ポルトガル「ゴールデンビザ」でヨーロッパ移住
ゴールデンビザは、投資や不動産購入により個人に対して発行される長期居住ビザです。ポルトガルの場合、50万ユーロ以上の不動産に投資することが原則ですが、都市再開発地域にある築30年超の指定中古物件に投資する場合、35万ユーロ以上からでもゴールデンビザの取得が可能です。
しかも、自分が住むための物件だけでなく、賃貸目的で購入する物件でも構いません。中古のリノベーション物件も対象に含まれますし、住宅、オフィス、商業施設など、物件の種類は問われません。またゴールデンビザを取得すると、一定の条件を満たすことで、5年後に永住権の申請ができます。シェンゲン協定によってEU諸国への自由な行き来が可能になることから、非常に人気のあるビザプログラムです(関連記事:『物価が低く、住みやすいポルトガル…「ゴールデンビザ」の魅力』)。
ゴールデンビザプログラムの大きな変更が見込まれる点は、以下の通りです。
(1)リスボン、ポルト、および沿岸地域の不動産投資によるゴールデンビザの取得はできなくなると見込まれています。しかし内陸部、およびアゾレスとマデイラの自治区での不動産投資は今回の措置の対象外です。
(2)築30年超のリフォーム済みの中古物件を対象とする35万ユーロ以上の不動産投資のオプションが、引き続き利用可能かどうかについては、まだ明確になっていません。
(3)不動産以外の投資オプションについても、最低投資額が引き上げられる可能性が噂されています。
「ゴールデンビザ」が不動産高騰の原因にさせられた!?
今回の議会承認の背景には、近年のリスボンとポルトを中心とするポルトガル不動産市場の高騰と、それに対する現地住民の不満の高まりがあると言われています。
EUROSTAT(EU統計局)によれば、2019年第3四半期のポルトガルの不動産価格は前年同期比+10.3%となり、欧州ではルクセンブルグに次いで第2位の上昇率を記録しました。特に、リスボンとポルトには海外からの不動産投資が集中しています。リスボンやポルトなどの主要都市では近年不動産価格が上昇し、多くのポルトガル人家族が中心部ではなく周辺地域の住宅を探すことを強いられています。
しかし、ゴールデンビザプログラムの変更が、その有効な対処策であるかというと疑問が残ります。2018年の統計によると、同年中にポルトガルで売買された不動産の数は242,091件、一方、ゴールデンビザ申請者による不動産購入件数は1,310件(同年のゴールデンビザ発給総数の93%と推定)となり、ポルトガルの不動産市場全体の0.54%を占めるに過ぎません。
リスボンとポルトの不動産市場の成長には他にも多くの理由があります。観光客の増加、旅行者向けの短期レンタル市場の伸長、外国人の国外所得をほとんど非課税にするNHR税制、成長するスタートアップ(起業)プログラム、ライフスタイルの選択などが、それらに含まれます。また、金融機関の低金利による融資も活発で、不動産投資を後押ししています。
さらにゴールデンビザプログラムを利用できるのは、原則的にEU以外の国々の投資家ですが、ポルトガルの主な外国人不動産投資の内訳は、21%がフランス人、18%が英国人、同じく18%がブラジル人、9%がドイツ人、7%が中国人となっています。 リスボンとポルトの不動産投資家の大半はEU市民なのです。
ゴールデンビザの規則変更は「2021年」か?
議会は、政府にゴールデンビザの変更を立法化する権限を与えましたが、最終的な立法が直ちに行われる訳ではありません。法律案が法律になるためには、次の要件を満たす必要があります。
(1)議会で議論、
(2)議会で投票
(3)大統領の承認
(4)法律の公開
法律が公開された後には、公務員がそれに従って業務に対処するために必要なすべての規制が決定され、周知されなければなりません。現時点で、それらのプロセスが完了する正確な日付を予測することはできませんが、政府当局者からの最新の声明では、ゴールデンビザプログラムの規則の変更は、2021年までは有効にならないだろうとのことです。 言い換えれば、まだリスボンやポルトの不動産を購入して、ゴールデンビザを取得する道が残されていると言えるでしょう。
不動産投資によるゴールデンビザ取得は、ビザ申請に先立って不動産を購入し、不動産登記を完了する必要があります。築30年超の中古物件のリフォームを前提とする35万ユーロ物件は、50万ユーロ以上の完成物件と比べて、登記までにかかる日数が長くなることが見込まれます。その点を考慮すると、時間的なリスクは50万ユーロ以上の不動産のほうが少ないといえるでしょう。