近年の日本では人口減少が進み、賃貸オーナーからは「先行きが不安」の声が挙がり始めてきた。そこで注目したいのが、シニア層を対象とした賃貸住宅経営である。本連載では、シニア向けの賃貸住宅経営の可能性について、すでに15年以上前から元気なシニア向けに特化した賃貸住宅のパイオニア、旭化成ホームズ株式会社シニア事業推進部営業推進室長の依田悦夫氏と営業開発室長の岩並健太郎氏に話を伺う。第5回は、同社が手がけるシニア向け賃貸住宅の収益について具体的に見ていく。

10年間家賃固定!30年間の自社一括借り上げシステム

シニア向け賃貸住宅『ヘーベルVillage』の施工販売を2004年に開始した旭化成ホームズ。15年以上の歴史のなかでノウハウを蓄積し、オーナーを全面サポートする体制を整えてきた。その中身がしっかりとパッケージされているのが、30年間の一括借り上げシステム。『ヘーベルVillage』の経営においてはその利用が必須となっており、旭化成ホームズがオーナーに代わって、一切の管理運営を代行している。2020年3月現在、その管理棟数は69棟(892戸)にも及ぶ。

 

 

旭化成ホームズ株式会社シニア事業推進部営業推進課長 岩並健太郎氏
旭化成ホームズ株式会社シニア事業推進部営業開発室長 岩並健太郎氏

岩並氏「『ヘーベルVillage』に関してはグループ会社や他社へ任せることなく、旭化成ホームズが自社管理を行っています。入居者募集から審査、契約はもちろん、集金や解約、更新、クレーム処理業務、そしてご入居者のサポートまでを一貫してお任せいただけます」

 

さらに注目は、「10年間の賃料固定」と続ける。

 

岩並氏「他社のサブリースでは2年ごとの賃料見直しが一般的ですが、私たちは『10年間、家賃を下げない』という契約を結んでいます。また空室の有無に関わらず、私たちから毎月一定額をオーナーに支払うシステムなので、固定金利であれば、より安定した経営が見込めるのではないでしょうか。価格が変動する株式などと比べても、はるかに安定感のある投資ではないでしょうか。

 

また安定投資という価値から、弊社では土地を旭化成ホームズが購入し、自社で『へーベルVillage』を建築。入居者募集しながら、投資物件として売却するという事業も始めています」

シニア向け賃貸住宅…収支シュミレーション

では具体的に、『ヘーベルVillage』経営の30年収支計画を見ていこう。

 

【モデルケース物件概要】
東京都渋谷区の一等地で、最寄駅から徒歩5分圏内という好立地に建設された『ヘーベルVillage』。戸数全10戸(1LDK9戸、2LDK1戸)で、一室の平均賃料は約20万円(共益費別途)である。この賃料は10年間据え置きで、以降は2年ごとに見直す。



[図表1]収支シミュレーション物件概要


【モデルケースの初期費用DATA】
・初期費用(建築工事請負代金と諸費用の合計)は、約2億1,700万円
・オーナーの自己資金は700万円強。残りはすべてローンで返済していく
・ローン金利は30年間を通し、1.0%に固定されている

【モデルケースのランニングコストDATA】
・旭化成ホームズへの運営管理手数料(家賃の10%)
・長期修繕積立金
・メンテナンスサポート費用
※固定額の支払い(トータルで安価にできるよう設定)で、入退出時のリフォームや設備故障の修理など、旭化成ホームズがカバーする仕組み。突発的な支出や負担がなくなり、煩わしい業者見積りや管理業者との打合せなども不要となる
・その他各種税金など

※収支計算は、実際の収支とは異なる場合があり、将来の数値をお約束するものではありません
[図表2-1]収支表1年目~15年目 ※収支計算は、実際の収支とは異なる場合があり、将来の数値をお約束するものではありません
※収支計算は、実際の収支とは異なる場合があり、将来の数値をお約束するものではありません
[図表2-2]収支表16年目~30年目 ※収支計算は、実際の収支とは異なる場合があり、将来の数値をお約束するものではありません

 

こちらの物件から得られる家賃収入は、年間で2,400万円程度と計算されている。そのなかからローンを返済し、各種税金や運営管理手数料などのランニングコストを支払っていくと、初年度の手取り収入は470万円程度。しかし家賃免責がなくなる翌年からは倍額に跳ね上がり、その後は安定的に推移していく見通しだ。

 

なお旭化成ホームズの強固な家造りは、メンテナンスプログラムにも大きな影響を与えている。構造躯体や給水、配水管が60年の長きに渡りメンテナンスフリーなのをはじめ、屋上や外壁塗装などは30年間メンテナンスフリー。さらに室内や共用部設備は、15~20年周期の補修や交換で済む。

 

※収支計算は、実際の収支とは異なる場合があり、将来の数値をお約束するものではありません
[図表3]年額手取り収入の推移 ※収支計算は、実際の収支とは異なる場合があり、将来の数値をお約束するものではありません
※収支計算は、実際の収支と異なる場合があり、将来の数値をお約束するものではありません
[図表4]累計手取り収入とローン残高の推移 ※収支計算は、実際の収支と異なる場合があり、将来の数値をお約束するものではありません

 

次に気になるのは、損益の分岐点である。本契約では30年間を通し一定のローン返済を行っていくため、15年目には初期費用の半額にあたる、1億円を返済し終える想定だ。

 

旭化成ホームズ株式会社シニア事業推進部営業推進室長 依田悦夫氏
旭化成ホームズ株式会社シニア事業推進部営業推進室長 依田悦夫氏

依田氏「私たちは社内規定により、収支計画を提示する際、10年目以降、2年ごとの家賃変動率を悪いケースを想定して見込んで計算しています。『変動率は、その時になってみないとわからない』という理由から、詳細を算出しない業界他社も多いため、お客様が相見積りを取った際、見劣りしてしまう場合もあるようです。しかし少なくとも既存物件においては、見直しを実施したうえで『家賃を下げなくても大丈夫だ』と判断するケースばかりです。

 

『ヘーベルVillage』が一般的な賃貸住宅と比べ、初期費用が坪単価20万~30万円程度高くなるのは事実です。しかし付帯設備が充実していれば、エリア相場よりも10~15%高く、家賃を設定できるのです。利回りの面で見劣りを感じるかもしれませんが、やはり超高齢時代の賃貸住宅経営は、長期安定型を目指すほうが確実です」

 

 

元気なシニア向け賃貸住宅を軸に、サ高住もスタート

超高齢社会を生き抜く賃貸住宅として、『ヘーベルVillage』を展開する旭化成ホームズ。「アクティブシニアが快適な生活を送るための空間」というコンセプトは社会貢献度も高いが、その先には介護サービスを提供するサ高住『Village(ヴィラ―ジュ)リーシュ』も用意されている。

 

岩並氏「『Villageリーシュ』は、車いす対応のミニキッチンや化粧洗面台を備えた個室を提供する、介護を必要とする方に向けたサービス付き高齢者向け住宅です。訪問看護のほか、4つの介護事業所によるサポートサービスを利用可能なほか、24時間緊急対応可能な医療機関とも連携済み。施設内では毎日2回実施している多彩なアクティビティや、栄養バランスのとれた食事を、1日3食提供しています。

 

ヘーベルハウスで暮らしてきた方が、人生の節目を迎え『へーベルVillage』へと住み替えをし、その後にサ高住『Villageリーシュ』に入居するという、シニアが住み慣れた地域で安心して住み替える流れを用意することが、私たちが目指す世界です」

 

 

取材・文/西本不律 撮影/杉能信介(人物)