東南アジアの経済成長は目覚ましく、現地のスタートアップ企業も大変なポテンシャルを秘めています。興味深いのは、いずれの国も企業が乗り越えるべき課題や問題を抱え、それがユニークな投資環境を生み出しているという点です。3つの企業を取り上げながら投資状況を見ていきます。本記事は、東南アジアの先駆的なベンチャーキャピタル、Golden Gate Venturesによる書下ろしレポートです。

東南アジアは世界的にも「非常に成長率の高い地域」

日本、中国、インド、東南アジアなど、異なるアジア市場に投資する際に考慮すべき違いがいくつかあります。 それは文化的なものだけでなく、構造的なものもあります。

 

東南アジアは世界的に見ても非常に成長率の高い地域であり、コロナ禍を経ても4%の成長を遂げ、アジア開発銀行は当地域で2022年に5.2%の回復を予測しています。

 

どの市場でも、スタートアップ企業の活動量と技術レベルは向上し続けています。いずれの国も成長を続けようとすると同時に、スタートアップ企業が解決すべき新しいユニークな課題や問題が発生しています。このような要素が、ユニークな性質を持つ投資環境を生み出しているのです。

 

東南アジアの優秀な若手企業の多くは、米国や中国のハイテク企業のようには見えません。というのも、彼らは経済大国ではない独自の「フロンティア」市場を自ら形作ってきたのです。そして、ある意味でこれらの若手企業こそが世界の最先端を代表しているかもしれません。 

 

Golden Gate Venturesでは、10年前から東南アジア全域で投資を行っています。そのポートフォリオのなかから突出した3社から学んだことを以下にまとめました。

Carousell:モバイル生まれのCtoCプラットフォーム

Carousell(カルーセル)は、電子機器や衣類、日用品、自転車、自動車など、あらゆるものを売買するためのCtoC(Consumer to Consumer)プラットフォームです。eBayと同じように見えますが、本質は異なります。eBay(中国ではAlibaba)のような企業は、ウェブ上で進化しました。一方Carousellは、その他多くの東南アジア企業と同様に、モバイルから生まれたものです。Carousellは、早くから世界進出しており、ヨーロッパのLetgoなどの原型でもあります。メルカリのモバイルマーケットプレイスアプリが登場したのも、Carousellが登場してから丸1年後のことでした。

 

2012年5月当初、ウェブサイトを持たず、モバイル専用でローンチしました。現在ではパソコンからもCarousellにアクセスできるようになりましたが、モバイルアプリが依然として主流であり、例えば、買い手と売り手のあいだでやりとりをする際の非常に便利なチャット機能など、モバイルファーストの理念に基づく機能が充実しています。また、最近では従来のカテゴリーを超えて、求人やローンという項目も加わり、さらにチャット機能の活躍が期待されます。

 

Carousellは、シンガポールでは4Gを活用したデータ集約型アプリ、人口2億7000万人のインドネシアの大規模市場では低速で不安定なモバイルインターネット環境でも接続・動作可能な軽量版アプリなど、地域ごとに適応可能な技術スタックを開発してきました。さらにCarousellはASEANに加盟する5ヵ国と香港、台湾にまでプラットフォームを拡大しており、ユーザーを意識したデザインと多面的な成長戦略を組み合わせて、現在優秀な業績を納めています。

Alodokter:遠隔地の住民と医療をつなぐサービス

Alodokter(アロドクター)は、声に出してみると面白い会社名ですね。インドネシア人が 「Hello, doctor」というときはこのように発音することでしょう。AlodokterはWebMDやTeladocといった米国のプラットフォームのサービスを組み合わせた、ウェブサイトベースでありながらもモバイルファーストの会社です。

 

Alodokterでは、健康に関する様々なトピックについて、専門家が検証した記事を読むことができます。またチャットで医師に悩みを相談したり、必要に応じて個人での診察を予約することもできます。Alodokterは、遠隔地の農村部の人々と、都市部に集中している医師を結びつけ、すべての患者を近隣でかつ最適な対面診療に導くという、インドネシアだけでなく多くの国が共通して抱えている問題解決に役立ちます。

 

現在はタイにも進出し、より大きなビジネスチャンスにも目を向けつつあります。現在多くの医師は病院に勤務していますが、Alodokterは今後、オンラインでの診療予約や請求などのサービスを医療従事者向けに提供する計画があります。

Carro:中古車売買に伴う各種サービスを提供

Carro(カロ)は、ソフトバンクのVision Fundを中心に3億6,000万ドルの資金を調達し、ユニコーン化したばかりの会社で、中古車市場に取り組んでいます。

 

東南アジアの特徴である多国籍・多文化を体現している企業で、その背景には、アメリカ、ピッツバーグのカーネギーメロン大学でのシンガポール、インドネシア、タイ出身の3人の共同創業者の出会いがあります。そして3人は帰国し、それぞれの母国でCarroを同時に立ち上げたのです。

 

Carroは、ASEAN地域でよく耳にするO2O(online to offline)要素を取り入れています。同社は、オンラインで中古車を売買できるだけでなく、購入者にオフラインで保険、融資、サービス契約といったサービスを提供することで購入者をサポートしており、それが収益源となります。

 

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