一時期、タワーマンション購入による相続税の大幅な引き下げが話題をさらいましたが、最近は効果を低減させる方向への法改正や、節税を否認する税務当局の動きも見られます。ここでは、タワーマンション購入による相続税対策のしくみと活用にまつわる注意点を解説します。※本連載は、将来お金に困ることがないように、若いうちからできるライフプランニングに役立つ情報を紹介する「ライフプランnavi」の記事を抜粋、一部改変したものです。

相続の際、資産はいくらで評価される?

相続が発生した際、一定金額以上の相続財産があれば、相続税が課税されます。相続財産には、現金、預金、株式、債券、不動産、貴金属など、さまざまな種類があります。相続税は、その種類ごとに定められた「相続税評価額」を基準として課税されます。「相続税評価額」とは、現金以外の資産において、「もし相続が発生した時点で換金したらいくらになるのか」という想定金額です。

 

そして、資産の種類ごとの相続税評価額が記された“ルールブック”が、国(国税庁)が出している「財産評価基本通達」です。相続や贈与の際の財産評価は、原則的に「財産評価基本通達」にしたがっておこなわれます。

 

不動産の場合、評価は土地と建物とに分けておこなわれます。

 

土地の評価方法は、路線価方式と倍率方式の2種類があり、地域によってどちらかが適用されます。マンションが建つような市街地の場合は、一般的に路線価方式となるので、今回は路線価方式を前提にして説明します。

 

路線価とは、道(路線)ごとに、その道に面する土地がいくらなのかを国税庁が定めたものです。路線価が書かれた路線価図は、国税庁Webサイト内の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で閲覧できます。

 

路線価は基本的に、国土交通省が調査・公表している「公示地価」の80%の水準に設定されています(地域によっては多少の上下調整があります)。

 

公示地価は、土地価格の公的な基準となるものです。実際の取引価格(実勢価格)は、そのときの不動産市況や、売り手と買い手の事情などにより大きく変化します。しかし、公示地価は2名の不動産鑑定士の鑑定を経て、年に1回更新されるもので、ある程度の客観性がある価格として、取引の際の参考にされます。

不動産が相続税対策になるしくみ

ここで、相続財産評価に用いられる路線価が、公示地価の80%だという点に注目してください。

 

仮に、ある土地を公示地価で購入したとしましょう。すると1億円の現金を相続する(相続税評価額1億円)よりも、その1億円で土地を買って土地を相続する(相続税評価額8000万円)ほうが、相続税評価額が低くなるため、相続税額も低くなります。

 

また、建物については固定資産税評価額で評価されます。建物の固定資産税評価額は地域や建物によっても異なりますが、新築価格の50~70%程度とされます。仮に、新築の購入価格の60%だとすると、5000万円で購入した建物なら3000万円で評価されることになります。

 

つまり、1億円の土地に5000万円の建物を建てた物件の場合、相続税評価額は1億1000万円になるということです。

 

ただし、これは不動産を自分の住居としている場合の計算です。賃貸用としている場合は、さらに相続税評価額は下がります。人に貸している物件は簡単に処分できない(換金性が低い)ことから、その分財産評価が下げられているのです。

 

さらに、居住用、賃貸用にかぎらず、一定の条件のもとで適用できる「小規模宅地特例」などの減税措置があり、それを利用できれば、大幅に相続税評価額を下げることも可能です。

 

つまり、現金や預金などの形で相続をするよりも、不動産(土地・建物)の形に変えて相続をしたほうが、より低い資産価格で評価されるので、相続税対策になる、ということです。

タワマンの相続税節税効果が「特に大きい」理由

不動産の中でも、タワーマンションは特に節税効果が大きいとされます。それには、大きくわけて2つの理由があります。

 

●敷地割合が低くなるため

 

まず、1住戸に占める土地の割合が低いためです。不動産の相続税評価では、土地と建物を別々に評価します。マンション(共同住宅)の場合、1区画の土地に建つマンションの住戸数が多ければ多いほど、1住戸あたりの敷地部分(敷地権)は少なくなります。

 

たとえば、住戸部分が600㎡の土地に建つ30戸のマンションの場合、すべての住戸が同じ広さだと仮定すると、1住戸あたりの敷地部分は、600÷30=20㎡となります。1㎡の路線価を100万円とした場合、1住戸の敷地部分の相続税評価額は2000万円です。

 

一方、同じ土地に300戸のタワーマンションが建てられたとします。この場合、1住戸あたりの敷地部分は、600÷300=2㎡となり、敷地部分の相続税評価額は200万円です。同じ土地面積に建つ建物の住戸数が10倍になれば、敷地割合は10分の1になり、土地についての相続税評価額も10分の1になるのです。

 

そのため、同じ広さの土地でより多くの住戸があるタワーマンションは、相対的に相続税評価額が低くなるというわけです。

 

●価格のプレミアム分が相続税評価額に反映されないため

 

次に、タワーマンションの高層階の価格には相続税評価額に反映されない「プレミアム」が乗せられていることがあげられます。

 

タワーマンションの低層階と高層階とでは、仮に住戸の広さや間取りが同じでも販売価格に大きな差があり、2倍の差がつくことも珍しくありません。これは、高層階の住戸には眺望や希少価値から生じるステータスがあるため、その分がプレミアムとなって価格に上乗せされているのです。

 

たとえば、売買される価格(実勢価格)が、低層階では5000万円、最上階では1億円だとします。この場合、両者の相続税評価額はほぼ同じなのです。

 

それぞれの住戸の敷地部分の評価は、住戸の広さが同じであるなら、上層階でも低層階でも敷地権割合は同じなので、まったく同じ評価額になります。

 

建物の評価は、2017年税制改正以後、上層階になるほど固定資産税評価が高くなるようになっていますが、その差は10%程度に過ぎません。そのため、実勢価格差ほど建物の評価が上がらないのです。

 

つまり、タワーマンションは高層階になるほどプレミアムが上乗せされて実勢価格より高額で取引されているのに対し、相続税評価額ではプレミアム分が評価されないため、実勢価格より非常に低い評価額となるのです。これが、タワーマンションの相続で相続税額を大きく圧縮できる理由です。

 

このように、タワーマンションが「価格の高い住戸から売れる」「高層階から売れる」といわれるのは、相続税対策の効果が大きいためなのです。

2017年には固定資産税評価方法が改正された

高い相続税節税効果が生じたのは、マンション住戸に対する相続税の評価方法が、タワーマンションが存在しなかった時代に作られたものであるため、実勢に合っていないことも理由のうちです。

 

もちろん、その点は税務当局も認識し、少しずつ対応を進めています。そのひとつが、2017年の税制改正による固定資産税評価の改正です。この改正では、それまで同じ建物であれば同じ評価を適用していたのが、一定の高さを超えるマンションでは、高層階になるほど固定資産税評価額が高くなる補正計算が採用されました。くわしい計算方法は省きますが、40階の住戸は、1階と比べて固定資産税評価が10%アップされることになりました。

 

とはいえ、10%程度の差で、なおかつ建物の部分のみに関する補正であるため、現状における影響は限定的です。

露骨な相続税対策では「路線価評価否認」の可能性も

タワーマンション購入による相続税対策は大きな効果が見込めますが、あまりにやり方が露骨だと、課税当局から「租税回避行為」と認定されるリスクがあります。

 

たとえば、相続直前にタワーマンションを購入して相続直後に売却すれば、あからさまな相続税対策だと判断され、「租税回避行為」と認定される可能性が大きいでしょう。

 

この点に関しては、2019年に注目すべき裁判判決がありました。

 

2012年6月に発生した相続において、2棟のマンションを路線価方式で評価して申告したところ、国税庁がそれを否認したというものです。申告自体は「財産評価基本通達」に則った正しい計算でしたが、国税庁は、同通達の総則6項に定められた「国税長官の指示による財産評価の見直し」を適用し、路線価で評価するのは不適切だとして独自に不動産鑑定を行い、約3億円もの追徴課税を行ったのです。

 

これに納得できない相続人は、国税庁の決定取消を求めて裁判を起こしました。しかし、東京地裁は国税庁の処分を認め、「路線価に基づく相続財産の評価は不適切」としました。

 

この事件では、マンションの購入時期は相続発生の2年半から3年半前と、かなり前でした。また、相続後に1棟は売却していますが、もう1棟は相続人が所有を続けています。3年以上前に買ったマンションで、しかも1棟は相続後も所有して賃貸経営を続けているのに路線価評価が認められなかったということから、この判決はかなりの衝撃をもって受け取られました。

 

原告の相続人が控訴したため、裁判の結果が待たれますが、もしこのような判断が定着するようであれば、相続税対策としてタワーマンションを購入する場合、時期などについて、いままで以上に慎重に検討する必要が出てきそうです。

まとめ

タワーマンションの購入は、相続税対策として大きな効果があります。しかし、あからさまに相続税対策だと思われる売買をすれば、税務当局からの否認リスクがあります。もし相続税対策としてタワーマンションを購入するなら、税理士等の経験豊富な専門家に相談することをおすすめします。

 

 

※本連載は、『ライフプランnavi』の記事を抜粋、一部改変したものです。