遡ること5年前、東京の不動産市場はオリンピックによる特需などを受け、大いに盛り上がっていた。しかし一方で、人口減少による内需の先細りを懸念する声も強まりつつあった。そのような市場背景のなか、株式会社三栄建築設計は、2014年にアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスに進出する。2017年に五輪開催地として決定する3年前のことだ。本連載では、同社ロサンゼルス支店の近藤晃弘氏に、今、世界中の投資家が注目するロサンゼルス不動産への投資機会について伺った。今回は、ロサンゼルスの不動産マーケットで見るべきポイントを説明する。

土地を深く読み解き、ロサンゼルス不動産市場で勝つ

2028年の五輪決定で、世界の投資家が注目するロサンゼルスだが、進出を試みた日本の不動産会社が撤退するケースもあるという。しかし、株式会社三栄建築設計は、2014年に現地支店を開設以降、確実に建築、管理する物件を積み上げている。何が違うのか? 同社ロサンゼルス支店の近藤晃弘氏は、「私たちのスタンスは、ロサンゼルスでも変わることなく、『土地を深く読み解くこと』を大切にしている」と語る。

 

「日本の不動産市場と同じように、ロサンゼルス不動産でも、重要なのは立地です。一般的に、ビバリーヒルズやサンタモニカ、ベニス、ウエストハリウッドなど、日本人にも知られ、良い印象を持たれているエリアは、東京でいうと渋谷や広尾のイメージで、物件の価格も高く、利回りも低い傾向にあります。しかし、世界中の投資家が、このエリアの物件に投資していることからもわかるとおり、安定した不動産資産として考えるのであれば、確実なエリアといえるでしょう。また、ロサンゼルスの不動産は、過去の値動きをみても、将来的に価格の上昇が期待できます」

 

さらに同社では、前述のような安定を見込めるエリアだけでなく、将来的にさらなる値上がりが見込めるエリアでの開発にも取り組んでいる。その一例が、イーストハリウッドでの開発事業だ。

 

ハリウッドといえば「映画の街」として日本人にもお馴染みで、ウエストハリウッドは高級住宅地として知られている。一方でイーストハリウッドは、決して治安の良いエリアとはいえない。同社はここで住宅開発を手掛けているが、事業化の決め手となったのは、このエリアがもつ将来性だった。

 

ロサンゼルスマップ。ハリウッドはダウンタウンの北
ロサンゼルスマップ。ハリウッドはダウンタウンの北

 

「現在、イーストハリウッドには大手エンターテイメント会社のオフィスが移転してきて、ハリウッド全体でも観光客が増えています。そのため、ホテルやオフィスの需要が高まっていますが、ハリウッドの中央エリアでは、もう大きく開発できるところはありません。そうなると地価も割安なイーストハリウッドが次なる候補地となり、実際にさまざまな開発が進行中です。雇用が生まれれば、当然、住宅が必要になってくるでしょう。開発が進んでいけば治安も改善され、賃貸ニーズや物件価値はさらに高まっていくと考えられます」(近藤氏)

 

イーストハリウッドで進行中のプロジェクト(写真左は取得物件、右は完成予想パース)
イーストハリウッドで進行中のプロジェクト(写真左は取得物件、右は完成予想パース)

 

ロサンゼルス不動産…日本にはない「民族」という視点

「土地を深く読み解くこと」が大切だと近藤氏はいうが、ロサンゼルスにおいては留意すべきことがある。そのエリアに住む民族だ。

 

アメリカは移民国家で、「人種のるつぼ」といわれてきたが、民族は混ざり合うことなく並列共存するとして、最近は「人種のサラダボウル」と例えられている。ロサンゼルスにおいても、チャイナタウンやコリアンタウン、リトル・トーキョーのように、各民族がひとつのエリアに集まりコミュニティを形成している。民族が違えば、当然、住居に対するニーズも異なる。

 

「たとえば、日本人はセキュリティを重視するので、日本人が多いエリアであれば門をつけることを考えます。ユダヤ人は宗教上の決まりから、結婚後に家族がどんどん増える可能性があります。だからユダヤ人が多いエリアであれば、家族が増えたときに増改築できるよう、敷地を確保しておくことを考えます。中国人であれば、三世代で住むことが多いので、部屋数を増やすことを考えるのです」(近藤氏)

 

ロサンゼルス・チャイナタウン
ロサンゼルス・チャイナタウン

 

またエリアに住む家族の構成を読み解くことも大切だ。たとえば、単身者層が多く住むエリアであれば、日本ならワンルームや1K、1DKあたりを想定するが、アメリカの場合、ルームシェアも一般的なので、2ベッドルーム、つまり2LDKも選択肢となる。その際、リビングルームを挟んでそれぞれの部屋を配置するという。壁の向こうからルームメイトの生活音が聞こえてくるのを、入居者同士が嫌がるからだ。

 

また子育て世代を想定するなら、同じ2LDKでも間取りは変わる。アメリカでは乳児であっても一人部屋を用意するのが一般的であり、その隣に親のベッドルームが並ぶような間取りにするのだという。

 

「ロサンゼルスであっても、私たちが日本で行っているように、土地を深く読み解き、住む人に最適なデザイン・設計を行っています。そこに妥協は一切ありません。それこそが、ロサンゼルスにおける私たちの強みだといえるでしょう」(近藤氏)

 

次回は、ロサンゼルスで不動産投資をどのように進めればいいのか、読み解く。

 

 

取材・文/関根昭彦
※本インタビューは、2019年11月26日に収録したものです。