経営の安定に不可欠な会計上のしくみ
減価償却とは、「設備投資で支出した金額を、その資産が使用できる期間で按分し費用計上する会計上の処理」のことです。とはいえ、これだけではなんのことかわからないですね。
もう少しかみ砕いて説明すると、「お金を出して手に入れた資産を〈その資産は、このくらいの期間なら利用できるだろう〉と法律で定められている年数で、分割して費用として計上すること」です。
事業の利益は、
利益=売上-費用
で計算されます。
売上が100万円で費用が20万円なら、利益は80万円です。
長期間使用できて、しかもその使用期間中、ずっと売上を生み出すために役に立つ高額な設備を、買った時点でその代金全額を費用とするのはおかしい、と会計では考えます。長く使えて売上も生むのだから、経費にする分も、その期間に合わせて分割しよう、というのが、減価償却の考え方なのです。
たとえば、マンション一室を3000万円で購入して不動産投資を始めた場合で考えましょう。設備投資額は、マンション購入にかかった3000万円です。
もし仮に、1年目にこの3000万円の全額を経費として費用計上したら、仮に年120万円(月10万円)の家賃収入があっても、大赤字ということになります(話を簡単にするため、他の費用はないものと仮定します)。ちなみに、赤字なのでこの事業にかかわる税金はゼロです。
次に、2年目以降は、年120万円の家賃(=売上)で、費用はゼロですから、利益は120万円になります。税金はこの120万円に対して課税されます。
このように、同じ家賃収入(売上)を得ているのに、利益も、利益をもとにして計算される税金も大きく異なってきます。これでは安定した経営はできないし、課税上も不公平が生じる、ということで考え出されたのが減価償却という仕組みです。
この場合、新築鉄筋コンクリート造マンションの法律上の使用期間(法定耐用年数)は47年なので、
3000万円÷47年=約64万円
を、毎年分割払いで費用として計上していくことになります。
すると、
1年目 → 家賃120万円-費用64万円=56万円の利益(56万円に対する課税)
2年目 → 家賃120万円-費用64万円=56万円の利益(56万円に対する課税)
……
と、毎年均等な利益と課税額が計上されます。これなら、経営が安定します。この仕組みのことを「減価償却」、減価償却によって計上される費用のことを「減価償却費」といいます。
実際のキャッシュの動きと異なる点に注意
ここで注意していただきたいのは、上記の「会計上の計算」と、実際の「キャッシュ(現金)の動き」が異なる点です。現金の動きは、
1年目 → 家賃120万円-マンション購入代金3000万円=-2880万円の現金減少
2年目 → 家賃120万円の現金増加(その他費用がゼロの仮定のため)
……
となります。
つまり、減価償却費とは、現金の動きを伴わないバーチャルな費用なのです。よく「減価償却で節税効果」といわれるのは、実際には現金の流出がなくとも費用として計上でき、利益を減らし、結果的に課税額を減らせるというしくみを指しています。
法定耐用年数・償却方法・償却できる対象
減価償却の方法には「定額法」と「定率法」の2種類があります。不動産の場合は、定額法に統一されています。定額法とは、簡単にいうと毎年一定額を減価償却費として計上する方法です。
また、減価償却の計算で使う「法定耐用年数」も建物と建物設備でそれぞれ異なります。法定耐用年数とは上記した「その資産がこのくらいの期間は利用できるだろう、と法律で定められている年数」のことです。
鉄骨鉄筋コンクリート造の建物は47年、木造の建物は22年となっています。
なお、土地は減価償却できません。会計の理論では、土地は価値が減らない(永久に使える)と考えられているためです。
マンションの減価償却費の計算方法
マンションの減価償却費の計算は、次のようなプロセスで行います。
物件を、土地と建物とに仕分けする
↓
建物を、建物本体と建物設備に仕分けする
↓
建物本体、建物設備でそれぞれを計算して、最後に減価償却費を合計する
①物件を、土地と建物とに仕分けする
マンションの保有は、敷地権という土地部分と建物および建物設備の保有にわけられます。3000万円のマンションを購入したら、3000万円のうち、いくらかが土地(敷地権)、いくらかが建物、いくらかが建物設備の分、ということです。それぞれ、減価償却の対象となるのか、また、耐用年数や償却率がいくらかといった違いがあるため、まずこの仕分けをおこないます。
ちなみに、土地(敷地権)と建物がそれぞれいくらになるのかは、通常、売買契約書に記載されています。載っていない場合やよくわからない時は、不動産業者に確認してください。
また、前述した通り、土地は減価償却の対象になりません。この点からも、マンション投資では購入価格(投資価格)のうち土地、建物がそれぞれいくらなのか? という仕分けが重要なのです。
土地価格、建物価格の内訳は基本的に固定資産税評価額の割合から求め、最終的には売主買主双方の合意で決まります。たとえば3000万円のマンション一室なら、建物価格が大きいほど減価償却できる額も大きくなります(土地は減価償却できないため)。建物価格が大きな割合になっていると、買主に有利です。
ただし、建物価格が大きくなると売主にとっては損になります。なぜかというと、売却した代金のうち、建物には消費税が課税されるからです。土地は非課税なので土地の割合が大きいほうが(売却代金が非課税になるので)売主には有利、というわけです。
もちろん土地・建物の価格は、近隣相場も参考にしなければなりません。近隣相場からかけ離れた割合の契約だと、税務当局から指摘される場合があります。
いずれにしても、その割合によって、買主・売主双方に有利・不利があるということは覚えておいて損はないでしょう。
②建物を、建物本体と建物設備に仕分けする
建物本体と建物設備ではそれぞれ法定耐用年数が違うので、これも仕分けが必要になります。マンションの場合、建物本体とは部屋のことで、建物設備は電気設備、給排水などの共用部分になります。通常、売買契約書や「譲渡対価証明書」といった書類に内訳が記載されています。
③建物本体、建物設備でそれぞれを計算して、最後に減価償却費を合計する
建物本体、建物設備で償却率が違うので別々に計算し、最後に減価償却費を合計します。
金融機関の融資審査は「投資が回るか?」を最重視
不動産投資をする際に、融資を希望する人も多いでしょう。金融機関の融資審査では「投資が回るか?」が最重視されます。「投資が回る」とは、返済を続けている収益が確保できている状態のことで、要は、(税務上の所得ではなく)キャッシュフローが黒字になっているかどうかです。
投資が回るのかを見るための尺度として金融機関が重視しているのが、「返済能力」または「債務償還力(債務償還年数)」と呼ばれる指標です。
債務償還力(債務償還年数)は、
借入額(債務)÷償還財源=◯(年)
で計算します(金融機関により多少異なります)。
ここで、償還財源(返済財源、返済原資ともいう)は、「税引き後所得+減価償却費」とされます。税引き後利益は、減価償却費を費用として差し引いた後の税引き後所得です。しかし減価償却費は、「キャッシュアウトしない経費」なので、それを足し戻しているわけです。
上の式は、税引き後利益と減価償却費、つまり手もとに残ったキャッシュで、融資を何年かかって返済できるかを表しています。
そして、
借入額(債務)÷償還財源=〇(年)<返済年数
であれば、それだけで決めるわけではありませんが、融資の可能性は広がるでしょう。
<モデルケース>
借入額1億円、返済年数30年、償還財源は500万円
(内訳は、減価償却200万円+税引後利益300万円)
<計算式>
1億円÷500万円=20年<返済期間30年
となるので、このケースでは融資に対して前向きに審査する金融機関もありそうです。
このように債務償還年数がローン返済期間内になっている状態を、金融機関や不動産業界では「投資が回っている」と表現することもあります。
減価償却費は設備投資した金額を毎年少しずつ経費計上していきますが、お金は最初に全部支払済みです。「キャッシュアウトしない経費」なので、基本的に、金融機関からは融資審査でプラスに見てもらえるということになるのです。
正しく減価償却することが大切!
ところで、減価償却費が大きくて、もしも不動産投資の事業が会計上の赤字(所得がマイナス)になったら、金融機関はどう見るでしょうか?
それが一時的なものであり、しっかりとした利益があるのであれば過度な心配しなくても良いでしょう。なぜなら、減価償却はキャッシュアウトしていない経費だと金融機関は知っているからです。
たとえば、不動産投資をした初年度の所得がマイナス100万円でも、この年の減価償却費が500万円なら差し引き400万円の償還財源がある、つまり実質的に「400万円の黒字」だと金融機関は考えます。
たまに、「会計上の赤字になると金融機関に冷たくされるかも」と心配して、減価償却費を正しく計算しない人がいますが、減価償却は正しく計算することが大事です。
減価償却を正しくやっていない(償却不足、償却未実施といいます)ことは、金融機関では帳簿を見ればすぐに見破ります。
間違った計算でウソをついていると思われると、その先の金融機関との取引にマイナスの影響を与えますので、注意してください。
まとめ
減価償却費は会計上の必要性から生まれた考え方であり、一般の方には理解し難い部分もあります。しかし、減価償却の知識は不動産投資に不可欠であり、ぜひとも身に付けていただきたいものです。本記事で書いているのは極めて基本的な部分のみですが、不動産投資に興味を持っている方はしっかり学んでおいてください。