昨今、よく耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)」。社会におけるさまざまなシーンで、環境や人にやさしい取り組みが広がっている。その中で再評価されているのが木造建築だ。これまで鉄筋コンクリートの建造物が溢れていた街中には、再生可能な循環資源である木材を多用した建物が増加し、かつての勢いを取り戻しつつある。この流れは、土地活用や賃貸経営に携わるオーナーも無視できないものだろう。SDGs貢献度の高い賃貸経営とは何かを深掘りする本連載。今回は三井ホーム株式会社施設事業本部事業推進室営業推進グループの依田明史グループ長に「木造建築が秘める3つの持続性について」話を伺った。

SDGsに貢献!木造建築が秘める3つの持続性

三井ホームは現在、木造マンションでありながら「劣化対策等級3*」、「省エネルギー対策等級4*」、「一次エネルギー消費量等級5*」を取得できる性能を兼ね備え、さらにZEH-M Oriented(ゼッチ・マンション・オリエンテッド)認定取得予定という『稲城プロジェクト』を進行中だ。その竣工は2021年の11月と、数ヵ月後に迫っている。依田氏は「木造建築は、SDGs貢献度が極めて高い」と力説する。

 

*住宅性能評価における等級。いずれも最高ランク

 

三井ホーム株式会社営業推進部賃貸・用地グループ 依田明史グループ長
三井ホーム株式会社施設事業本部事業推進室営業推進グループ 依田明史グループ長

 

「私どもは、賃貸物件に木造建築を採用していくことで、カーボンニュートラルを目指し、持続可能な社会の実現に貢献してきたいと考えております。そもそもSDGsの観点から見て、木材には3つの持続性が備わっています。まず1つ目が『地球環境の持続』、2つ目が『生産の持続』、そして3つ目が『健康の持続』です」

 

1つ目の『地球環境の持続』について、三井ホームは木造建築が秘める「CO2削減の可能性」を重視する。こうした姿勢は、SDGsが掲げた「気候変動に具体的な対策を」という目標に合致するものだ。

 

「木材は、成長のプロセスにおいてCO2を吸収する特性を持っています。さらに炭素を貯蓄貯蔵する性質も併せ持っているので、CO2抑制効果が極めて高い素材と言えるでしょう

 

ひと昔前「過剰な森林伐採は、自然を破壊する」という考え方が一般的だった。しかし近年は世界的に植林活動が進み、「循環型資源」として木材を活用する手法も定着し始めている。依田氏が2つ目に挙げた『生産の持続』は、木材のサステナビリティについて言及した内容であり、「陸の豊かさを守ろう」というSDGsの目標に合致する。

 

また2015年に発効したパリ協定で「脱炭素社会」に向けた目標が掲げられ、日本においても2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指している。官民一体となって再生エネルギーの開発と活用を模索していることは多くが知るところ。この流れにおいても、木材は再注目されている。

 

「木材は、まず原料となる木を伐採し、その後に加工して作られます。そして建築物に利用されたとしても、いつかは解体され、自然に還るのです。私どもは森林資源を住宅づくりに使用すると同時に、調達先であるカナダの森林を保護すべく、植林活動を実施しています。また解体された木材を『燃料や肥料に活用しながら、地球に還す』という試みも、実施しています。

 

対して鉄素材の生産加工には、原料の鉱石だけでなく、石油や石炭といった炭素資源が必要。炭素資源はCO2排出量が高いだけでなく、いつかは枯渇してしまいます。脱炭素を図り、木造建築の可能性を追求していくことが『生産の持続』に繋がります」

 

 

そして最も気になるのは、依田氏が3つ目に挙げた『健康の持続』だ。こちらは「すべての人に健康と福祉を」というSDGsの目標に合致する。依田氏は「木造住宅は、住む人の生活を健康に保つ力に満ちている」と自信を持つ。

 

「木材は金属素材とは異なり、断熱性や調湿性が非常に高くなっているため、快適な室内環境を保つのに役立ちます。私どもにはすでに、寒冷地における木造オフィス建設の実績があり、『エアコン効率が良く、光熱費を大幅に削減できた』と好評です。

 

また木材には鉄や金属にはないやわらかさ、クッション性もあります。やはり私どもが建設した木造の介護施設からは『足腰に負担がかかりにくい。また入居者が転倒した際も、骨折などの大怪我が発生しにくい』と、高い評価が寄せられています」

国が推進!「低層の建築物はすべて木造化へ」

ここまで紹介してきたように、木造建築には環境だけでなく、人に優しい特性がある。三井ホームが確かな理念のもとに展開する木造賃貸物件であれば、土地活用を考える法人・個人オーナーもぜひ注目したいところだ。

 

しかし日本では、マンションと言えば「鉄筋コンクリート造、または鉄骨造」が定着しており、木造はほとんど見かけないというのが現状である。「本当に大丈夫なの?」と、漠然とした不安を感じる人も多いのではないだろうか。

 

「実は今から10年以上前の2010年に、林野庁が『公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律』を施行しました。『5階建て以下の低層の公共建築物については、原則としてすべて木造化を図っていく』といった内容です。

 

その背景には戦後、造林された人工林が資源として利用可能な時期を迎える一方、手入れが充分に行われず『多面的機能が低下している』という事態があります。木材を使うことにより森を育て、林業の再生を図ることが急務となっているのです。こうした流れに伴い、木造建築物に関する法規制も徐々に変化してきました」

 

国内で鉄筋や鉄骨の建築が一般的になった理由は、主に耐火性が評価されてのことだった。しかし技術が進歩した近年においては、耐火性をはじめとする高性能を木造建築も充分に備えている。こうした事実が公に認知された証として、法規制も緩和されているのだ。

 

たとえば、昨年9月に三井不動産と竹中工務店が「日本橋に国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビルを計画」というニュースが流れたほか、欧米では木材を主要構造材に用いた高層ビルが続々と建設されている。今後は国内でも集合住宅はもちろん、公共施設や病院などといった公共施設に、木造建築が多く採用されていくことになるだろう。

 

「今回の『稲城プロジェクト』を手掛けるにあたり、弊社は『高強度耐力壁』の開発に成功しました。これまでに蓄積したノウハウを結集し、より品質の高い木造建築を実現していこうという、弊社の決意の表れと言えます。私どもは先述の『3つの持続性』を基軸とし、今後も木造建築の推進により、持続可能な社会の実現を目指していきます」

 

「高品質な木造一戸建てを提供する住宅メーカー」として知名度の高い三井ホームは、その新しいステージとして、大規模な木造賃貸物件の開発に取り組んでいる。その内容について理解が深まるほど、木造賃貸物件に関する懸念も薄らいでいくはずだ。

 

SDGs貢献度の高い賃貸経営とは何かを深堀する本連載。最終回となる次回は、同社の木造建築の実例を確認しつつ、進行中である『稲城プロジェクト』の詳細を紹介していく。

 

[NEWS RELEASE]
枠組壁工法による日本最大級の木造マンション 「(仮称)稲城プロジェクト」上棟 ZEH-M(Oriented)認定取得〈予定〉

取材・文/西本不律 撮影(人物)/杉能信介
※撮影:2020年3月3日