写真:三井ホーム土地活用事例より

昨今、よく耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)」。社会におけるさまざまなシーンで、環境や人にやさしい取り組みが広がっている。その中で再評価されているのが木造建築だ。これまで鉄筋コンクリートの建造物が溢れていた街中には、再生可能な循環資源である木材を多用した建物が増加し、かつての勢いを取り戻しつつある。この流れは、土地活用や賃貸経営に携わるオーナーも無視できないものだろう。持続可能な社会を実現する賃貸経営とは何か、三井ホーム株式会社施設事業本部事業推進室営業推進グループの依田明史グループ長に話を伺った。

持続可能な社会を目指し、木造マンションに着手

2015年9月の国連サミットで採択され、加盟国が2016年から15年の歳月の中で達成する目標として掲げられたのが「SDGs(持続可能な開発目標)」。「貧困をなくす」、「ジェンダー平等を実現する」などのほか、「住み続けられる街づくりを」、「陸の豊かさを守ろう」など、建設業界の業務に直接関係する内容を含む、17の目標が挙げられている。

 

そんななか三井ホーム含む三井不動産グループでは、「共生・共存」、「多様な価値観の連繋」の理念のもと、環境コミュニケーションワード として「&EARTH」(アンド・アース)を掲げ、人と地球がともに豊かになる社会を目指している。

 

1974年に三井不動産の住宅事業を継承するかたちで設立された三井ホームは、一貫して木造建築の高性能な住宅づくりを目指してきた。同時に賃貸住宅や医院、保育所・介護施設などの建設事業も展開。そんな同社が、SDGs貢献度が極めて高い「木造マンション」事業に着手。大きな注目を集めている。

 

「2020年11月より、東京都の稲城市において、木造マンション『稲城プロジェクト』に着手いたしました。1階RC造、2~5階を木造枠組壁工法で建築しており、竣工は2021年11月の予定です。弊社は本プロジェクトを通じ、木造の中層建築物における課題克服に挑戦しています。中層集合住宅事業への本格的な領域拡大を目指すと同時に、地球環境に優しい木造建築物の、さらなる普及に努めたいと考えているのです」

 

外観パース(北西側)
外観パース(北西側)

「経年優化」を実現する、高性能を極めた賃貸住宅

三井ホームの『稲城プロジェクト』は、国土交通省の「令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されている。三井ホームが手掛ける「SDGs貢献度の高い賃貸物件」であれば、土地活用を考える法人・個人オーナーもぜひ注目したいところだ。

 

これまで木造はRC造などに比べ、耐震性や遮音性に劣ると思われてきた。「木造マンションが賃貸経営に適すと言えるのだろうか?」という不安を持つ人もいるだろう。しかし三井ホームの木造建築には、偏見や固定概念を覆す性能が備わっている。

 

三井ホーム株式会社営業推進部賃貸・用地グループ 依田明史グループ長
三井ホーム株式会社施設事業本部事業推進室営業推進グループ 依田明史グループ長

「これまで国内において中層の建築物を木造化する場合、規定の構造性能と耐火基準を満たすため、構造壁を厚くせざるを得ませんでした。これが設計上の課題とされてきたのです。弊社はその解決を目指し、『高強度耐力壁』の開発に成功しました。これにより木造中層建築物でありながら、耐震等級3※1を実現できることも可能になったのです。

 

同時に、壁の厚さを従来の約半分にでき、その結果、建物の有効床面積も増加でき、設計の自由度を高めることができました。また、木造マンションの普及を目指すため、特殊技術ではなく、既存の材料と日常の現場で使われている大工道具で施工できるようにしています。結果的に、建築コストを抑えることができました」

 

さらに『稲城プロジェクト』では、気になる遮音性についても充分な対策が練られているという。

 

「中層の建築物を木造化する場合、高い遮音性の確保も普及のための課題となります。本プロジェクトでは、高い衝撃吸収性能と心地良い歩行感を実現する、弊社独自の『制振パッド』を採用。さらに下階の天井を支える吊天井根太の接合部材に、独自の『防振天井根太受金物』を採用しています。このダブル対策により、上階の衝撃音が下階へ伝播する可能性を低減しています」

 

このようにRC造と比べても充分に高い商品価値を持つ、三井ホームの『稲城プロジェクト』。そもそも、三井ホームの賃貸住宅は、消防署など、災害時の支援拠点となる建物の耐震性能に匹敵する耐震等級3※1に対応していた。RC造や鉄骨造のマンションの大半は耐震等級1であり、耐震等級3に対応する共同住宅は日本全体で1.7%※2に過ぎない。また音に関しても、標準仕様で新築分譲マンション並みの遮音性を実現するなど、旧来、三井ホームの賃貸住宅の性能は業界でも随一だった。木造マンション実現においても、その評価は変わらない、というわけだ。

 

※1 住宅性能表示制度における等級。最高ランク

※2 国土交通省「建設住宅性能評価書(新築)データ」(平成25年度)による。共同住宅等で「構造躯体の倒壊等防止(地震に対する構造躯体の倒壊、崩壊等のしにくさ)」の等級3は1.7%、85.5%は等級1。

 

さらに日本の建物は、木造であろうがRC造であろうが「経年劣化」、つまり年を経るごとに価値が目減りしていくという認識が根強くある。一方で三井ホームでは、時とともに新たな価値を創造する「経年優化」というコンセプトを提唱している。

 

経年優化を実現する賃貸住宅(出所:三井ホーム土地活用事例より
※各々の写真を指定すると、事例のページに遷移します。

 

常識とは逆行するコンセプトを叶えるのは、高い住宅性能、そして建物を建てるのではなく「街並みをつくる」という経年優化の根底にある哲学である。建物のある地域の価値までも高める綿密なプランニング、そして管理体制により、物件の価値は経年と共に高まっていく。実際に三井ホームの賃貸物件は驚異の入居率を誇り、築年数はそれなりに経っているにも関わらず、新築時よりも家賃が高いという物件もある。

 

「『稲城プロジェクト』は適切な維持管理をしていけば、75~90年程度の耐久性を確保できる建物として、完成します。弊社を含む三井不動産グループが提唱する『経年優化』を体現する物件として、木造建築の市場価値向上を実現していきます」

 

数十年の歴史の中で蓄積したノウハウと実績を注ぎ込み、SDGs貢献度が極めて高い賃貸物件の開発に取り組んでいる、三井ホーム。次回も引き続き、同社の見据える「木造建築の持続性と可能性」について話を伺っていく。

 

 

【実例を動画で見る:「地域に愛される街づくりプロジェクト】

 

[NEWS RELEASE]
枠組壁工法による日本最大級の木造マンション 「(仮称)稲城プロジェクト」上棟 ZEH-M(Oriented)認定取得〈予定〉

取材・文/西本不律 撮影(人物)/杉能信介
※撮影:2020年3月3日