得地域にある複数のハイスクールで、州内の大学と連携し、教職を希望する11年生と12年生を対象に、教員養成課程に進学するためのプログラムを実施したのだ。

 

対象となるのは学業優秀かつ学校長の推薦を得た生徒で、養成課程の1年次の科目を高校在学中に履修する。授業は週2日、放課後に在籍校で行われ、大学と高校の教員が連携して行う。数回は大学のキャンパスで大学生と同じ授業を受ける。大学の施設やオンラインデータも利用できる。

 

2年間で4科目を履修し、2科目の単位を取得すれば大学の入学資格が得られる。取得した単位は、大学入学後の単位に算入されると同時に、高校の卒業単位としても認められる。学費は大学が負担し、困窮家庭の生徒には奨学金も支給される。

 

同プログラムは2008年に開始されて以降、履修者の数は年々増加していき、現在も、教員養成以外の分野と統合した先行学習プログラムとして継続されている。