近年、「ビットコイン」を代表とする仮想通貨が登場し、仮想通貨で資産を築く「億り人」という言葉まで生まれました。現在ではその狂乱は落ち着きましたが、仮想通貨に将来性を見いだしている人も多くいるかもしれません。今回は、仮想通貨による資産形成について考えていきます。※本連載は、将来お金に困ることがないように、若いうちからできるライフプランニングに役立つ情報を紹介する「ライフプランnavi」の記事を抜粋、一部改変したものです。

仮想通貨バブルで、億千万円単位の利益を出した人も

2017年から2018年にかけて仮想通貨の価格が大きく上昇したことにより、巨額の財産を築いた「億り人」と呼ばれる人がたくさん登場しました。億り人とは、その名の通り「資産が1億円を超えた人」を指すスラングです。

 

普通に会社勤めなどをしている人が、投資によって資産1億円を作るのはそう簡単なことではありませんが、仮想通貨の異常ともいえる価格急騰により、たくさんの「億り人」が登場し、注目を集めました。

 

一般財団法人日本仮想通貨交換業協会のデータ(2018年4月10日一般財産法人日本仮想通貨交換業協会「仮想通貨取引についての現状報告」)によると、1億円以上の資産があるウォレットを持つ口座は、268口座あるとされています(ウォレットとは、自分の仮想通貨の記録を保管しておくデータ金庫のようなものです。仮想通貨は、あくまでデータであり、物理的な実体はないので、ウォレットに記録されたデータが仮想通貨そのものとなります)。

 

また、「日本経済新聞」2019年5月30日の記事によると、国税庁が発表した2018年の申告状況では、雑所得の収入が1億円以上あった人のうち、仮想通貨取引をしていた人は271人でした。

 

1億円以上の資産があるウォレットの数については、すべてのウォレットが対象となっているわけではない点、また国税庁のデータについては、申告していない人や仮想通貨を保有しているが売却(利益確定)をしていない人が一定数いることから、実際には上記より多くの億り人が登場していることが予想されます。

 

あくまで推定ですが、仮想通貨バブルにより、300人以上の「億り人」が生まれたと思われます。もちろん、「億」には届かなかったものの、数千万円クラスの利益を出した人もたくさんいるはずです。

仮想通貨「NEM」流出をきっかけに弾けたバブル

2017年から18年にかけての仮想通貨の急騰と暴落は、ひとことでいうなら「バブル」だったということでしょう。

 

そもそも、仮想通貨が注目を集めたのは、主に「ブロックチェーン」と呼ばれる技術により、その信頼性が担保される仕組みにより、これまでの国家や法律が信頼性を担保する法定通貨とはまったく異なる経済圏が生まれる可能性があったからです。

 

歴史を紐解けばわかるように、どんな国家にも栄枯盛衰があります。現在の世界経済の中心であるアメリカ合衆国も、かつてのローマ帝国のように、いつか没落するかもしれません。そうなったとき、現在の基軸通貨である米ドルが紙切れにならないとは、だれにもいえません。

 

ブロックチェーン技術を背景に、これまでとはまったく異なる信頼のシステムに基づいて生まれた仮想通貨は、そのような法定通貨の限界を超越するものだと考えられことから、大きな注目を集めたのです。

 

しかし、既存の国家や法律の裏付けがないということは、逆にいうと、どんな値段や価値が適正なのか、だれにもはっきりとはわからないということです。そのため、仮想通貨の価格は、取引に参加している人たちの需給関係だけで決まってしまいます。1ビットコインが100万円でも1000万円でも、それで取引が成立している以上、価格に疑問を投げかけることは無意味なのです。

 

つまり、国家や法律の裏付けがない仮想通貨の相場は、もともとバブルになりやすい性質をもっているといえます。2017年のあまりにも急激な価格上昇は、仮想通貨の可能性が正当に評価されたためというよりは、価格が上がるから買う、買うから上がるというスパイラルで取引が膨らんだ、バブル相場でした。

 

そして2018年初頭には、日本の仮想通貨交換業者コインチェックから約580億円相当の仮想通貨、NEM(ネム)が流出した事件をきっかけにバブルが弾け、暴落することになりました。

仮想通貨の時価総額は「現実離れ」したものだった

代表的な仮想通貨であるビットコイン、イーサリアム、リップルの2014年から2018年のそれぞれの年度末の時価総額を見てみると、以下のようになります。

 

[図表1]ビットコイン、イーサリアム、リップルの年度末時価総額
[図表1]ビットコイン、イーサリアム、リップルの年度末時価総額

 

いずれの通貨においても、2017年から2018年にかけて大きく上昇していることがわかります。

 

なお、ビットコインが史上最高額をつけたのは2017年12月17日で、そのときの時価総額は36兆円となっているほか、イーサリアムは15兆円(2018年1月14日)、リップルは14兆円(2018年1月8日)にまで高騰しています。

 

なお、日本取引所グループのデータ(日本統計所グループ「市場別時価総額」によると、同じ時期の上場株式の時価総額は以下のようになっています。

 

[図表2]同時期の上場株式の時価総額
[図表2]同時期の上場株式の時価総額

 

時価総額自体は株式投資の方がまだまだ大きいですが、比べてみると仮想通貨の時価総額の推移がどれだけ現実離れしたものだったかわかるのではないでしょうか。

法定通貨と連動…新たな仮想通貨の可能性「リブラ」

これからの仮想通貨の行方を占うものとして、大手SNSのFacebookが2020年後半に発行を予定している「リブラ」が注目されています。リブラがこれまでの仮想通貨と違うのは、米ドルや日本円、シンガポールドルなど、複数の法定通貨と連動し、それらに裏付けされた仮想通貨となる予定であることです。

 

先に述べたように、ビットコインやイーサリアムなど既存の仮想通貨はそうした裏付けを持たなかったがゆえに、需給関係だけで価格が決まり、その変動が大きくなります。リブラは法定通貨を裏付けとすることで、こうした問題を回避しようとしています。

 

一方、より実物通貨に近いことから、マネーロンダリングに利用される可能性もあるなどとして、G20で規制が検討されるといった話題もあります。そういった規制をクリアしたうえでリブラが登場すれば、これまでの仮想通貨とは一線を画した存在として一般的に普及する可能性があります。

仮想通貨の仕組みを揺るがす、量子コンピュータの登場

NEM(ネム)流出事件以外にも、過去に難度も仮想通貨の流出事件が起きています。しかし、それらは単純に管理上の不備だったり、悪意をもった詐欺まがいの事件だったりで、仮想通貨の本質的な仕組み自体には、問題はないと考えられてきました。

 

しかしつい最近、その根本を揺るがしかねないニュースが報道されました。それが「量子コンピュータの登場」です。

 

「日本経済新聞」の記事(2019年10月24日『グーグル、量子コンピュータの「超計算」成功発表』)によると、グーグルが開発した量子コンピュータを使って、最先端のスパコンで1万年かかる計算を3分20秒で解くことができたとしています。

 

仮想通貨は、「暗号通貨」とも呼ばれることがあるように、暗号技術を基礎として成り立っています。近い将来、「量子コンピュータ」など、現在のコンピュータより圧倒的に高い計算性能をもつコンピュータが実用化されたとき、仮想通貨を成り立たせている暗号がハッキングされてしまう可能性が指摘されています。これまでなら、解読にはスパコンで計算しても1万年かかるから、現実的には絶対安全だと考えられていた暗号が、3分で解けるようになれば、その信頼性は崩れ去ります。

 

もっとも、一方では量子コンピュータを使ってより安全なブロックチェーン技術を作れるはずだという意見もあり、専門家の間でもはっきりした結論は出ていません。

投資ではなく「投機」の対象として捉えるのがベター

仮想通貨は、よくも悪くも現状のテクノロジーを基盤にしています。したがって、量子コンピュータを含む桁違いのテクノロジーが実用化されたとき、仮想通貨がどうなるのか、どういった方向に進むのか、まったく予想ができません。そのような観点から、仮想通貨は投資対象として不確実性が高いといえるでしょう。

 

現状の主要な仮想通貨が、法定通貨などの裏付けを持たず、需給関係だけで価格が決まることからも、資産形成の選択肢ではなく、値動きによって短期的に利ざやを得る「投機」の対象としてとらえるほうがベターだと考えられます。

 

もし仮に将来への夢として、長期保有のつもりで投資をするとしても、総資産額の5%以下程度の少額にとどめておくのが安全でしょう。

 

 

※本連載は、『ライフプランnavi』の記事を抜粋、一部改変したものです。