台湾の天才IT相オードリー・タン氏はかつて、学校教育になじめなかったことから自宅で学習することを決断しました。その意思を尊重し、サポートしたのが母・李雅卿氏。李氏はその経験から、子どもの創造力をのばす学校「種子学園」を創設しました。従来の学校にはない、「好奇心」や「やり抜く力」「自立心」を育てるための指導方針の1つをご紹介します。※本連載は、李雅卿氏の著書『子どもの才能を引き出す』(日本実業出版社)より一部を抜粋、再編集したものです。
天才オードリー・タンの母が驚愕…子の「お金貸して!」の真意 (※写真はイメージです/PIXTA)

「先生、1元貸して!」電話代にするのかと思いきや…

校内に座っていると、常に変わった出来事に出くわし、おかげで私はこの小さな学びの世界が全世界にも劣らないところだと思うのだ。

 

「雅卿(ヤーチン)先生、1元(訳注:1台湾元は約3.5円)持ってる?」

 

小さな頭が網戸の隙間から覗いている。事務仕事で忙殺されている私は顔も上げなかった。どうせお金を借りて電話でもするんだろう、そう思って1元玉を彼に手渡して、ひと声付け加えた。「明日返すのを忘れないようにね」。ちびっ子はお金を手にすると大喜びで走り去った。

 

2分とたたないうちに、また1人の子どもが網戸の隙間から頭を出してきた。

 

「雅卿先生、1元ある?」

 

3人目の子どもが1元を借りに来たときには、さすがに私も思った。「こりゃあ、きっと何か起こったに違いない。私が知らないだけだ」「私も知っておくべきか?」「もちろん! だけど、今はだめ。まずは今やるべきことを片づけてしまわないと」。私は心の対話を終わらせ、また仕事に没頭した。

 

突然、3つの小さな手が私の目の前に伸びてきた。それぞれの手の平には銀色にメッキされた小さなコインが載っていた。私が驚きのあまり「あらら!」と声を発すると、3人のちびっ子は得意満面、晴れやかな笑みを浮かべている。おちびさんたちは、どうやらまた実験室で新しい遊びを始めたようだ。

種子学園の「とてもおもしろい」理科・化学課程

種子学園の正式の理科・化学科目は、第1学期では高学年の子どものみが履修でき、第2学期では中学年以上で、とりわけ興味を持っている子どもも履修できる。その主な理由は一般の小学校の実験室課程は、本学園の理科1、理科2の動植物の観察のなかで、基本測量、酸と塩基の測定、顕微鏡と各種関連道具およびレンズの操作学習として実施されているからだ。

 

また、本学園実験室は開放区になっていて、興味のある子どもたちはいつでも出入りして瓶や缶などをいじくることもできた。そのなかで、授業中に先生の指導のもとで実施する観念的討論のうち本当に必要なものは多くない。「だから、1年間で十分」。理科・化学科目の教育計画担当の佳仁(ジァレン)先生はそう話す。

 

1学年でひと回りする理科・化学課程はとてもおもしろい。佳仁先生は初めて履修する子どもに対して実験室の安全説明をする以外は、テーマ別活動をしながら関連の物理原理や化学変化への理解と運用を学んでいくという方法を主に採っていた。彼女はこう言う。「私のやるべきことは、子どもの実験器具に接する機会の提供と、物理、化学現象を観察する好奇心の育成、さらに彼らの基本的な研究方法の手助けだけです」。

 

奇奇(チーチー)は車に乗っていたとき、あまりにも話に夢中になっていたので、運転手が突然急カーブを切った際、座席から通路に転がり落ちてしまった。だが、その格好は通路でも座ったままの姿勢だった。

 

彼は何度考えてもその理由がわからなかったが、国語の先生が作文の作業の際にこのことを知り、理科・化学の先生に「転送」した。理科・化学の先生はそれを生活のなかで起こる例として用いて、慣性作用と遠心力、求心力などの観念をわかりやすく整理して教えてくれた。しかしその後遺症として、しばらくの間、子どもたちは車のなかでカーブにさしかかると互いを押し合う遊びに興じ、ついに運転手からクレームが出る騒ぎとなった。

理科・化学に夢中になる「おもしろく、おいしい活動」

滑車、てこ、歯車、仕事とエネルギーなど物理の基本的概念を討論したとき、先生は大きな組み立て玩具をいくつか持ってくると、子どもに組み立て式動力車をつくらせて、誰が一番速いか競争させ、次に車のなかの構造や工夫などを検討した。

 

子どもたちは歯車の歯の数、つまり輪の円周の長さがもたらす作用をよく理解しなければならなくなった。この種の組み立て車が走るためには、効果的な減速器をつくるために、どれだけ小さな歯車を利用してどれだけ大きな歯車を動かすかがキーポイントだといわれている。大きな歯車で小さな歯車を動かせば、飛ぶように前進すると思ったら大間違いだ。なぜならモーターの回転が速すぎ、力が小さすぎて車はどうやっても動かないからだ。

 

学園で一時期、大人気となった「ニワトリの卵落としイベント」はかなり笑える遊びだった。先生は子どもに効果があると思えるさまざまな包装の方法を考案させ、卵を包んで屋上から落とすのだが、決して卵を潰してはいけない! 子どもたちは毎回、卵の割れた位置と原因を探求し、何度も改良を加えた。初めて卵が無傷で落下したときには、子どもたちは包装材料と包装方法による、衝撃力の吸収についても学び取っていた。

 

そのほか、プラスチック、石けん、人工水晶、冷凍フルーツや野菜、水素、二酸化炭素の製造など、おもしろく、おいしい活動があって、どれもが子どもたちを熱狂させてきた。

オードリー・タンの母が驚愕…「賢すぎる子どもたち」

最近、台湾のあるメディアは「人工冬眠」の技術について報道した。理科・化学科目で物質の冷凍は外側から内側に向かうということを十分認識している白雲(バイユン)は、断定するように言った。

 

「それは不可能だね! 現在の技術では冷凍専門会社はどうしたって人体と頭部を瞬間冷凍することなんてできっこない。だから内側の細胞のなかの細胞液が冷凍過程で突起状に変化して細胞核を貫いてしまう。そうすると20〜30年後にその人体が解凍されたときには、その人はただの死人でしかない。どうしたって生き返ることなんて不可能だ」

 

こんなに素晴らしい頭脳があるなんて! 私は思った。誰かがこの子たちのお金をだまし取ろうとしてもほとんど不可能だろうと。

 

 

李 雅卿(リー・ヤーチン)